死合
「大丈夫さ。みんな、死なせやしない」
南条から視線を外し、奇十郎に向き直る。
―――…。
一瞬、須藤が何時もとは違う、寂しげな笑みを見せた。
「さあオッサン、勝負だ!」
ザッッ!
須藤が身構える。
「フ、その意気や良し!誰も手を出すでは無いぞ!」
チャキッ!
奇十郎が刀を八双に構える。
奇十郎の部下達は後方に下がり、刀を置く。
南条もこれ以上口を出す事を止めた。
更に後方では、敷島と黒田が行方を見守っていた。
「………」
「………」
しばし睨み合う。
互いに間合いを測る。
「…キェェェィ!」
気合の声と共に、奇十郎が先制する。
ヒュオンッ!
袈裟斬りに斬りつける。
「ハッッ!」
スウェイで斬撃を回避する。しかし第二波が下段から襲い来る!
「ヌウンッ!」
「くッ!」
ヒュンッ!
斬り上げが須藤の身を掠めた。
パッッ!
ノースリーブの前面が裂ける。
「…ひゅう。危ねぇ…」
「フハハ。よくぞかわしたな。ではこれはどう…だッ!」
ヒュヒュヒュンッ!
息も吐かせぬ連撃。斬撃に加え、突きと体術も織り交ぜ襲いかかる!
「うおわっっ!」
必死に回避し続けるが、いつまでもそういうわけにもいかなかった。
ザシュッ!
「うぐっ!?」
一突きが須藤の右脇腹を掠める。
ザッ…、タタッ。
奇十郎が飛び退き間合いを取る。
「どうした須藤…。お前はその程度か?」
「へ…へっ!掠りキズ位じゃ何とも無いぜ…」
平気そうに振る舞うが、傍目にはやはりダメージが見て取れた。
―――須藤…。
南条は手を出せなかった。須藤の、『覚悟』と言うものが見えていたからだ。
かつて自分が須藤に語った様に。
その間にも二人は死闘を繰り広げていた。
「ヌウンッ!」
「おりゃぁあ!」
仕掛けて回避し反撃。その応酬がいつまでも続くように思えた。だが…。
「ハァ、ハァ…」
「ゼェ、ゼェ…」
両者とも、ほぼ体力の限界が近付いていた。
「ゼェ…そろそろ、ゼェ…決着を付けさせて貰う…」
「ハァ…奇遇だな、ハァ…オレもそう思ってた…」
両者が、息を整えながら間合いを取る。
「………」
「………」
―――これで決まる…。須藤、死ぬなよ…。
祈る様に二人を見守る。
そして。
ダンッッ!
「「ウオオオォ!!」」
須藤と奇十郎、同時に地を蹴った。
「シェェェイッ!!」
気合と共に刀を振り下ろす。
―――袈裟斬り……ッ!?
ニヤリ。
奇十郎の唇が歪む。
地を向いていた切っ先が、天を仰ぐ。
―――フェイク!
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「須藤ッッッッ!」
南条の叫び声が響く。
「う…ぐ…ぁッ」
奇十郎の刀は、須藤の左肩を深々と刺し貫いていた。
「フ、フハハ…」
奇十郎が刀を手放す。
「見事」
ゴフッ。
直後、奇十郎が血を吐く。
…その胸には、須藤の掌底が食い込んでいた。
グラッ…。ドサッ。
ザザザザ…。
奇十郎が大の字に倒れると、部下達が一斉に集まってくる。
「くっ!」
南条が駆け出そうとする。
「レイ!ストップ!」
いつの間にか振り向いていた須藤が叫ぶ。
「痛てて…。…コイツらは大丈夫さ。ついでにオッサンも、な」
肩口を押さえながら、ニカッと笑う。
「う…」
地に伏せた奇十郎が呻く。
「お?復活早いな」
覗き込む様にして奇十郎を見る。
「ぐ…。何故、殺さない?」
「ん?意味無いだろ?つーかオッサン」
「…何だ」
ずい、と手を出す。
「勝ったんだからリモコンくれよ」
「フ、ハハハ…。面白い男よ」
奇十郎は懐からリモコンを取り出すと、須藤に投げ渡す。
「あ痛たた…。サンキュ~。ついでに」
未だに左肩へと突き刺さる刀身を掴むと、
「フゥ~…。んぎぃッ!」
一気に引き抜いた。
ブシュウッッ!
ガシャンッ。
刀を落とすや否や、血液が迸る肩を押さえる。
「ぐぅぅ~痛いてぇ~……それ返す……」
涙目で顎をしゃくると、背を向ける。
「良いのか?後ろから斬られても」
「そりゃ無いさ」
肩越しに振り返り言う。
「アンタの性格から言って、そりゃあ無い。それより早く医者に行きなよ」
痛みを堪えながらとぼとぼ、と歩きだす。
「フ…」
部下に支えられながら、よろよろと立ち上がる。
「須藤よ」
「何だよ。しつこいな…」
面倒そうに振り返る。
「数日後、儂等は大規模な攻勢に出る。死にたくなければ、今直ぐこの地から立ち去れい」
「………」
須藤は一寸目を丸くしたが、やがて口を開く。
「おいおい、そんな事喋って良いのかよ?」
「ぬしの事は敵ながら気に入っておる。易々と命を落として貰いたくない」
ジッと奇十郎の目を見る。…嘘であるとは思えなかった。
「分かったよ。ありがとな。さ、帰った帰った」
ひらひらと手を振り、再度踵を返す。
「…さらばだ」
部下に肩を借りつつ、奇十郎も踵を返した。




