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TLS外伝 ~a crying soldier~  作者: 黒田純能介
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敵地


ウォォン…。キキッ。


一台のバイクが、山深い山道に止まる。山中でありながら妙に綺麗な道である。


『…着いたぜ』


「ほいっ、とお」


須藤がくぐもった声を後方に送ると、タンデムシートから掛け声と共に敷島が飛び下りる。


「うぅっ…。流石にちょっと寒かったわぁ」


身震いをし、ゴーグルを外すとジャンバーを着込んだ体を掻き抱く。


「そうか?俺はそうでも無かったけどな?」


フルフェイスヘルメットを脱いだ須藤がニヤリとする。


「…アンタ、どーいう鍛え方しとるんや…」


呆れた、とでも言う様に敷島が須藤を見やる。


ちなみに須藤はやはりノースリーブにズボン、ブーツ、そして背中に大剣、といういでたちである。


「鍛え方が違うのさ。…さてと」


ヒュオオ…。


須藤の顔から笑顔が消える。


その視線の先には、断崖に侵食するように造られた施設。いや、要塞とでも言った方が良いのだろうか。それ程物々しい建物がそこに在った。


「って」


不意に敷島が声を上げる。


「この断崖絶壁どーすんねん」


スパンッ、と須藤の右肩を叩く。


今二人の眼前には、要塞の手前にあまりにも深い絶壁が広がっていた。


…かなり下方には濁流が窺える。



…ゴクリ。


それを覗いた敷島が生唾を飲み込む。


「ああ、それなら大丈夫」


須藤が言いながら明後日の方角を指差した。


「へ?」


その先に視線を送る。…果たしてその先には、古ぼけた吊り橋が架かっていた。


「…え、えーっと…。ウチには何も見えへんけど?ん?」


明らかに狼狽の色を隠せない敷島に破顔する。


「あそこを行かないとなると…。大幅に遠回りになっちまうぜ?」


悪戯っぽい笑みを浮かべながら、敷島に是非を問う。


…まあ、『非』の選択肢は無いと思っていたのだが。


「う…」


敷島が一歩後ずさる。


「俺は行くぜ。レイを助けなきゃならねぇ」


回れ右をしてサッサと歩いていく。


「ま、待ちぃな!ウチも行く!」


そんな須藤を敷島が追っていった。




…ドオォォォ…。


遥か下方から、濁流の砕ける音。


吊り橋は架けられてから相当の年月が経っているらしく、あちこちに苔が生えていた。


…ゴクリ。


敷島が再び生唾を飲み込む。


「先に行くぜ?」


その様子を見やると、須藤が一歩踏み出した。


ギリギリギリ。


嫌な軋みを経て、吊り橋が揺れる。


「…うん、大丈夫そうだ」


頷くと、両脚を板の上に乗せる。橋は揺れるだけで奈落の底に落とそうとはしなかった。


「結構しっかりしてる。行こうぜユーコ」


「う…うん」


頷くと、大きく深呼吸。…そして一歩踏み出した。



-----------------------------------------------------------------------



ギィ…ギィ…。


足を踏み出す度に嫌な音がする。


「…ッ」


そしてその度に敷島が息を呑む。


「だぁいじょうぶだって!ホレ!」


グラグラグラ。


須藤が橋のロープを掴んで小刻みに揺らす。


「ヒッ…!や、やめぇや…ッ!」


情けない声を上げる敷島にまたも破顔する。


…とてもこれから大事な人間を助けに戦場へ行こうとする者達には見えなかった。


だが、お互い内心では分かっている。この先、恐らく無事では済まない事を。


だから須藤は放っておかなかった。そのままであれば、メンタル的にマイナスになってしまいそうな敷島のケアに努めたのだ。


「ユーコは高所恐怖症かぁ。覚えておこう」


にっひっひっ、とわざとらしく笑う。その間に須藤は一歩一歩着実に進む。


…流石に地面を歩くようには進めなかった。先を行き、足の裏で板が腐食していないか確認しながら進行する。


「こ、ここまできたら関係あらへん…っ」


必死に一歩を踏み出しながら、敷島が反論する。


「まあまあ。隠さなくてイイから」


「だからちが…」


敷島が否定しようとした時。


チュイィンッッッ!


二人の間を、高速の小さな物体が通り過ぎていった。


「!」


「ななな、何やッ!?」


キッ。須藤が飛来物の元を睨む。




―――見つかっちまったか!




須藤には何が通り過ぎたか理解出来ていた。




―――ライフル弾。こんな所で狙撃されたらひとたまりもねぇッ!




視線の先には、要塞の中腹からライフルを構える兵士の姿が在った。自分の放った弾が外れたのを認識したのか、排莢動作に移っているのが見えた。


「ユーコ!走れ!」


「はっ?そんなんこの状況を…」


見てから言え、と言う前にむんずと腕を掴まれ引き寄せられる。


「ひっ!ひえぇっ!?」


「ダメなら運ぶっ!」


なかば硬直している敷島を無理矢理脇に抱える。と同時に板の上を飛ぶように駆け始めた。


「ひぇぇぇぇ!」


悲鳴を上げる敷島。その間にも、銃撃が二人を襲う。


ヒュンッ!チュイィン!


「!」


バスッッッ!


渡りきるまで後十五メートルという所で、飛来した弾丸が頼りなく揺れる吊り橋のロープを引き裂く。




―――マズいッ!




バランスを崩し始める橋。足元が翻弄される。


「…んのッッ!」


タンッ!スタンッ!


崩れ始めた橋を一足飛びに駆ける。


「うおおおっ!」


タンッッ!


最後の五メートルを、一気に飛ぶ。


…ズザザザザッ!ドササッッ!


「…痛ぅ~」


「イタタタ…」


見事渡りきったものの、二人共無様に地面へと転がる。


「ユーコ、ケガは無いか?」


服に付いた砂埃を払い落としながら問い掛ける。


「う~。いくらなんでもやりすぎや…」


憮然とした表情に、敷島が無事であると確認する。


「悪い悪い。モタモタしてたら蜂の巣だったからな」


「…いや、エエんや。それより急がんと、追っ手が来るで」


「ああ。後は突っ込むだけだ」


振り返り、木々に埋もれているという入口を探す。



ガサガサガサ。


木々を分け入ると、岩肌に備え付けられた鉄扉が現れる。


「コイツだ。非常口として使ってるらしい」


カチャッ。キィィィー…。


そっと開放し、内部へと進入。誰も居ない事を確認し敷島を中へ呼び込む。


「…誰もおらへんな…」


ぼそりと呟く。


「いや…様子が変だ。さっき見つかったのに、警報一つ聞こえない」


「…あ」


敷島が声を上げる。


「そうか」


遅れて須藤が気付く。


そう。南条達だ。この時点でもう南条達は管制室を制圧していたのである。


「急がな…!ねぇちゃんが無茶する前に合流せな!」


「ああ。分かってる。行くぜ」


二人は頷き合うと、誰も居ない廊下を駆け出していったのだった。


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