五番隊
「うん。これで良し、っとぉ」
南条達が管制室前で交戦中、加藤、上原の二番隊と五番隊は無事武器庫へと到着。破壊工作の為爆薬を設置していた。
「よぅ、全部終わったかぁ?」
通路を警戒していた加藤が戸口から声を掛ける。
「あぁ。終わったよ~。後は頃合を見て起爆するだけさ~」
相変わらず間延びした声で返答する。
「よっしゃ。んじゃあとっととズラかろうぜ!」
「あ、その事なんだけどさ」
「あん?」
不意に上原が切り出すのを見て、加藤が眉をひそめる。
「さっきここの図面を見つけてさ。少し奥に行った所でもう二箇所武器庫があるらしいんだ」
言いながら手にした図面を加藤に手渡す。
「おう、なかなか目ざといな。じゃあ行こうぜ!」
「いや、僕等だけで行くよ。時間が掛かりすぎてしまう。二番隊のみんなは総隊長と合流してよ」
「…なんだぁ?やけに殊勝じゃねぇか」
加藤が目を丸くしながら上原を見返す。
「総隊長も命懸けなら、僕等も見習わなきゃ」
言って、微笑を返す。
「へっ、言ってくれるじゃねぇか。…分かった。あぶねぇと思ったらまず逃げろよ」
「はいよ~」
加藤から図面を受け取り戸外へと出ていき、部下達が後に続く。
「ああ、ちょっと待てよ」
「ん?」
上原が振り返ると、一丁の小銃が飛んでくる。
「わっ!ととと!」
慌てて胸にかき抱く。
「コイツらの武器だ。そこら辺にあったヤツだが、キチンと整備されてる。持ってきな」
「危ないなぁ。ちゃんと手渡ししてくれよぅ」
上原はそう言って、あまり慣れていないのかもどかしげな手つきで弾倉を確認する。
「AK―47ね…。最近アサルトライフルは持ってないんだけども…」
ブツブツ言いながら弾倉を戻す。
―――AK―47。当初旧ソビエトで設計、生産され、現在も『壊れにくく使いやすい』と言う逸話が伝わっている優秀な小銃である。7.62ミリ弾を使用し、装弾数三十発。
因みに、『アサルトライフル』とは単発、連射の切り替えができる小銃の事である。
「ハッハッ。悪りぃ悪りぃ。ま、お前さんでもそれは使えるだろ」
「まぁねぇ」
よっ、と言いながらレバーを引き、弾を弾倉から銃身に送る。
「お前らも持って行きな」
言って、上原の部下達三人にも投げ寄越す。
「「「わっとと」」」
三者同様の反応を返し、胸を撫で下ろす。
「んじゃあ、後頼むぜ。総隊長が蜂の巣にされちまっちゃ困るからな」
ガッハッハ、と豪快に笑うと、元来た道を戻り始める。
「はいよ~。折りを見て僕等も合流するよ」
「気、付けてね」
仲村が手を振り、加藤の後を追う。
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コツ、コツ。
小銃を構え、シンと静まり返った通路を進む。
「…誰もいないなぁ」
誰に問うまでも無く、一人呟く。
「隊長、こっちであってるんだよねぇ?」
部下の一人が、上原同様やや間延びした声で尋ねる。
「うん。道筋的にはこのルートで合ってるハズだけど…」
ポリポリ、と空いた左手で顔を掻く。
加藤達から別れて数分。上原達五番隊は慎重かつ素早く行軍し、施設内のやや離れた武器庫へと近付いていた所だった。
ここまででただの一人も敵兵に遭遇していなかった為、五番隊の全員が訝るのは不思議では無かった。
「ふ~む」
懐から先程見つけた図面を取り出すと、ここまでの道程を指でなぞる。
―――別に間違ってないなぁ…。
首を傾げながら更に歩みを進める。
「あれっ?」
突然部下の一人が声を上げた。
「んん?どした?」
「あれじゃないですか?」
部下が指差す方向を見ると、通路の突き当たりのT字路に一つの頑丈そうな鉄扉があった。
「あ。本当だ。位置的にもここだな~」
上原が図面を片手にのんびりと呟く。
「んじゃあ、行こうか~」
再び歩みを進める。
鉄扉に辿り着くと、ドアノブのすぐ脇にテンキーがあった。
「ナンバーロック…。コイツの出番かな?」
ガチャガチャとノブを回すが、扉が開く気配が無いのを見て上原が懐から小型の機械を取り出す。
「コイツを接続、と」
テンキーのカバーを外すと、現れた端子にハーネスで機械を繋ぐ。
『ピピッ』
機械が電子音を発し、小型のモニターに数字の羅列が浮かび上がる。
―――桁が多いな…。二十秒位掛かるかな?
そう思っていた時。
ガゴォォンッッ!!
「!?」
何か重い物が落ちてきた音が、両側から聞こえた。
「な、何だぁ?」
部下達が通路の奥に目を見張る。
ゴゴゴゴ…。
暗がりの奥、何かが向かってきた。
ゴゴゴゴゴゴゴゴ…!
