突入
ブロロロロ…。
何事も無く検問を突破した南条達のトラックが、山中の悪路を走行していく。
既に道は一本道となっており、迷う事は無くなっていた。
「この分ならスンナリ着けそうですぜ」
鼻歌交じりに加藤が言う。
「そうだな」
それに対し、素っ気なく返す南条。
―――妙だな…。罠すら仕掛けられている気配が無い。一体どういう事だ…?
「おっ!?」
不意に加藤が声を上げた。即座に反応する。
「どうしたっ!?」
背後の荷台からも緊張が伝わってくる。
「見て下さいよ。連中のトラックが停まってる」
加藤が指差す前方を振り返る。
…確かに、一台のトラックが停車していた。傍らには小さな小屋。
「様子が変だ。…誰も居ない様に見えるな」
「着けますか」
その言葉に頷く。
ブロロロロ…。キキッ。
軋みを上げ、トラックの後ろに停まる。
ガチャガチャッ。
「仲村。お前達はバックアップを頼む」
「あいよっ」
荷台に声を掛けると、加藤と共に前方に停まるトラックへと近付く。
ザッ、ザッ…。
「………」
「………」
慎重に近付く。加藤は懐の拳銃に手を掛け、南条は腰のレイピアに手を置く。
スッ…。
運転席を覗く。
誰も居ない。それどころか、荷台からも気配はしない。
「誰もいねぇな…」
「荷台もだ。負傷者一人居ない」
後方を調べていた南条が戻ってくるなり言った。
「そーなると…」
「この小屋が怪しいな。調べるぞ」
「了解ィ!」
加藤は大仰に敬礼をすると、拳銃を抜き小屋に近付く。
ザッ…。
加藤がドアノブに手を掛ける。
「………」
「………」
二人は目を見合わせると頷く。
バアンッ!ジャキッ!
一気にドアを開け、内部に銃口を向ける。
…動くものは無い。
加藤が先頭に立ち、足音を立てぬ様一歩、一歩と歩を進める。
「………」
「………」
耳が痛くなる程の静寂。…やはり何も無い。
「…妙だな」
ぽつりと漏らす。
「変ですねぇ」
辺りを警戒しながら加藤が相槌を打つ。
「もう少し調べてみよう。加藤。お前は皆を連れてきてくれ」
「イエッサ!ボス!」
「ボスは止めろ。早く行け」
了解ィ!と加藤が飛び出していく。その背を追うのも程々に、周囲を見渡す。
…ガランとした暗い小屋。どこにも隠れる場所など無い。だが南条の勘は怪しいと告げていた。
「………」
壁、床、天井。くまなく視線を這わせる。
…やがて、床の一角に目が留まる。
「…?」
巧妙にカモフラージュされているが、南条の目は誤魔化しきれなかった。
―――タイルが浮いているな。これか。
シャラッ…。
レイピアを抜く。
「ハッッッ!」
スタンッッ!
タイルの隙間に、レイピアの切っ先を滑り込ませる。
バキキ…バキッ。
梃子の要領でタイルを剥がす。
果たしてその先には、小さなパネルが在った。
蓋に手を掛け、開く。…中にはボタンが二つ。『開』と『閉』。迷わず『開』を押した。
ゴゴゴウンッッ!
「!」
地鳴りの様な音に顔を上げる。
…今まで壁しかなかった場所に、ポッカリと洞窟の様に口を開けた地下への階段が現れていた。
中を覗き込む。数十段降りた先に、薄暗い照明に浮き上がるドアが見えた。
ザザザザザ…!
足音に振り向くと、加藤を始め部下達が集まってきていた。
「総隊長ッ!何かスゲー音しましたが大丈夫ですかぃ?」
「問題無い。それより見てみろ」
身振りで現れた階段を示す。
「隠し階段か~。通りで見つからなかった訳だ~」
間延びした声で上原が言う。
「上原ぁ、オメーはもうちっと緊張感持てよ!」
僅かな苛立ちと、笑顔を隠さず加藤が上原にがなり立てる。
「まぁまぁ~。焦ってもしょうがないでしょ~」
ツツツ…、と階段に近寄りながら返す。
「上原。トラップの類は在るか?」
「ん~…。見た限りは無さそうですねぇ~」
細い目を更に細めて内部を窺いながら答える。
「そうか。ならば突入するぞ。先頭は私と二番隊、殿は九番隊に任せる」
「了解…」
嶋田がぼそりと答える。
「行くぞ」
レイピアを鞘に収め、階段に足を掛けた。
…そのドアは、ろくに整備されていないように見受けられた。全体的に錆びが浮き、ノブを固定していたであろうネジは半数が外れ、今にも落ちそうだった。
カチャ…。
ノブを捻る。見た目とは裏腹に、すんなりと回った。
そっと押すと、鍵は掛かっておらず、嫌な軋みを立てその口を開く。
「………」
様子を見る、と後続に合図し、不気味な程静まり返った廊下に、一歩踏み出す。
数メートル進んだ所で『来い』と合図をした。
カチャカチャカチャ。
小走りに移動する部隊の装備が僅かな音を立てる。
「居ますかい?」
流石に声のトーンを落とした加藤が、南条に問い掛ける。
「いや…。周辺には居ない様だ」
後方を振り返り、全員が揃ったのを確認する。
「よし、作戦を確認する…」




