ねがい
「さて…。敵から得た情報で、近々大規模な戦闘が予想されるのだが、何か良い案はあるか?」
奇十郎達の襲撃から一日。拠点の会議室には南条を始め、隊長クラスが全員集まっていた。
昨日の内に仕掛けられた爆薬は全て取り除かれ、そこから相手方が高性能な武器を有しているのも予想されていた。
「籠城戦はどうです?」
隊長の一人が発言する。
「現実的では無い。相手の体力も分からん」
「今まで通りゲリラ戦では?」
「恐らく近代兵器主体の装備を持ち込んでくるだろう。各個撃破されて終わりだ」
別の手が挙がる。
「地の利を生かして、トラップを仕掛けるのはどうです?」
「時間が足らなすぎる。十分な罠は仕掛けられない」
「んじゃあ、特攻は?」
これは須藤だ。
「死ぬ気か。特攻と突撃は違う」
「囮作戦はどうです?」
黒田が手を上げ発言した。
「聞こう」
「古い手の一つですが…。大部隊で敵の目を引き、その間に少数精鋭で敵の頭を叩く、と」
「ふむ…。悪くはないな。他に案はあるか?」
「先手はとれないのか?先に攻撃するとか」
またも須藤。
「それに関しては、現段階で不可能だ。まだ敵の拠点が把握出来ていない。…だが、斥候は出している。タイミングによっては先手も取れるだろう」
りょーかい、と須藤が引っ込む。
「他に案は?」
………。
返るのは沈黙。
…展開が急な事により、皆頭の整理が付いていないと南条は踏んだ。
「ふむ。まあ良かろう。他に無ければ黒田の案を採るとする。明日の朝までは保留としておくので、良い案が出たら私まで報告するように。…以上、解散」
ガタガタガタ、と皆が一斉に席を立つ。
パタパタパタ…。
最後に立ち上がった一人が出て行くと、その場には須藤と南条が残された。
「どうした?」
「ん…いや」
ガタッと立ち上がる。
「レイ」
「何だ?」
「行くのか?」
「………」
須藤の言わんとしている事は分かっていた。
「図星って顔だぜ?」
ニヤリと笑う。
「…大将自ら、と言うのは、戦国の世で多々あった事だ」
一旦言葉を切る。
…我ながら苦しいと思う。
「そんな役目を負えるのは私しかいない。黒田も重傷だしな」
「俺は?」
「お前は残って、皆を守ってくれ。特に侑子をな」
言って、寂しげに笑う。それに須藤が困った顔を返す。
「大丈夫だ。隊の中でも数人手練れを連れて行く。私とて犬死にするつもりはない」
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明朝。
「………」
自室の窓際から、外を眺める南条の姿があった。
「さて…」
振り返ると部屋を横切り、その場を後にする。
…会議室には、昨日と同じメンバーが集まっていた。勿論須藤の姿もある。
「…待たせたな」
ザザザザッ!
最後に南条が入ってくると、皆が敬礼をする。
「朝早くからご苦労。座ってくれ」
ガタガタガタ…。
その声に皆思い思いの椅子に座る。
「…最終確認を取る。近々行われるであろう敵の侵攻作戦に対し、黒田の案である囮作戦を採ろうと思う。他に良い案はあるか?」
………。
見回すが、挙手をするものはおろか、発言をしようと顔を上げる者も見当たらなかった。
「…ふむ。では意見が無い様なのでこの件は確定とする」
再度皆の顔を見回す。不機嫌そうな須藤の顔が見えたが、構わず続ける。
「さて、では肝心の突入部隊だが、私が先頭に立つ」
ざわざわざわ…。
その発言に、室内がざわめく。
『大将自ら…?』
『そんな無茶な』
『総隊長が行くなら私が!』
「ゴホンッ。静粛に!」
凛とした、良く通る声に場が静まり返る。
「…何も私一人で乗り込むわけではない。志願者を募る。誰か付いてくる者は居るか?」
ババババッ!
