出撃
「加藤、遅いぞ」
戦場から戻ってきたばかりの加藤を睨む。
「すいやせん。チョイと調子に乗り過ぎちまいまして」
加藤が頭を掻く。
…既に上原、嶋田両隊は集合し、トラック内で待機していた。
「ごめんなさいね総隊長。…ったく、退き際位見極めろっつーに」
仲村が加藤を小突きながら更に悪態を突く。
「…まあ良い。それより急いでもらおう。あまり時間は無い」
「へい!了解!」
「あいよ!」
加藤と仲村、他二名がトラックへと乗り込む。
「…黒田」
振り返り相手の目を見る。
「…はい」
南条の目を見返す。
「…また会おう」
返事を待たずに踵を返す。
「…お帰りを、お待ち致しております…」
その背に恭しく礼をしたのだった。
一方須藤は。
「おおおりゃぁぁあ!」
バカンンンンッッ!!!
手にした大剣の腹で、襲い掛かる敵兵数人を薙払う。
既に敵は撤退を始めていたが、未だに襲い掛かる者もまだ居る。それを適当にあしらいつつ須藤も後退している所であった。
「よっ、と。そろそろ逃げよ」
ガシャンッ。
布にくるまれたままの大剣を背に負うと、そそくさと走り出す。
味方部隊もほぼ引き上げつつあった。その中を飛ぶようにして走り抜ける。
―――やべ。ゆっくりし過ぎたかな…。
ダダダダダダダ!
徐々に速力を上げていく。拠点は最早目と鼻の先だった。
「…おや?」
黒田が再度指揮を採るために、前線に向かおうと拠点正門前へと戻った時だった。
ドドドドドド…!
物凄い勢いで須藤が駆けてきた。
「須藤様ッ!?」
ズザザザッ!
その声に須藤が急ブレーキを掛け立ち止まる。
「征流!レイはもう出たのか!?」
「…はい。先程出撃されました」
「…遅かったか…!どっちに行ったんだ!?」
「方角は二時ですが…もしや」
黒田がハッ、と須藤を見返す。
「…気まぐれさ」
そう言って、ニカッと笑う。
「有難う御座います…!直ぐに足の用意を」
「いや、もう持ってきてる!」
バッ、と駆け出す。
「お待ち下さい!」
「んっ?どした?」
突然行く手を阻む黒田を訝しげに見る。
「実は…」
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ブロロロロ…。
天高く日が昇る中、一台のトラックが悪路を突き進む。
「もう少し距離を取れ。感づかれる」
「了解ィ!」
運転席には加藤。助手席には南条の姿があった。
敗走兵を追って小一時間。敵負傷兵を乗せたトラックを、南条達のトラックがやや離れて追う。
スピードを落とし、相手との距離が見えるか見えないか位になる。
「この位だな。後は見失わぬ様気を付けるだけだ」
「へいっ!」
意気揚々と加藤が答える。
「隊長~?また調子乗るんじゃないよ?」
背後の幌が掛かった荷台から、仲村が加藤に声を掛ける。
「分かってらぁ!お前はちょいと黙ってろい!」
大声で切り返し、ハッハッ、と笑う。
全くもう、と仲村が引っ込むと車内が静かになる。
―――此処まですんなり来る事ができたが…。この先は…。
南条が思考を巡らせていた時だった。
「ゲッ!やべぇ!」
加藤が再び大声を上げた。
「どうした?」
「見て下さいよ、アレ」
加藤が前方を指差す。
「…!」
視線の先を辿ると、道の途中にゲートが見えた。傍らには武装した兵士。
「こんな所に検問か…。厄介だな」
「どうします?」
更に速度を落としながら、検問と南条を交互に見る。
「…私が何とかしよう」
そう言って荷台を振り向く。
「お前達、物音一つ立てるなよ」
「了解~っ」
仲村が連絡役となり、荷台からは身じろぎする気配すら無くなった。
「大丈夫ですかい?」
「任せておけ」
…やがてトラックがゲート付近に差し掛かる。
『止まれ』とでも言うように二人の兵士が立ちはだかり手を上げる。肩から下げたマシンガンの銃口は運転席に向いていた。
キキィ…ッ。
加藤がブレーキを掛け、トラックが停車する。
ザッ、ザッ、ザッ。
片方の兵士が近付いてくる。
ガチャッ。
すぐさま南条がドアを開け、地面に降り立つ。
『…止まれ。此処から先は進入禁止区域だ』
顔をすっぽり覆うマスクをした兵士が、くぐもった声で威嚇する。
「…大丈夫かぁ?」
車内で加藤が一人ごちると、不審に思われぬ様ラジオのスイッチを入れる。
…外では南条が何事か兵士に話をしている。
と、不意に。
サザザザッ、ザザッ。
ラジオにノイズが入る。
「あん?電波障害かぁ?」
ゴンゴン、とステレオを叩く。
「んー?」
しばらく小突いてみたが、一向に直らない。
ガチャッ。
「んお!?」
いきなり開くドアに驚く。
「驚きすぎだ。…終わったぞ」
南条だった。するりと助手席に潜り込む。…正面を見ると、兵士二人がゲートを開け両側に立つ所だった。
「どんな手品を使ったんで?」
南条がニヤリとする。
「秘密だ。行くぞ」




