ただ進め、目的の為に
時は再び戻る。
南条達が先行し、ホールへと戻った頃。
タタタタタ…。
「…むっ」
ホールの明かりを認め、スピードを落とす。
コツコツコツコツ。
ゆっくりと入口に近付くと、内部の様子を窺う。
「………」
…果たして、数十人は居たであろう兵士達は居らず、ただ一人の兵士が奥へ続く階段の前に直立不動で立っていた。
コツ、コツ。
その姿を認めた南条がホールへと歩みを進める。
―――嶋田は上手くやってくれたようだな…。
兵士に近付きながら、恐らくはもう散ってしまったであろう者に感謝する。
コツコツ、コツ。
「…通して貰おうか」
兵士の前に立つと、努めて冷静に、凛とした声を掛けた。
『…蒼琉様の伝言をお伝えする』
そこで初めて、兵士が反応を返した。…フェイスマスクでくぐもった声が続く。
『第一関門クリアおめでとう。部下を犠牲にしての動き、見事だった。次の関門は…』
「テメェッッッ!!」
ガチャッッ!
加藤が突如吼え、肩に下げたアサルトライフルの銃口を兵士に向ける。
「止せ加藤ッ!」
呼応するように南条が叫び、首を巡らせる。
「勝手な真似は許さん…」
ギロリと睨み付ける。
「…う」
それだけで圧殺されそうな気迫。気圧され、加藤がたじろぐ。
「…続きを言え」
正面に向き直り、先を促す。
『…道をただ真っ直ぐ進め。そうすれば俺の元に辿り着く。…以上だ。通れ』
何事もなかったかの様に伝言の続きを告げると、兵士が道を空ける。
「…行くぞ」
南条は振り返る事無く後続に言うと、階段へと脚を掛ける。
「…へい」
通過しながらも、加藤が兵士を睨み付ける。対する兵士は前を向いたまま微動だにしない。視線をギリギリまで向けていたが、すぐ南条の背中に戻す。
―――待ってろよ…。お前らの仇はとってやるからな…。
そう、心に誓い加藤は進む。肩から下げたアサルトライフルのグリップを固く握り締めたのだった。
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何処までも続きそうな薄暗い通路。
南条達はひた進んでいた。
「………」
誰も言葉を口にしない。重々しい空気が広がっていた。
通路に関してはただ一本道であった為、迷う心配は無い。
…だが南条は妙な違和感を覚えていた。
―――…おかしい。ヤツがすんなり私達を通す筈が無い…。
しかし南条のそんな思いとは裏腹に、何事も無く歩は進む。
「………」
―――どっからでも出てきやがれ…。一人残らずぶっ潰してやるぜ…。
ギラギラした目を巡らせながら加藤が警戒しつつ歩く。
ツンツン。
不意に上着の裾を引っ張られ、そちらを振り向く。
「あぁ?」
思わず声を荒げてしまう。
「声がデカいっつーの。もっと落ち着きなさいよ」
仲村がたしなめる。
「…落ち着いてられっかよ」
フンッ、と鼻を鳴らす。
「分かってるわよ…。アタシだって、ハラワタ煮えくり返ってる。でもさ」
抑え目の声を更に潜める。
「総隊長はもっと辛いハズなんだから。だからアンタがしっかりしなさい」
「………」
…加藤はムスッとした表情のまま歩いていたが、先程までの落ち着きの無さはやや薄れていた。
―――素直じゃないなぁ…。
仲村は苦笑すると、引っ張っていた裾を離す。
カツカツカツ。
ひたすら真っ直ぐな通路を歩き、やがて十字路に差し掛かる。
「………」
一瞬逡巡するが、そのまま真っ直ぐ進む。
―――と。
「!?」
バッッ!
違和感を感じ、即座に十字路を挟んだ反対側の通路へと飛び込む。
ズガガキュンッッ!!
つい先程まで自分が居た位置を、小銃の弾丸が抉る。
「総隊長ッ!」
通路の陰に隠れながら加藤が叫ぶ。
「大丈夫だ!問題無い!」
言いながらM10の弾倉を確認する。
カキンッ。カシャッ。
弾が十分残っているのを確認すると、再装填。
「……ッ!」
一呼吸。
バッッ!
そして飛び出し引き金を引く!
タパパパパパパッ!
カカカカカコンッ!
放たれた弾丸は、床を削り、壁を抉る。
…だが、敵兵達は物ともせず小銃を向ける。
―――弾丸が弾かれている…?
ズガガガガガッ!!
「クッ!」
飛来する弾丸を避ける為、再び通路に隠れる。
「ヤロウッ!」
ドタタタタタタッ!
加藤が射線から外れているのを見るや否や飛び出しアサルトライフルを乱射する。
カカカカカカキュン!!