「うわっ!?」
姿を現したのは、通路一杯の大きさの剣山。それが徐々に迫ってくる!
「たっ、隊長~っ!」
流石にのんびりしていられない部下達が上原を煽る。
後方の元来た道ならばトラップは来ていない。だが、いつ他のトラップが発動するか分からない。上原は腹を決めた。
「慌てちゃ駄目だよ。各員、クレイモア設置」
「り、了解!」
「あ、あいよっ!」
「お、OK!」
部下達が反応し、迫り来る剣山に正対する。
カチャカチャカチャッ。
床に指向性地雷、クレイモアを設置する。
「二つずつ、計四基設置しましたっ」
「うん。時間と距離は十分だね。これであの剣山を破壊出来なかったら僕等は仲良く串刺しって訳だ」
「………」
おぞましい事を言い出す上原に部下達が顔をひきつらせる。
「さて、こっちももう少しかな」
剣山が地雷の反応するギリギリまで近付く。
『ピピーッ』
ズガンンンッッ!!
電子錠が解除されるのと同時に、地雷のセンサーが反応。剣山に向け爆風と内蔵されているベアリング弾を発射する。
―――クレイモア。かつて米軍で使用され、主な用途としては対人の地雷として使われていた。湾曲した箱の形状をしており、地中ではなく地上に敷設する。内部には爆薬とベアリング弾=鉄球が入っていて、起爆と同時に扇状の範囲に鉄球が発射される。
ここで設置したのは、上原が独自に改造をしたクレイモア地雷である。本家より破壊力を強化した代物。多少の鉄板程度なら風穴が空く威力を有していた。
ガンッッ!
しかし上原はトラップが破壊されたかどうか確認せず、開錠された鉄扉を蹴開ける。
タタタタタ…。
すぐさま部屋になだれ込み、鉄扉を閉める。
「………」
耳を澄ます。外からは何も聞こえない。
「うん、上手くいったみたいだ」
その言葉に部下達がへたり込む。
…破壊には至らないだろうと上原は踏んでいた。すぐさま武器庫に侵入したのは破壊できなかった場合の事を考えてである。
「よし、んじゃあさっさと始めようか~」
あまりにもにこやかに作業開始を宣言する上原に、部下達は冷汗を浮かべたのだった。
…数分後。
「おっけ~。こっちは終わり~。みんなはどう?」
上原が作業を終えると、部下達を見やる。
「終わりです~」
「終了~」
「OKです~」
落ち着きを取り戻した部下達が、同じく作業終了を告げる。
「よし、じゃあ次行こうか~」
はい~、と部下達が答え、鉄扉に向かう。
…扉を開けると、やはりトラップは停止していた。上原の予想よりも激しく破壊され、両側の剣山は半壊している有様だった。
ガチャッッ!
「!?」
不意に聞こえた音。しかしそれを確認する事はできなかった。
ドタタタタタタッ!!
まるでマリオネットが踊る様に、部下達が体を踊らせる。
…一斉掃射の音が止むと、部下達が自ら作り出した血の海へと沈む。
「…何てこった」
一人、まだ部屋の中にいた上原はその憂き目を免れていたのだった。
ガチャガチャガチャガチャッッ!
両側の通路から兵士達が躍り出て、武器庫内部の上原へと銃口を向ける。
『動くな』
兵士の一人がヘルメットの奥からくぐもった声で命ずる。
「成程。こういうトラップね」
上原が茫然と呟く。
『…爆薬を取り除け』
先程の兵士が上原に命令する。
「…イヤだって言ったら?」
タンッ!
「ぐあっ!?」
兵士が返答の替わりに、上原の脚を撃ち抜く。
『もう一度言う。爆薬を取り除け』
床へと無様に倒れた上原に冷たい言葉を浴びせる。
「う…ぐ…」
片脚と両手を使い、よろよろと立ち上がる。
「ふ、ふふっ…。そんな事できるわけ無いでしょ」
ガチャッッ!
兵士が上原の眉間に照準を合わせる。
『次は撃つ。…もう一度だけ言う。爆薬を取り除け』
―――どうやら、僕もここまでのようだね…。
「ごめん加藤、合流は無理みたいだよ…」
一人呟くと、懐に手をやる。
兵士達はその動きを黙って見ているだけだった。
…上原の唯一の幸運は、その時に撃たれなかった事である。
小さな物体を二つ取り出す。
左手には灰色の四角い箱を持ち、右手には黒い長方形の板状の物を持つ。
そして、目の前の兵士達へ、見せびらかす様に掲げる。
「これ、なーんだ」
「…!!」
瞬間的に上原の意思を悟った兵士が戦慄する。
それを阻止しようと、引き金を絞った。
「遅いよ」
ガチッッ!
長方形の物体のスイッチを、兵士が引き金を絞りきるより速く押し込む。
カッッッ!
部屋中にまばゆい閃光が一瞬で広がった。
―――総隊長、後は、頼みます…。
ズガァァァァアン!!!
閃光に続いて、耳をつんざく轟音と、凶悪な火焔が部屋一面に一瞬で広がる。
それは敵味方関係無く、全てを呑み込んでいった。




