第2話 死からの転生
見切り発車小説
薄暗い水の中に居るような感覚がするが溺れる感じはしない。揺れる視界の先に道を照らすような光が指す。そこを目指すように身体を動かすと、意識がはっきりとしてくる。
目を覚ますとそこは何も無い白い空間だった。
「…知らない天井、か」
まさか、使い古された言葉を口にするとはと祐太は思った。
「見知らぬ場所って事は死後の世界、的な?」
辺りを見渡し、自分に起こったことを手を握りしめながら確認する。あの、神と名乗る少年により死に至るそして生き返らせてくれることになったのだが、周囲にはその少年はいない。
「…まさかな」
「何がまさかなの?」
「おわぁ?!」
祐太の後ろから急に声がかかる。それに驚き声を上げる。
「あはは!そんなに驚くなんて!全く君は笑わせてくれるねぇ…ふふ」
「急に後ろから現れるからだろ!ビビるわ!」
「ごめんごめん、ふふ…それで何がまさかなの?」
「…あー、なんと言うか」
歯切れの悪そうに、祐太は口篭る。その様子を少年はまじまじと見る。そして思い至ったのかイタズラな笑みをもって祐太に言葉をかける。
「…まさか、僕が約束を不意にしたと思った?」
「そりゃ、何も無い空間で誰もいなかったからな…」
「もう、信用がないなぁ、僕は神だよ?そうそう約束を破ることないよ!」
「…あまり神って感じがしないが、まぁこんな空間に居るから信じないってわけではないけど…」
「そうだよ?僕はすごいんだから!」
「…そっすね、それで危ないエネルギーとやらはどうにかなったのかい?」
少しだけ後ろめたい感じになりながらも祐太は気になってた事を口にする。
「もう大丈夫だよー」
何ともあっさりな回答だった。自分の死によってエネルギーは回収され神少年の中で別の新たなエネルギーに変換されたのだと説明された。
「そんなあっさりしてるなら俺が死ぬ事は無かったのでは?」
「君という殻があるから簡単には取り出せなかったんだ。取り出すにはそれこそ殻を割らなければならない、君は卵の殻を割らず黄身だけを取り出せるかい?」
「…無理だな」
「まぁ、そういう事だよ、いくら僕が神だと言っても出来ることには限りがあるからねぇ」
出来ない事であると納得させられる言葉であった。そして、少しだけ安堵する。自分のせいで崩壊をもたらす事は無くなったのだからと。
「ま、何とかなったなら良かったよ。それで俺は生き返ることは出来るのかい?」
「あぁ、そうだったね、君を転生させてるよ」
「転生?生き返らすじゃなく?」
「うん!転生、元の世界に戻す事が出来ないからこの世界で生きてもらうことになる。そして、ただ生き返らすにしても君の身体はとても弱いから強く力のある身体に転生させるよ」
「…はぁ?!どういうことだよ!」
元の世界には帰れないらしい、そして何ともな言われ方だが俺の身体は弱っちいらしい。そこまで貧弱ではないと思っていたのだが…
「この世界は魔法もあるし何より魔物や魔獣、そして魔王がいる世界だよ?魔力もなく力もない君の元の身体じゃ生き返らせてもすぐに死んじゃうよ?」
薄々勘づいていたが、やはり魔法ありあり魔物ありありのがっつりファンタジー世界だったようだ。まぁ、神がそこに存在しているというだけで信じるしかないのだが。
「…転生って事は赤ちゃんからか?」
「うーん、それでもいいんだけど、君はいいの?」
「出来れば元の年齢に近い身体にしてくれ、それと、俺の意思はちゃんと受け継ぐんだろ?」
「そうだね!ちゃんと君の意思を持ったまま転生させるからね!」
「なら、構わない、転生させてくれ」
「おっけー!んじゃ転生させるね!」
自分の身体が光り輝く。そしてその光の中身体が不定形のスライムの様にぐにゃぐにゃと蠢く、光が収まりその中から新たな身体に転生した祐太が現れた。
「うん!転生完了だね!」
「…何とも不思議な感覚だな」
新たな身体となりその感覚を手を握ったり開いたり脚をばたつかせながら確認する。そしてふと、身体の中に別の力を感じた。
「…身体が変な感じだ、心臓の辺りから熱を感じる」
「それが魔力だよ!魔法を使うための力って言えば分かるかな?」
「マナ、ね…これがあれば魔法が使えるのか?」
「あ、君が想像してるように詠唱してポンポン魔法を放つ感じじゃないよ?魔力はあらゆる人が大なり小持ってるものだけど誰しもが魔法を使えるわけじゃないんだ。」
「どういうことだ?」
「この世界ではその人自身が属性を持っていてその属性に限り魔法が使えるんだ。それでも多くはないけどね、大半の人が生活する上で外せない生活魔法が使えたらいい方なんだ」
「個人で持ちうる属性魔法、かそれとありふれた生活魔法と」
やはり、ファンタジーだと少年心よろしくとわくわくする。
「それともう一つ、特殊な魔法ユニーク魔法というものがある」
「ユニーク魔法?」
聞き慣れない言葉に祐太は聞き返す。
「そう、属性魔法みたいに個人に発現する魔法だよ、ユニーク魔法を持ってたら属性魔法は使えないけどそれ以上に強力な力があるからね!」
この世界には属性魔法、生活魔法、そしてユニーク魔法と存在し属性魔法よりユニーク魔法が強力な力を持つらしい。そして神少年は言葉を続ける
「そして、君にもユニーク魔法を授けたんだよ!」
「…は?俺に?」
「そう!ユニーク魔法!魔法名は『大気万成』あらゆる自然的現象を操る魔法だよ!強いね!」
祐太は言葉に出来なかった。身体を作り替えてもらいその上チート級な力をも授かった。
「何で?って顔してるね!…まぁ、一言で言えば僕が君の事を気に入ったからだよ!面白いしね!」
「…何ともまぁ喜んでいいのか困る答えだな」
「そこは素直に喜ぼうよ!神の恩恵だよ?」
祐太はむず痒く感じる思いを隠しながら感謝の言葉を神少年に送る。
「まぁ、ありがとう、助かるよ」
「それはこちらこそだよ、無理矢理でも出来ることを君は進んで受け入れてくれたからね。もし受け入れてくれなかったら生き返らせるなんて考えもしなかったよ」
偽善的言葉だったが思いの外感謝されてたようで、祐太も顔が綻ぶ。ある意味これで良かったのだと思えたのだ。
「それじゃ、君とは此処でお別れだよ。元の森に戻すから身体を慣らすといい、服はオマケね!」
「あぁ、助かるよ。またな」
「うん!またね!」
神少年との話も終わり森に戻ってくる。見慣れては無いが元の場所に戻ってきたと感じる。そして、思い出した。魔法の事は教えてもらったが使い方を教えてもらってないと、そしてこの世界の詳しい事についても教えてもらってないと…
「…やらかした、つい浮かれて話を聞くの忘れてた…」
悲しげな独り言が森に響いたのであった。
誤字脱字などございましたら教えて頂けたら幸いです。
感想など待ってます。