表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
TLS外伝 ~a crying soldier~  作者: 黒田純能介
4/50

到着


「Zzz…」


須藤は一人、自室のベッドで大鼾を掻いていた。


タンタンタンタタ~ン…。


お決まりのチャイムが流れ始め、続いて車掌のアナウンスが流れる。


『毎度ご乗車ありがとうございます。まもなく当列車は終点、札幌に到着致します。ご乗車になられたお客様お疲れ様でした。どうぞお荷物お忘れ無き様お気を付け下さいませ…』


「ふが?」


ようやく目を覚ました須藤がムクリと起き上がる。


「着いたのか…ふわ~ぁ」


大きく伸びをすると、窓のブラインドを上げる。



…光が差し込む。その眩しさに、思わず目を細める。



タタン…タタン…。


外には一面の銀世界が広がっていた。


「うほぉスゲェ。地平線まで真っ白だな」


須藤には初めての地。その感想はごく自然に口から漏れたものであった。


「ん!ん~ん…っと」


再度大きく伸びをすると、傍らにある巨大な物体を取り上げる。


「さあてと。まずはどうするかなぁ」


須藤はその物体に問いかけた。勿論返事が返る訳では無かったが。


「まっ、なるようになるさ」


ガシャンッ。


須藤はその巨大な物体を軽々と背中に負い、再度車窓に視線を送った。


…地平線から、街並みに。景色がうつろいつつあった。



--------------------------------------------------------------------------------



「ほっ、とお」


列車からホームへと降り立つ。


「うをっ…」


急激に襲い掛かる冷気に身を震わせる。


「流石に寒いなぁ」


思わず両腕を掻き抱いた。


無理も無いことである。須藤の服装はと言えば、ノースリーブのシャツ一枚に、ジーパン。これで寒くないと言ったら神経を疑われる所である。



―――が。次の瞬間には意気揚々と須藤は歩き出していた。まるで肌を突き刺す寒さを意に介していないかの様に。



スタスタスタ…。


暫し歩くと、ゲートが見えてきた。


「ん?」


ふと、周囲に目を凝らす。


…ゲートの周りには、武装した警備、最早兵士と言った方が良いだろうか、そんな人物達が集まっていた。


ゲートに視線を移す。


自分が乗っていた列車の乗客達が、荷物を兵士たちに手渡し、手ぶらの状態でゲートを通過して行く。




―――ん~。ちっと、マズイかなぁ…。




どういう状況か理解できた須藤が、苦笑いでその光景を眺める。


スタスタ…。


と、そこへ一人の兵士が近付いてきた。


「おい、アンタ」


「んん?俺?」


「ああ、アンタだ」


須藤が内心舌打ちをする。捕捉されてしまっては内密に抜け出す事も出来なくなってしまう。


「何か用かい?」


素知らぬ振りで内心を隠しつつ答える。


「ここから先は日本国内でも、治外法権だ。検査を受けてもらう。まずは荷物を渡してもらおうか?」


兵士は須藤が何も知らないと見て、簡単な説明をした。


「あ~っと…そう?」




―――ヤバイな…。流石にコイツはマズイ。




「どうした?早くしろ」


逡巡する須藤に、兵士が不信感を露にする。


「………」




―――どうする?逃げるか…?




「おいっ!」


ガチャッッ。


兵士が手にしているマシンガンを構えた。その様子に気づいたのか、他の兵士が集まってくる。



―――その時だった。



「待て。その男は私の客だ」


何時か聞いた、凛とした声。


「ん…?」


須藤はふと、声のした方を振り返った。


「また会ったな、須藤」


…そこには長い髪を揺らす女が立っていた。




―――確か…南条って女か。




ここに到着するまでの、車内の出来事を須藤は思い出していた。


「隊長!」


須藤に銃口を向けていた兵士が、銃を下ろし南条に敬礼をする。それは集まってきていた兵士たちも同様だった。


「済まんな、連絡が遅れていた。…その男は私が連れて行く。お前達は持ち場に戻れ」


「は、しかし…」


「聞こえなかったか?」


南条の目が細められる。


「り、了解しましたッ!」


再度兵士は敬礼をすると、ゲートへと戻っていった。


バタバタバタ…。


慌しく兵士達が戻っていくのを見届けると、南条が口を開く。


「…全く、お前は何も知らないのだな」


呆れた様な口調を、須藤に浴びせる。


「ア、アハハ…」


照れた様に頭を掻く須藤に、南条が身振りで着いてこい、と示す。




…コツコツコツ。


ゲートとは別の方向、待機室とでも言うのだろうか。その部屋に須藤と南条が入っていった。




「…今この地では、所謂内戦が起こっている」


コトリ、と須藤の前にコーヒーがなみなみと注がれたカップが置かれる。


テーブルの向かいに南条が座ると、再び口を開く。


「『北海道連合』…とまあありきたりな名前だが、奴等はそう名乗り、日本本州に宣戦布告してきた。声明は、独立した国家を作る、だそうだ」


ズズズ…と、須藤が話に耳を傾けながらコーヒーをすする。


「もうその内戦も、数年が経過した。…未だに終結の兆しは見えんがな」


南条はカップの中身を一口含むと、窓の外を見やる。


…外では雪がちらついていた。


「そいつらって」


不意に須藤が口を開く。


「何だ?」


視線を須藤へと戻す。


「本当に独立国家なんか作ろうとしてんのかね?」


「…さあな」


素気なく答える南条に、須藤は苦笑いを浮かべた。


「ともあれ、現在この北海道では、一部を除いて戦闘地区がほとんどだ。いきなり銃弾の雨に晒される危険性もある」


「傘一本じゃ役に立ちそうも無いな」


皮肉混じりに答える須藤に、再び苦笑いを浮かべる。だが直ぐ真顔に戻り、言った。


「…どうだ?お前が良ければ、私達と行動を共にしないか?」


不意の提案に、須藤が呆気に取られる。


「あんたらの軍隊に入れっての?ジョーダン!」


「正確には我々は軍隊ではない。レジスタンスに近い。規模は相当拡大しているがな」


「いやいや。俺はそんなつもりでここまで来た訳じゃあ無いし」


「だが」


南条がその先を遮る。


「その装備は徒の観光では無い様だが?」


南条が須藤の傍らに置かれた物体に視線を送る。


「当ては無いのだろう?それに、我々に付けば待遇も、状況も好転すると思うが?」


「………」


須藤は南条の思考を読み取ろうと、相手の目を見据えた。


「……むぅ」


少しの間の後、奇妙な声と共に、笑みを浮かべた。




―――ダメだ~。何考えてるかわかんねぇ。乗らないのが吉か。




「いやぁ、遠慮しとくよ。お誘いは嬉しいけどね」


「………」


やや間があって、ふう、と南条が溜息を吐いた。


「…そうか。致し方あるまい。無理にともいかんからな」


そう言ってカップの中身を飲み干す。


「警備には話を通しておこう。今後はフリーパスにしておく。…観光も良いが、ほどほどにな」


「サンキュ」


そう言って立ち上がり、傍らの物体を背に負う。


「…もし」


「ん?」


南条に背を向けていた須藤が振り返る。


「その気になったら、いつでも連絡してこい。その時は歓迎しよう。連絡先は…」


南条はハタ、と考え、ポケットからメモを取り出すとペンで番号を書き込んだ。


「これに寄越せ。私の専用回線だ」


「おっ。ラブコール掛け放題だな」


「その際は入隊の意思有りとして処理する」


「ハッハッハ!りょーかいっ」


おどけて敬礼をする須藤に、微笑を浮かべる。


「待っているぞ。…では私もこれで失礼する。良い旅を」


カッ、と靴音を響かせ、南条が敬礼をする。須藤はそれを見届けると、ドアを潜って行った。




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