Thrust
須藤と敷島、二人の脚は止まっていた。
「…待っていたぞ、須藤。最後の決着をつけようではないか」
「…オッサンもしつこいなぁ」
言いながら須藤が徒手空拳の構えをとる。しかしその顔はこの状況を楽しむ様な、或いは旧友に久方振りに会った様な微笑を浮かべていた。
…それは対峙する、奇十郎も同様であった。
「…邪魔すんなや!ウチらはねぇちゃんを助けなアカンのや!」
須藤の横で敷島が吠え立てる。
「…小娘。貴様に興味は無い。騎士を助けたくば好きにするが良い。この先は左手を壁に付けて行けば、我等が主の下へと辿り着く」
言い、須藤と正対し構える。
「ただし、貴様が行った所で何が出来る訳でも無かろうがな…」
「…ッ」
敷島が言葉に詰まる。
「ユーコ。それでも何もしないよりはイイさ。先に行っててくれ。すぐに追い付くからさ」
須藤が奇十郎から目を離さず敷島に言う。
「でも…」
「レイを助けたいんだろ?」
「うん…」
「だったら早く。俺の事は心配要らないさ」
僅かな間敷島に顔を向け、ニカッと笑う。
「…分かった。じゃあ、五分で追い付いてや…?」
無理矢理納得しつつも、やはり不安そうな面持ちで須藤を見た。
「OK。五分な」
その言葉を聞き終えると、敷島は駆け出す。
「…フハハ。見くびられたものよ」
足音が遠ざかり、聞こえなくなると奇十郎が口を開いた。
「わりぃね。そうでもしなきゃアイツも納得しきれないからさ」
ニッ、と笑う。
「ならば儂も、五分でお前を倒すとしよう」
「…へっ。無理すんなよオッサン!まだケガが治ってないだろ?」
「それは貴様とて同じ事。よくぞその体でここまで来たものよ」
ビッ、と須藤の左肩を指差す。
「痛み止めをたらふく飲んできたのさ」
フッ、と須藤の顔から笑みが消える。奇十郎も。
「…始めるか」
「あぁ」
…瞬間、音が消える。代わりに訪れたのは、身も凍り付く殺気。
「キェェェッ!!」
怒気と共に奇十郎が突進する!
ビュンッッッ!
「クッ!」
高速の手刀突きを右に躰を捻り回避すると、遠心力を応用した裏拳を浴びせる。
「フンッ!」
しかし上体を逸らした奇十郎には届かない。
ゴオッッ!
「!?」
ガコオッッ!
奇十郎がそのまま後転し、その勢いの蹴りが須藤の顎を直撃する。
「っはっ…!」
宙に浮いた須藤。その間に奇十郎は既に体勢を整えていた。
「貰ったぁぁッ!」
ヒュンッ。
瞬時に距離を詰め、嵐の様な突きを繰り出すッ!
「オオオオアアアアアアッッッ!!」
ドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドッッッッッ!!!!
「グァァァァァァァァァァァァァァァァァァッッッッ!?」
「どりゃぁぁあっ!!」
ドガァッッッ!!
「ぐはぁっっ!」
浮いたままの胴に、連打からの狙い澄ました強力な一撃を叩き込まれ、通路を十メートルは吹き飛ばされる。
ドガッ!ガンッ!ズザザザッ!
数度床に躰を打ち付けられ、やっと勢いが収まる。
「…フッフ。これをまともに受けては、貴様も立ち上がる事叶うまい」
未だ倒れたままの須藤に声を落とす。
「………」
「……フ。とうとう貴様も終わりか。儂が最期の相手で良かったわ」
ゆっくりと踵を返す。
…ピクリ
「…ぐ…ッ」
その呻き声に振り返る。
「ほう。まだ息が在ったか」
改めて向き直る。
ググググ…。
須藤が躰を起こし、立ち上がろうとする。
「…っぐ!?ガハッ!?」
直後、多量の鮮血が口から溢れ出す。
「…無理をするな、須藤。今の貴様の体内はズタズタだ」
両腕を組み、跪く須藤へと続ける。
「…勝負あったな。大人しくしておれば死にはすまい。…貴様の頑丈さには恐れ入ったわ」
フハハ、と笑う。
「ぐっ…はぁ、はぁ…。ま、まだ」
しかし須藤は、笑う膝を押さえつけ、無理矢理立ち上がる。
「五分は経っちゃいないぜ…」
「愚かな。そのまま寝ておれば死ぬ事もあるまいに」
ザ…。
再び構えをとる。
「…はぁ、はぁ…。約束が、あるんでね…」
ガシャンッ、スタンッ。
須藤が背中の大剣を取り、床に突き立てる。
「…武器を捨てるか。まだそれがあれば勝機があるかも知れぬと云うのに。気でもふれたか?」
奇十郎が目を細める。だが、須藤の目は闘う意思を棄てていなかった。
「…へへっ…。何もコイツは武器になるだけじゃない」
ゆっくり構えをとる。
「枷でもあるのさ」
ズンッッ!!
言い終わるや否や、両脚を広げ強く床を踏み締める。
コォォォォ…
須藤の呼吸音が響く。
「…ほう」
闘気、とでも言うのだろうか。目に見えない圧迫感が奇十郎を襲う。
「この様な隠し球を持つとはな。出し惜しみしおって」
笑みを浮かべつつも、額を嫌な汗が伝う。
「…来いよ。もうさっきのは喰らわない」
「ぬかせ。往くぞ!」
ダンッッ!
奇十郎が床を蹴った。




