襲撃
「急ぐんや!追っ手が来よる!」
薄暗い廊下で、敷島が悲鳴に近い声を上げる。
「う…。敷島様、私の事は捨て置いて下さい…」
息も絶え絶えに黒田が囁く。
「アホか!ケガ人を放って行けるわけ無いやろ!」
不意の襲撃を受け、咄嗟に敷島を庇った黒田は深手を負っていた。
「ほら、歩きぃ!」
肩を貸しながら必死に叱咤激励をする。
「う…すみません。私の不覚です」
「いや、ウチがぼーっとしとったからいけなかったんや…」
敷島が苦々しい顔をする。
カツカツカツ…。
「…!誰か来よる!隠れや!」
咄嗟に側にあった部屋へと転がり込む。
カツカツカツ…。
『そっちは居たか?』
『いや、まだ見つかっていない』
カツカツカツ…。
足音が遠ざかっていくと、ほぅ、と胸を撫で下ろす。
「敷島様…」
黒田が苦しそうに声を掛ける。
「どした?痛いんか?」
ゆっくりとかぶりを振る。
「こ、このままでは二人共捕まってしまいます。…私が囮になります。敷島様はその内に…」
「だーから、アカン言うとるやないか!」
黒田がフ、と笑みを浮かべる。
「いえ…。南条様と合流していただきたいのです。恐らくは彼も一緒。…くっ、あの方々が居れば、まず負けはありません…」
傷を庇いながら、痛々しい言葉を吐く。
「でも…」
ガシッッ!
怪我人とは思えない力で敷島の両腕を掴む。
「貴女しか今は居ないのです…ッ!」
絞り出す様な声に、最早頷くしかなかった。
「…しゃーない」
スッ、と立ち上がる。
「パッとねぇちゃんとツンツン見つけて、直ぐ戻るわ。エエか?死んだらアカンで?」
よろよろと立ち上がろうとする黒田に手を貸す。
「…心得ました…。手負いの流とは言え、これしきで命は落としません」
ス…、と腰の剣に手をやる。
―――唐刀。古代中国から伝わる剣である。その身は蛇の様にしなり、変幻自在の攻撃を繰り出す。
黒田はその使い手であった。
「死ぬなや、クロ兄ぃ」
ドアノブを掴み、目配せをすると頷く。
カチャ…。
そっと外の様子を窺う。…誰も居ない。
「今の内に…。恐らくお二人は中庭に居る筈。お急ぎ下さい…。」
苦痛に脂汗を流しながら語る。
「ああ…。頼むで」
音も無く、猫の様な俊敏さで敷島が駆け出す。
「お任せを…」
黒田は一礼すると、唐刀を抜いた。
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カンカンカンッ!
非常階段を一気に駆け上がる。
南条と須藤は拠点内部に敵兵が居ると見るや、やや迂回したルートを採っていた。
目標は、副官黒田と敷島の保護、更に味方の把握だった。
途中見つけた何人かは既に攻撃を受け、息絶えてしまっていた。
それでも生存者は居り、手分けして他の仲間の確保に向かわせた所である。
―――手際が良すぎる。内通者でも居るのか…?
考えても答えは出ない事をつらつらと思う。
―――今はあの二人が優先、か。
南条は考えを振り払うと、内部への鉄扉を開ける。
ギィィィー…。
「………」
顔だけを出してみるが、誰も居なかった。
良いぞ、と身振りで須藤に合図する。
「………」
須藤が周囲を見回しながら侵入。
コツ、コツ…。
極力足音を消しながら歩みを進める。
―――確か侑子は三階に居た筈…。
現在二階。非常階段は二箇所あり、南条達が使った階段は二階までしか繋がっておらず、その為内部から進まざるを得なかった。
…角に差し掛かった所で、不意に足音。
「…!」
隠れる場所は無い。瞬時に思考を制圧に切り替え、須藤にはフォローを頼み身構える。
タタッ…!
飛びかかろうと身を乗り出す。
「…ッ!」
「あっ!」
現れたのは敷島だった。
「ねぇちゃんッ!」
「侑子ッ!無事だったか」
敷島が南条にしがみつく。
「クロ兄が…」
「黒田か?一緒なのか?」
敷島が首を振る。
「ウチをねぇちゃん達呼ばせに…ケガしとって…」
安堵の為か、敷島が涙声で語る。
「…分かった。良くやった。後は任せろ」
コクリと頷く。
「…道案内出来るか?」
南条は敷島の目を覗き込む。
「うん…。すぐ戻る約束したんや…!」
南条がニコリとする。
「分かった。頼む」
そこで須藤を振り返り、
「須藤。侑子のフォローを頼む」
「おう!ガッチリフォローしてやるぜ!」
腕をブンブンッ、と振り回し親指を立て、ニカッと笑う。
…かくして三人は黒田の元へと急ぎ向かったのだった。




