姉と妹
「あ…」
店を出てから、ハタと気付く。
ゴソゴソ…。
「ど、どうした?」
未だに汗する須藤が、敷島の手元を覗き込む。その手には携帯電話が握られていた。
「あっちゃ~!」
「帰れコールか?」
「ん…まぁそんなもんや。ちぃと待っててや」
其処まで言うと、履歴から発信する。
プルルルル…ガチャッ。
「あ。ねぇちゃん…うわっ!」
敷島が慌ててスピーカーから耳を離す。どうやら相手が怒鳴っているようだ。
落ち着いたのを見計らって再度携帯電話を耳に当てる。
「ご、ごめん…。うん、うん。今な、時計台んトコや。うん。でな、ちょっと今友達と一緒なんや。…え?エエって別に。え?ちょっと!待ちぃな!お…」
ツーツーツー。
「切れてもた…」
「どうしたんだ?」
「ねぇちゃんが迎えに来る…。ムラクモ、あんたは帰れ」
やけに深刻な表情で敷島が言う。
「何でさ?俺が保護してたって言やぁ良いだろ?」
「アカン。ねぇちゃんはな…」
「見つけたぞ…」
ビクリ、と敷島の躰が強張る。
「ね、ねぇちゃん…!これはその…!」
「近くに居ると思って急いで来てみれば……ん?」
ねぇちゃん、と呼ばれている女性が、敷島の側にいる人物に気付く。
「お前は…須藤?」
「ありゃ?レイか?」
現れたのは、南条 零その人であった。
「何故此処に?いや、それよりもお前達知り合いだったのか?」
「ちゃう…」
「ああ。ちょっとな」
何か言いかけた敷島を遮り相槌を打つ。
「何時の間に知り合いになったのやら…。全く」
ツカツカツカ。
「わ!か、堪忍…イタタタタ!」
ぐりぐりぐり…!
南条は両手で作った拳で、敷島の頭を挟む。所謂『梅干し』と言う奴だ。
「このお転婆が。灸を据えてやる」
「イタイタイタイ!」
そんな二人に、須藤は一人笑ったのだった。
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ズルズルズル。
「ね、ねぇちゃん堪忍してぇな」
「ダメだ。勝手に抜け出した挙げ句に、他人様に助けて貰うような事態を引き起こす様な奴は、こってり絞らねばな」
しきりに焦る敷島を、南条が引き摺る様に手を引き歩く。
「ひ、ひぇぇ」
須藤はというと、そんな二人の後をにこやかに付いて来ていた。
道中、二人の関係は聞かされており、どうして先程の事態になったかも把握出来ていた。
『もう良い時間だ。須藤。どうせ宿など見つかっていないのだろう?付いて来い。礼と言っては何だが、宿を用意しよう』
そう南条の申し出を受け、渡りに船とばかりに同行する事となった。
…しばし歩き、やがて街の一角にある建物へと辿り着く。
「着いたぞ。まぁ入れ」
敷島の首根っこを掴んだまま、須藤に先を促す。
「へ?宿を教えてくれるんじゃなかったのか?」
…今須藤の眼前に建つのは、やや古ぼけた三階建てのビルだった。
「今からではもう何処も部屋はあるまい。安心しろ。私達の隠れ家だ。部屋は空いている」
良いから入れ、と足蹴にされながらエントランスへと転がり込む。
「っとっと」
内部へと入ると、直ぐ階段が目に付いた。その右手にはドアが見える。恐らく部屋の一つだろうと目を付けた。
「何呆けている。早く入ってくれ。後がつかえているんだ」
もう既に観念して、猫の様になっている敷島を釣り上げながら南条が急かす。
「はいはいっと」
スタスタ…。
向かって右側のドアの方へと移動する。
「あぁ、空いているのは二階だ。この鍵で入れる。適当に寛いでいてくれ」
南条は懐から鍵を一本取り出すと、須藤に手渡す。
「私はこれから仕置きに入るのでな」
「に、にゃぁぁ~」
既に猫と化した敷島を連れ、南条は一階の部屋へと向かっていく。
「…む」
ふと南条が立ち止まり振り返る。
「ん?」
「後で軽食を作るが…。須藤、食べるか?」
その言葉に満面の笑みを浮かべ、
「是非ともごしょーばんに預かりますっ!」
南条はそれを聞くと、微笑と共に頷きそのままドアへと消えていった。
『にゃぁぁ~』
『無駄だぞ』
そんなやりとりが聞こえ、微笑ましい姉妹だと思った須藤だった。




