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TLS外伝 ~a crying soldier~  作者: 黒田純能介
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最期の焔


「ううううおおおおああああ!!!!」


部下の一人が痺れを切らしたのか、或いは好転しない状況に発狂したのか、突如手にした小銃を乱射しながら敵兵に突撃する。


「!?」


「止せぇぇぇぇ!!」


そこから先は、あっと言う間。


敵兵の小銃から放たれる弾丸に、文字通り蜂の巣にされる。


…ドシャッ


時間にして三十秒も経っていないだろうか。


既に原型を留めていない肉塊となった部下が血の海に沈む。


「あの…バカヤロウ…!」


「………」


ゴッ。


加藤が壁を殴る。仲村は肉塊となった部下を放心状態で見つめていた。


「…げて」


「…あ?」


ぼそりと呟いた仲村を、加藤が振り返る。


「…もうダメだ。アンタだけでも逃げて。どこか他のルートを見つけて、総隊長を助けに行って」


カシュンッ。


手にした拳銃をスライドさせ、弾丸を薬室に送り込む。


「ハァ!?何言ってんだオメーは!だったらお前が…」


むんずっ。


「アタシはこの先、足手まといさね。だったら、少しでも時間稼ぎになる道を選ぶ」


カチッ。


片手でまだ何か言おうとした加藤の顔面を掴み、空いた片手で拳銃のセイフティを解除する。


「お、お前、馬鹿言うんじゃねぇ」


相当な力が掛かっているのか、思うように身動きが出来ずもがく。


「イイから言う事を…」


カンッ


「!?」


ボシュウッッ!


二人の足元で何かが爆ぜる。




―――マズい!催涙弾!




仲村は一瞬逡巡した。退くか、行くか。


「うおおおおっ!!」


だが次の瞬間には、咆哮を上げながら加藤を引き摺る様にして駆け出していた。


ダダダッ!ダンッッ!


短い助走をつけ、十字路の中央を跳ぶ。


ズガガガガガッ!


そして、弾丸の雨。


ドササッッ!


かくして二人は通路の反対側へと渡りきる。


「う、つつつ…」


加藤が打ちつけた頭を押さえながら起き上がる。


「…隊長、大丈夫…か?」


未だ加藤に覆い被さりながら仲村が問う。


「あ、ああ。無茶しやがって…」


何時までも退こうとしない仲村を訝る。


「そ…うか…」


それだけ言うと、不意に崩れ落ちた。


「お、おい……っ!?」



…視線を落とした背中には、鮮血の華。



「バカッ!何て事しやがる!」


慌てて傷口を押さえる。


「う…ぐっ…!」


痛みの為か弱々しく仲村が呻く。


「おい!大丈夫か!」


加藤は仲村を仰向けにすると、その顔を覗き込む。


覗き込んだ顔は、既に生気が無かった。


…死相。そんな言葉が一瞬浮かぶ。


「…ハ、ハハ…。ど、ドジっちまった…」


「喋るんじゃねぇ」


言いながら自らのタクティカルベストのポケットから包帯を取り出す。


パシッ。


その手を仲村が止める。


「…要らないさ…。助からないってコト位、アタシにも分かる」


フ、と微笑する。


「何言ってやが…」


言葉を続けようとした加藤の頬に手を触れた。


「ゴメンな…。式、挙げられなくて」


…顔に触れる手から、どんどん力が抜けていく。さっきはあれほど力強かった手が。


「か、帰ってから挙げりゃいいだろうがよ!」


震える声で、怒鳴る様に喋る。


「着たかったなぁ…。純白のウェディングドレス…」


ゆるゆると手が離れていく。


「…どこ?武臣…?真っ暗だよ…」


仲村の目から光が失われていく。


「俺はここだ!ここにいる!」


みるみるうちに力が抜けていく手を、強く握る。



「…やっぱり、まだ、生きたかっ…た」


仲村の瞼がゆっくりと閉じていく。



「…!」


力が消えた。完全に。


加藤は目を見開き、仲村が再び目を開けるのを待った。



だが、いくら待っても閉じられた瞼が動く事は無かった。



「………ぉぉぉぉおおおおおおああああ!!!!」



ただ吼えた。そうすれば仲村が目を覚ましてくれるとでもいうように。



ザザザザザ…。


背後で足音がする。


しかし加藤にはもう聞こえていなかった。


「………」


不意に押し黙ると、そっと、仲村の手に握られた拳銃を取る。




―――…すまねぇ、俺のせいだ…。せめて…。




ゆっくりと立ち上がる。


振り向くと、多数の兵士達が加藤を凝視していた。


ガチャッ!ジャキッ!


肩から提げた小銃と、仲村の拳銃を兵士達に向けた。


ガチャガチャガチャチャチャッ!!


それに兵士達も反応し、一斉に加藤へと銃口を向ける。




―――すんません、総隊長。コイツらが寂しがるといけねぇんで、ちょっと行ってきますわ…。




「テメェらぁ!!俺の部下をやってくれた礼をたんまりしてやるぜぇぇぇぇ!!!」


ドタタタタタタタタ!!

ドンドンドンッ!!


叫ぶと同時に両手の武器を乱射する!


ズガガガガガガガガ!!


加藤の放つ銃弾を物ともせず、兵士達が小銃を発射する。


ドドドドドドド!!


…遮る物の無い空間。いとも簡単に、放たれた弾丸は加藤の躯を抉る。


「ぐっ…あああああああ!!!」


腕を、脚を、胸を、弾丸が穿つ。


…だが加藤は倒れない。弾倉が空になるまで引き金を引き続けた。




…ゴトッ。


どれほど経っただろうか。時間にして数十秒も経っていない。


左手から拳銃が鈍い音を立てて落下した。


右手は、もう無かった。



一斉射撃は止んでいた。


…しかし、まだ加藤は立っていた。


全身銃創があり、血塗れの姿になっても、である。


既に肉体は死んでいた。彼を立たせていたのは、精神力か、はたまた執念か。




―――…やっぱり…歯がたたねぇ、か…。なら…。




今にも闇に飲まれそうな意識の中、加藤はぼんやり考えていた。


そっと、半ば千切れた左手をほぼ原型の留めていないタクティカルベストの中に差し込む。




―――コイツを…。




タンッ


…一発の銃声が響く。


それは、加藤の喉を貫いていた。



グラッ…。どさ。



とうとう、その身体が仰向けに崩れる。



タタタタタ…。


加藤が完全に倒れ、動かなくなったのを見計らい、兵士達が近寄る。


ズル…。


何かの余韻か、加藤の差し込まれたままの左手が抜ける。


コロコロコロ…。


何かが転がった。だが、気付いた時には遅かった。


ッッッッッッ!!!!!!


一瞬の煌めき。




のち、爆音。


ドガァンッッッ!!!



転がった物は、手榴弾。それも只の手榴弾では無かった。



―――焼夷手榴弾。炸裂と共に爆炎を周囲に撒き散らす殺傷武器。



加藤が最期に使ったそれは、上原に特注で作らせた強化型の代物だった。有効範囲は広がらせず、威力を高めた物。



その炎は、周囲全てを呑み込む。壁、天井、床を溶かす。


勿論その場に居る人間も。




…焼き尽くされながら、加藤が思考を巡らせる。




―――…神様よぉ、そっち行ったら、せめて盛大な式位、挙げさせてくれよな…。




無言の呟きの後、意識は途切れた。


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