第7話 まるでダンジョン
――頬に水が当たる感覚がする…。
その瞬間、微睡みの中にあった意識が急速に覚醒していく。祐太はガバリと起き上がり周りを見渡した。
辺りには魔物の姿はなく目線の先の奥に広がる場所には砕けたスケルトン達の残骸が残っていた。戦闘の疲れのせいか気が抜けたら気絶していたようだった。どの位気絶していたのかは分からないがそれ程時間が経ってる様子はなさそうだ。
「…落ちてたか、流石に疲れてたからな…」ぐぅぅぅ…
鳴り響くは腹の音だ。
それもそのはず、祐太はこの世界に来てから食べ物を食べてなかったのだ。
「腹減った…っても、食いもんが無いんだよなぁ…」
周りには食べられそうなものは無い、此処は洞窟なのだ。強いて言うなら魔物の肉くらいだろう。
そう考えながら湧き水を飲み腹を満たすことにする。
「…はぁ、水があって本当に良かった。これがあるなしじゃ死活問題だからなぁ」
そう独りごちりながら立ち上がり身体を伸ばす。
祐太はスケルトン達の残骸が残ってる広場に戻り使えそうな武器や部位、魔石を回収する。しかし、流石に持ち運べる量ではないのでどうするか思案する。
「んー、どうするかなぁ、これ。流石に持ち運ぶことも出来ないし…」
暫く考えるがどうにもならないので持てるものだけ持ち他のものは広場の隅の岩陰にでも置いておくことにした。
祐太は壊れてない武器のロングソードを軽く振り調子を確かめる。
「…剣術は剣道くらいしか分からないが、まぁ、何とかなるか。それと、この先も水場があるとは限らないし水を持ち運べる様にしたいな…」
色々考えた結果、魔物の胃腸を利用する事にした。背に腹は変えられないのだと、言い聞かせここに来るまでに始末していた魔物の所まで戻りロングソードを器用に使って大蝙蝠を数体解体した。
「…時間が掛かったが、何とか出来たな…」
祐太は解体した大蝙蝠の胃腸や皮を使い苦戦しながらも皮袋と胃腸の水袋を作る事が出来た。
「…不格好だが、大丈夫だろうか?…確かめるしかないな…」
皮袋と水袋を確認する。破れたり溢れたりすることは無さそうだ。祐太は内心ホッとする前にサバイバル動画で作り方を覚えてて良かったと。まさかあの動画の技術を使う事になろうとは…と考え苦笑する。
「とりあえず持ち運びに関しては何とかなったな…慣れないことは疲れるな…」
祐太は壁を背に座りもたれる。
少し休んでから次の道に進むことになる。その前にもう一度、魔法と新たな身体について思案する。
――俺のユニーク魔法『大気万成』は自然現象を操ると、自然現象が何処までを指すのか、何処まで出来るのか確認するべきだが、今現状では風を刃にして飛ばしたり乱回転する風の玉をとばしたり風を起こす程度だ。もっと何か出来るはずと、風を起こし腕に纏わせる様に発動させてみる。
「…軽い竜巻みたいに纏ってるな…それに、何か力みたいな…――マナ?だったか…これが腕の中で巡ってる?」
そう言えばと魔法を解除し先程の戦闘時、前の身体では有り得ない動きが出来ていたことに新しい身体の性能と火事場のバカ力だろうと思ってたが、思い返してみると妙に力が巡っていたと思い出す。
「確か、身体全体に力が入ってた…マナを巡らせる事が出来る、のか?そう言えば小説や漫画でも魔力やらなんやらで身体の強化とか魔法の強化とかしてたな…魔力操作的な」
祐太は立ち上がり魔力を身体全体に巡らせるイメージで魔力操作を行う。そして、軽く走ったり正拳突きをしたりと調子を確かめた。
通常の状態より何となく身体が動いてる感じがする。
続いて全身に巡らせてた魔力を腕に集中させたり脚に集中させたり腹に集中させたりと身体内でどの様に動き収束するのかを確かめる。集中的に身体強化を行うと全身強化より大幅な強化が出来ることを見つけた。
「…凄いな、此処まで出来るなら何とか生き残れそうだ…まぁ、気を抜くつもりもないが、下手したら強力な魔物でも出てきそうだ…」
身体強化の次は何となく思いつきとイメージで使っていたユニーク魔法だ。まずは風玉を作り出す、身体強化の時魔力操作を行っていたからか風玉を作り出す時どの様に魔力が動いてるのかを確かめることが出来た。
作り出してた風玉に更に魔力を込めてみるすると込めた力に比例して風玉も大きくなる。戦闘の時は倒す事だけを考えてたからイメージだけで行っていたけど魔力操作を無意識で使っていたのか戦闘時の様に風玉が大きなものになったな。
「…俺が天才なのかこの身体のスペックが高いのか、どうかは分からないが魔力操作を何となく使ってたんだな…」
気づけよ馬鹿野郎と自分に悪態付きながら大きくなった風玉を魔力を込めながら圧縮するイメージで操作する。するとつよいチカラが込められた小さな風玉が出来る。
それを向こう側の壁に向けて放つ。圧縮された風玉は壁にぶつかると爆発したかのように弾け強風を起こし壁を抉る。
風刃では切れないほど強固な壁を圧縮した風玉はあっさりと砕いたのだ。祐太は強力な技を覚えたが使い方を考えなければ自分にもダメージを受けてしまうと気を引き締める。
「…他に出来ることを思いつく限り試してみるか…」
そして祐太は暫く水場を居地に身体強化とユニーク魔法の使い方を鍛錬していく。
* * *
――数日後、祐太は洞窟の奥へと歩みを進めていた。
「くっそ!こっちは行き止まりかよ!」
洞窟の奥はここからが本番だとでも言う様に迷宮とも言える内装になっていた。そして、魔物も針蜥蜴や大蝙蝠、トロール以外にも――音もなく近づき後ろから攻撃する影のような狼、爪を伸ばしあらゆるものを切断する熊のような魔物、溶解液を噴き出す芋虫のような魔物、強靭な鱗と毒を持つ巨大な蛇の魔物等、様々な魔物が祐太に襲いかかっていた――。
何とか凌ぎながらも魔物を殺し使えそうな部位や魔石を回収する。持ち運べないものは他の魔物に見つけられないように岩陰に隠し必要ものだけ持ち運ぶ。
「…まじでダンジョンだな、これ。もしかしてダンジョンボスとかいるのか…」
祐太は分かれ道まで戻りながら独りごちる。ふと、小腹が空き皮袋から干し肉を取り出し齧る。
干し肉を齧りながら水を飲み少し休憩を取る。――何故祐太が食べ物を所持してるのか、それは少し前の事。流石に空腹に耐えれず始末した大蝙蝠を解体し、肉を取り分ける。火もないから調理が出来ないしそもそも魔物肉は食べれるのか?と一瞬思いとどまる。とりあえず切り分けた肉を風を起こして乾燥させ干し肉にして見る。調味料や太陽光等がないが風を集中的にかつ飛ばさないように肉に纏わせ急速に干からびさせる。
干し肉となった魔物肉を祐太は少し躊躇いながらも空腹なので口に入れる。
「美味くはないが食えない事はない!」
干し肉となった魔物肉をモシャモシャと平らげていく。そして満腹となったお腹をさすり寝転ぶ。
何とか食べ物も確保出来る!と喜び少し休んだ後他の魔物肉を干し肉へと調理をしていく。――
と、いうことがあり飲食についてはクリアしていた。
閑話休題
祐太は休憩を終えて分かれ道を別の道へと進んでいく。この洞窟内はかなり広いようで分かれ道が二重三重と分かれていた。祐太は虱潰しをしながら頭の中でマップを作り洞窟内を探索していた。時に魔物を倒しながら進んで行き数時間が経った時、ふと違和感のする壁を見つけた。
「何だ?ここだけ周りの壁と違う気がする…」
何が違うのか説明しろと言われても祐太は説明出来ないだろう。本当に何となく違うと本能が発しているのだ。
祐太は違和感のする壁に向かい弱めの風玉を放つ――すると壁は崩れて別の道が現れたのだ。
「…隠し通路ってか」
祐太は隠し通路に歩みを進める。その間には魔物が襲ってくることは無かった。進んだ先は一本で分かれ道すら無い。そしてその先は広場とは言えないが六畳位はありそうな場所だった。
「…何かある、宝箱、か?」
ダンジョンみたいな洞窟に隠し通路とくればその先にあるのは宝箱!とでもいう様な木箱が置かれていた。
祐太は油断なく周りを見渡し魔物の気配は無いと確認する――此処に来るまでにある技を思いつきそれを使い気配を察知していた。――
そして、木箱に近づき表面を見る。罠等は無いようで魔物が入ってる感じは無いが、魔力がのそ木箱の中から感じていた。
「何かのマジックアイテム的な?」
そう呟きながら木箱を開けてみる。その中身は――卵が入っていた。しかし、ただの卵ではない卵を守るかのように薄く結晶が張り巡らされていてその結晶から魔力が発せられていた。
「…卵だが、ある意味アイテムでもあるって事か?」
その卵は触ることが出来る様で取り出す事に成功する。持ち上げた時発せられていた魔力が発散し代わりに祐太自身の魔力を吸収しだした。
祐太は驚くも嫌な感じはなく吸い出す力も微々たるものだった為落とすことも無く持ち運ぶ事にした。
「良く分からん卵だが、悪くない感じはしないし、割ることもなさそうだから持っていくか――ん?」
ふと、木箱の中に目線をやるとその中には500円サイズのメダルがあった。祐太はそのメダルをとりそれを眺める。
メダルには見たことのないような模様と言語らしきものが描かれていた。
「…この世界の硬貨か?それにしては1枚だけって…いや、この卵に関するものか?一緒に入ってた位だし」
木箱の中に他のものが無いか確かめ入ってたのはその二つだと確認する。とりあえずこれも持っておくかと皮袋にしまいこの空間から元の場所へと戻る。
「さて、次に進むか」
そう呟き、更に奥へと歩みを進める。
誤字脱字などございましたら教えて頂けたら幸いです。
感想など待ってます。
※この物語では魔力をマナとルビをふってます。
これからもこのルビをふったセリフや言葉が出てきますが全てをふるのは大変なので次の話からは魔力だけを表示して物語を進めますが読み方的にはマナですのでそう読んでいただけたら幸いです。