しかし敵兵達は意に介していない。
「ちくしょおおお!!」
ガチッ、ガチッ。
あっという間に弾切れを起こし、後退を余儀なくされる。
―――あのボディアーマー、相当な代物だな…。武装も最新鋭の物を使ってる。
南条は一瞬暗がりでチラリと見えた敵兵の装備を思い返していた。
ジリジリ…。
全身黒鎧に身を包んだ兵士達が距離を詰めてくる。
「これでラストか…」
南条はポケットに残った最後の弾倉を握り締めた。
ガシャコッ。
考えていても仕方がないと思考を切り替え、弾倉を装填する。
カチッ。
一度掛けたセイフティを解除。そして通路を挟んで反対側の加藤達を見やる。
…コクリ。
加藤が頷く。それに頷きを返す。
―――三、二、一…ッ!
ザザザザッッッ!!
タパパパパパパッ!
ドタタタタタタッ!
ガガガガガガガッ!
五人全員が通路中央に躍り出ての一斉射撃。流石に敵兵も面食らった様子を見せ、数歩後退していく。
「今だッ!進めッ!」
南条の号令に、加藤の部下二人が反対側へと駆ける。
ガチャガチャガチャチャッ!
体勢を整えた敵兵達が再び小銃を向けた。
ズガガガガガッ!
「ぐあっ!」
部下の一人が間に合わず銃弾を脇腹に受ける。
「チィ!」
タパパパパパパッ!
既に通路の陰へと退避していた南条が即座に反応し、再びサブマシンガンを乱射する。
カチカチッ。
だがすぐに弾切れを起こす。
「ッ!」
南条はサブマシンガンを投げ捨てると、もう一人の部下と倒れた部下を通路へと引き摺る。
「このヤロオオオッ!」
反対側では加藤が仲村と共に奮戦していた。
「おいっ!しっかりしろッ!」
南条が倒れた部下に呼び掛ける。
「う…ゲホッ…」
弱々しく血を吐く。
「大丈夫だ、傷は浅い!」
励ましの声を掛けるが、誰の目にも致命傷なのは明らか。ましてや治療など出来る筈もなかった。
「そ、総隊長…」
息も絶え絶えに部下が口を開く。
「どうした!しっかりしろッ!」
「自分は、もう動けません…。さ、先に行って下さい…」
「何をバカな…」
「…貴女は、皆の希望なんです…。こんな所で死んではならない…」
グググ、と体を起こす。
「俺なら、大丈夫…。まだ闘えます」
「総隊長ッ!早く先に行って下せぇ!後は何とかしますぜ!」
通路の向こうで加藤が叫ぶ。
「ほら、隊長もそう言ってます。だから…」
部下がジッ、と見つめてくる。
「……分かった」
皆、南条を先に行かせる為に死を賭していた。
それは痛い程伝わっていた。
部下を見捨てたくない。
…そんな想いと、
部下の自分を助けようとする想い。
その間で揺れ動いていたが、とうとう南条は折れる事となった。
ここで共に闘い、結果死する事となったら―――。
最悪、自分一人だけであれば仕方無いと諦めも付く。
だが、ここに来るまで多数の犠牲を払ってしまった。
上原、嶋田、それに拠点に残してきた部下達。死ぬなとは言ったものの、無傷であろう筈が無かった。
だから、立ち上がりその場に背を向ける。
「必ず奴を倒す。…死ぬなよ」
振り返ること無く告げる。
「…はい」
傷が痛むのか、辛そうな返事を返す。
タッ。
振り返る事無く駆ける。
総ては、道の平穏の為に。
「…行ったな」
「…そうね」
加藤と仲村、そして対岸の部下と協力し敵兵を銃撃する。
相変わらず弾丸は通用しないようで、足止めするのが精一杯の体だった。
「参ったぜ…。コレじゃ、弾切れを待つだけだぜ…」
ダンッダンッ!
「アンタ、何か持ってきてないの!?」
既に弾切れになってしまったのか、仲村が拳銃に持ち替えて応戦しながら怒鳴る。
「…面目ねぇ」
ダンッ!
「んもうっ!」
装填されている弾倉の残りを撃ち尽くすと、通路の陰に引っ込む。
「オラァァァア!」
ドタタタタタタ!
対岸では一人、加藤の部下が小銃を乱射する。
ガチガチッ。
弾切れ。退がると同時に加藤が飛び出し撃つ。
ガキンッ。ガシャコッ。
空の弾倉を放り出し、予備を装填する。
「おいっ、生きてるか?」
「………」
倒れた相方から返事は無かった。
「……!」
振り返る。
…既に事切れていた。しかしその表情は穏やかなものであった。
「……総隊長を送り出して、いったか」
カチッ。
―――セイフティ解除。いつでもいける。
加藤の弾切れを待つ。
そして飛び出し撃つだけだ。




