プロローグ
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サァァァァ…。
降り止まない雨が、窓を叩く。
「………」
窓際に佇む人物は、窓枠に手を掛け、ジッと雨に濡れる外の風景を眺めていた。
―――丁度あの時も、こんな雨だったな…。
コツン、と額を窓ガラスにぶつける。逆立てた髪が僅かに揺れた。
ガチャッ。
背後でドアが開く。
「…何しとるんや?」
続けて、女の声。窓から額を離し振り向く。
「あぁ…。ユーコか。ちょっとな」
そう言って男…、須藤 叢雲は苦笑いを浮かべる。
「なんやなんやぁ?辛気臭いでぇ?ツンツン!」
関西弁の女、敷島 侑子がキンキンと早口でまくし立てる。ツンツンというのは須藤のあだ名である。
…だが須藤は苦笑するばかり。やがて敷島が、いつもと様子が違うことに気付く。
「どうした…?」
独特のイントネーションで問い掛けた。
「ん…あぁ。ちょっと、昔を思い出してな」
須藤は窓を振り返り、遠い目をした。
「??」
敷島は訳も分からず、首を傾げる。
「『隊長』の事さ」
「…!」
「あれから、随分経った気がするな。まだ数年しか経ってないのに」
敷島が俯く。
「あれは…ウチの所為や」
「違う」
「…でもっ!」
「ユーコ」
わしっ、と敷島の頭を鷲掴みする。
「良いんだ。気にするな」
くしゃくしゃと頭を撫でる。
「…」
「引きずるのは、俺一人で十分」
ポンっ、と頭を叩く。
「さて、ユーコ」
ニカッと笑う。
「腹減った!メシ作ってくれ」
「…うん」
俯いたまま、敷島がドアの向こうへと消えていく。
「…ふぅ」
ギシッ…。
側にあった椅子へと腰掛けた。
「…」
再び窓の外を見遣る。
…雨脚は勢いを増しているようであった…。