表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
TLS外伝 ~a crying soldier~  作者: 黒田純能介
39/50

駆けよ、運命の為


「……!」


不意に南条が振り返る。




―――…加藤…ッ!




虫の知らせ、とでもいうのだろうか。南条は敏感にそれを悟っていた。


ガチャ。


無線を手に取る。


「此方南条!加藤、応答しろ!」


…しかし、返答は無い。それは二番隊の全滅を示唆していた。


「…くッ」


後ろ髪を引かれる思いで再び背を向ける。




―――加藤までも…。




何も出来なかった自分に、歯噛みをする。


だが今は苦悩している時では無かった。時間が経つにつれ、状況は刻一刻と悪くなっていく。躊躇している場合ではなかった。


タッッ。


再び駆け出す。早くこの闘いを終わらせる為に。





「ハァッ、ハァッ…!」


薄暗い通路を、敷島が俊敏な猫の如く駆け抜ける。




―――んもぅっ!まだ着かへんのかいな!




内心舌打ちしながらも、速力は落とさない。


幸いにして、敵の気配は無い。須藤と別れてからというものの、誰とも遭遇していなかった。




―――ツンツン、大丈夫やろか…。




残してきた須藤を気に掛ける。何度か見てきた相手は、敷島にも相当な実力者だということは理解出来ていた。


一瞬、ふと考える。二人掛かりならば倒せただろうか。


…否。足手まといになるだけだ。しかし須藤も傷が治っていない状態なのも承知していた。




―――今は信じるしかあらへん…!




思考を中断し、走る事に専念する。


不安ならば南条を助けてから、すぐに須藤を助ければいいのだ。


そうして、最良の状況を反芻する。


そうしなければ、不安に押し潰されそうだったから。


今はただ、走るしかなかった。



--------------------------------------------------------------------------------



それは、不意に現れた。


…仰々しい観音開きの扉。その向こうから、扉が閉じているのにも関わらず威圧感が漂ってくる。


「………」


扉に手を当てる。


間違い無い。この先に居る。


確信すると、意を決し押し開けた。



キィ…。



右側からの光。目を細める。


…数秒で慣れると、周囲を見回す。


光の元は、右手一面に広がる窓。すぐ外は濁流渦巻く谷底へと続く奈落。


それから視線を逸らし、左手を見る。


そこはごく小規模ホール程の空間が広がっていた。

床には絨毯が敷かれ、壁際には様々な本が並ぶ棚。天井には豪奢なシャンデリア。



―――そして…。



パチ、パチ、パチ…。


拍手が聞こえた。反射的にそちらを睨み付ける。


「よぅ。良く来た」


「蒼琉…ッ!」


シャランッ!


腰に差したレイピアを抜き放ち、切っ先を向ける。


「安心しな。もう逃げやしないさ。じっくりお前の相手をしてやる」


再び現れた男、伊達 蒼琉は蒼の甲冑を身に纏い、一振りの刀を腰に差していた。


「蒼琉!今日こそ貴様を倒し、この不毛な紛争を終わらせてもらう!」


「はぁン?お前が、オレを倒すだ?仲間一人救えず見殺しにしたお前がか?」


ブチン。


おどけたような仕草で言い放つ蒼琉。


南条の中で何かが切れた。


「キサマァァァァァア!!!」


ズダンッッッ!


力の限り床を蹴り、両者の距離が縮まる。


ガギィィィンンン!!!


振り下ろしたレイピアは、半身を抜いた刀身に軌道を阻まれる。


「…そーいやどうした?その額のキズは?」


嘲る様な笑いを浮かべながら、南条の包帯が巻かれた額を顎でしゃくる。


ガギギ…。ギリギリギリ。


答える代わりに、レイピアに力を込める。


「ツレないねぇ~。相変わらず男居ないだろ?」


「…バ、カ、に…」


怒りで包帯に血がにじんでくる。


「するなぁぁぁあ!!」


ガギャギャギャ!!


無理矢理阻まれていたレイピアを振り抜く。


「…ハン」


蒼琉は事も無げにそれをいなすと、数歩後退する。


「貴様が、貴様が狂ってなどいなければ…ッ!!」


ヒュオンッ!


再び距離を詰め、神速の連続突きを繰り出す!


「オオオオッッッ!!」


ヒュンヒュンヒュンヒュヒュヒュヒュヒュヒュヒュヒュンッッ!!


カンカンカンカカカカカンッ!!


だがその切っ先は、蒼琉の刀に全て弾き返される。


「熱くなるんじゃねーよ!たかがゲームだぜ?」


「ッッ!」


ヒュンッ!ガギンンンッ!


力の限りの突きを難無く弾き返す。


「クッ…!」


手から離れそうになるレイピアを、逃がすまいと力を込め握り締める。


そこから体勢を立て直そうと大きく飛び退く。


「クッ…」


「まぁ、もうちっと話をしよーや」


蒼琉は抜き身の刀を肩に担ぎ、悠然と佇む。


「貴様と話す事など無いッ!」


南条が吼える。


「ハッ。これでもかな?」


パチンッ。


ガタガタガタガタガタ…!


蒼琉が指を一つ鳴らすと、両側の壁に据えられた本棚が一斉に壁に向かい回転する。


…かくしてそこには、おのおの武装した兵士達が居た。姿を現すと同時にライフルの銃口を南条に向ける。


タタタタタ…。


その内二人の兵士が蒼琉の側へと駆け寄り、両側に立つ。


「…コレなら、話をする気にもなるだろ?」


「………ッ」


南条が憎々しげに歯噛みをする。


「…さあて、少し話でもしよう」


蒼琉が刀を下ろす。


「…この期に及んで、何を話すというのだ」


「あぁ?決まってんだろ?」


フン、と鼻を鳴らす。


「この北海道から、出て行って貰う話だ」


「…生憎だがその話は聞けん」


ピシャリとはねつける。




―――あれだけ煽ったのに、もう冷静さを取り戻してやがるな…。




ニヤリと嗤い、後を続ける。


「…別にタダで、ってワケでもねぇ。今居るお前らの所の人員の移動費やら何やら、全部こっちで持ってやるさ。今すぐ首を縦に振ってくれりゃあ、展開中の俺の軍もすぐ引き払わせる」


「聞けんな」


即座に拒否の答えを示す南条に、今度は苦笑いを漏らす。


「ま、そーだろうな」


蒼琉は肩をすくめると、刀を収め背を向ける。


「…これ以上何をする気だ」


肩越しに振り返る。


「あぁ?…どうしようかね」


「………」


おどけた物言いに、南条の怒りのボルテージが上がるのが見て取れた。


「ま、そうカリカリなさんな。少なくとも『今は』お前をどうこうしないさ」


「何…?」


「すぐ分かる」


言って、唇の端を吊り上げた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