一斉に隊長達全員が手を上げる。須藤と黒田を除いて。
「…うむ。君達の心に感謝する。だが全員連れて行く訳にはいかない。後程私が選んでいくが、異存は無いか?」
聞くまでもなく、異を唱える者は居なかった。
「良し。では三十分後、選抜者を決める。それまで各自待機していてくれ」
カツカツカツ。
靴音を響かせながら、南条が室外へと出る。
ボソボソ…。
緊張の糸がやや解けたのか、隊長達が小声で話を始めていた。
…須藤は一人、椅子に座ったままジッと前を見据えていた。
「須藤様…」
見ると、黒田が傍まで来ていた。
「ん?どした?」
小首を傾げながら問う。
「お願いがあります」
黒田がそこで一旦間を取る。
「………」
須藤は次の言葉を待った。やがて黒田の口が開く。
「南条様を御護りして戴きたいのです」
ジッと須藤の目を見ると、更に続ける。
「先程貴方が手を上げなかったのは、南条様に頼まれたからでしょう?」
須藤が視線を逸らす。
「フフ…。貴方の性格だ。その位は予想出来ます。ですが」
ガシッと須藤の肩を掴む。
「その頼みは聞き入れないで戴きたい」
静かに、しかし力強く、黒田が語る。
「…恐らく、あの方は死ぬ気です。今まで数え切れない程の犠牲を払ってきた、南条様の覚悟。命と引き換えにこの闘いを終わらせるつもりです」
「分かってるよ」
須藤は黒田の腕を掴む。
「けど、頼まれちまったんだ。…アンタだけじゃあない。ユーコや、みんなを守ってくれって」
ゆっくりと黒田の手を払う。
…ガタッ。
椅子から立ち上がり、出入口へと向かう。
「須藤様…!」
それには応えず、外に出る。
「………」
俯いたまま、廊下を歩き出す。
サク、サク…。
中庭に出る。
空を見上げれば、何処までも抜けるような蒼空。
「ツ~ンツンっ」
その声に振り返ると、敷島の姿があった。
「…ユーコか」
「…なんや、辛気臭いカオしとんな~」
敷島は須藤に近寄ると、背中をバンッ、と叩く。
「ホレ、とーこんちゅーにゅー。元気ですか~!」
須藤は一瞬キョトンとしたが、すぐに破顔する。
「ハハ…。面白いな」
「うむッ!ツンツンは笑っとった方がエエ」
うんうん、と敷島が頷く。
「あぁ…。そうだな…。みんなも笑えれば良いのにな…」
再び沈んだ表情を浮かべる須藤を、覗き込む様に見やる。
「どーしたんや?」
「…ちょっとな」
「………」
サク、サク、サク…。
無言のまま、敷島が下草を踏みしめる。
「…知ってるで」
「……ん?」
「ねぇちゃん、危ない橋渡るんやろ?」
敷島は振り返らず、背中で語る。
「………」
須藤は答えない。
「ねぇちゃんもあれで、ガンコやからなぁ…。言い出したら聞かへん」
敷島が空を見上げる。
「…なぁ、ツンツン」
「…ん」
「…頼むわ、ねぇちゃんを助けて」
その声は心なしか、震えている様な気がした。
「もう、イヤや。…家族が死ぬのは…ッ」
肩が震えはじめる。
「いっつも、ねぇちゃんは独りで…ッ、無茶ばかりしよる…ッ」
ふとすると漏れそうになる嗚咽を堪え、敷島が語る。
「………」
肩が震えるその後姿を、黙って見ている須藤。
「…お願いや…ッく、ねぇちゃんを、助けてやってや…」
サク、サク…。
ス…。
手を伸ばし、そっと、敷島の頭を撫でる。
「…分かったよ」
「…ッく、ううっ…」
敷島はもう声にならなくなっていた。
…その頃。作戦会議室に南条が戻ってきていた。
「…待たせたな。これより突入部隊の選出を行う」
静まり返る一堂を見回す。須藤の姿は無かったが、気にせず手にした手帳に目を落とす。
「まずは、二番隊、加藤」
「おおっしゃあ!」
大柄ないかつい男がガッツポーズと共に立ち上がる。
「加藤、まだ座っていろ」
「ヘイッ!」
南条に窘められ、大人しく着席する。
「ゴホン。…続いて、五番隊、上原」
「はい」
壁際の席に座っていた男が声を上げる。
「最後に、九番隊、嶋田」
「了解…」
最後列に居る男が返事をする。
「以上三名。各隊は三名、自隊より腕利きを集めてくれ。突入部隊は一隊四名、私を含め計十三名で編制する」
選出した三人を見回す。加藤が親指を立て、上原がOKサインを送り、嶋田がコクリと頷く。
「うむ。…残りの部隊は黒田を筆頭に囮作戦に参加してくれ。各自準備を怠らぬ様に。では、先の三名と黒田は此処に残り、後は解散。以上だ」
ガタガタガタ…。
選ばれなかった隊長達が、残念そうに席を立つ。
ガタガタガタ…。
騒々しさが消えると、その場に四人が残された。
「済まないな、お前達」
南条が深々と頭を下げる。
「良いんですってぇ!」
ガタンと立ち上がりながら加藤が大声で返す。
「オレらは大将の為にここまで来たんですぜ?嬉しさ百倍ってなもんよ!なあ!」
加藤が残った三人に同意を求める。
「そりゃあ勿論」
「…私の役目だ」
「………」
隊長二人は同意を返したが、黒田は浮かない顔だ。
「おいおい、黒田ぁ!シャキッとしろや!」
「む…そうですね…」
「んん?」
「加藤、その位にしておけ」
まだ何か言おうとした加藤を制する。
「…お前達には本当に感謝している。この作戦が上手くいけば、我々の悲願が達成される」
一旦言葉を切り、各々を見回す。
「道の紛争鎮圧…もう少しだ。では、作戦の詳細に入る」




