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魔術世界で生きるには  作者: なこ。
燃え上がる体育祭編
2/2

その魔術師、起床

「そろそろ起きなさい!!」


毎朝のように部屋中に大声を響き渡らせる。

それは、二階の部屋だけなく、

一階のリビングまで届くほどの声量だ。


そうやって毎日懸命にわが娘を起こそうとしているのは

もちろん母の私…


ではなく、

娘愛用の目覚まし時計。

名前はベル。


「まったく! いつまで寝てるつもり!?

そろそろ起きないと、お腹に飛び乗るわよ!!」


頭上の金に輝くツインベルを激しく打ち鳴らしながら

オレンジ色で、白と薄い黄色の水玉模様が入った丸い体を揺すっている。


目覚まし時計特有の少し…いや、

かなり高めのキーキー声でも起きない娘は曲者だ。


さすが、知名(ちな)家きってのねぼすけさん。


え?目覚まし時計が話すわけ無いって?


物は人よりお喋りで

人は物を従える


これがこの世界での常識。


といっても、魔法をかけた物限定だけどね。


「ええと、ディッシュたち パンを乗せるから、来て~っ」

キッチンにいる私がそう声を出せば、食器棚から

真っ白なお皿がニ枚、クルクルと飛び出てきた。


「おはよう。Mrs.アヤコ」

「えぇ おはよう」


いつものように挨拶を交わすと、

ツルツルな純白の上にチーズとハムの乗ったこんがりとしているパンを置いた。

すると、彼らはクルクルと陽気そうに舞って、薄茶のテーブルの上に落ち着いた。


ちらりとデジタル時計を確認。


am6:30


やだ あのこったら、そろそろ起きてこないとまずいんじゃないかしら…


そう眉を顰めたとき、


ガシャン!


これまた大きい音が家に響いた。

娘が目覚まし時計を止めた音だ。

先ほどのベルの怒鳴り声が嘘みたいにパタリと止む。


そしてあまり時間がたたない内に

階段を駆け下りてきた。


「ふぁ~っ おはよ~」


大きな欠伸(あくび)をしながら、眠そうな瞳を擦る。

しかも旦那似で、癖の強い黒髪をさらにゴワゴワにして。


月彩(つかさ)っ ベルに迷惑かけないのっ」


寝ぼけている娘のおでこを指先でツンッ、としながら言うと


「ふぁい。」

と気の抜けた炭酸飲料のような返事が返ってきた。

まったく…このこったら…。


そのままマリモのような髪をゆさゆささせながら

椅子に腰をかける。

いただきまぁす、とぼそぼそ呟くと

サクリ、とパンを(かじ)った。


「うんまぁぁぁ」


はいはい、そうですか。

美味しいなら良かったわ。


月彩の髪に内心ため息をつきながら

(くし)を手に取る。


茶色の櫛先で黒いマリモを撫でつけると、

制服のタイが乱れているのが目に入り、髪を(とかす)ついでにささっと直した。

「ん、ありがと~」とモグモグしながら言われる。


橙色ベースで、黒の千鳥格子(ちどりこうし)柄のリボンタイは

文能城(あやのしろ)学園高等部一年生の証拠。


二年生は深緑、

三年生は臙脂(えんじ)

それに黒の千鳥格子とシックなリボンになっている。


オシャレよね~

可愛い制服も文能城学園の人気の一つなのよ。

私が子供の頃はこんな可愛いの無かったわぁ

確か私が着けていたのは…



「うぁっ!!」



急に月彩が立ち上がる。

月彩は突飛に動くことがあるから警戒してたけど、

昔の思い出に耽っていて完全に油断してた。


「いけないっ遅れちゃうっ!」


娘の声にハッと時計をみると am6:55


あらら、大変。電車間に合うかしら。


椅子から飛び降り

ガサッと学校用の水色のリュックを肩にかけると

駆け足で玄関へ向かった。


机の上に、紺に金色の星柄で彩られたナフキンで包まれている

お弁当箱が目に入り

「月彩、待ってっ」と少し大きな声を出した。


すぐに娘のところに向かい、はい。と手渡す。


「ありがとっ お母さん、行ってきますっ」


最後の方は言い終わる前にダッシュで出て行ったから

あまり聞こえなかった。

普段からあんなにバタバタしてる子だけど、頭が悪いワケではないのよね。


はぁ…、あのこのおかげで、毎朝急がしいったらありゃしないわ。


軽く微笑みながら、腰に手を当てふぅ。と一息つく。



「まったく…。昔から変らないんだから。」



呆れが混じった優しい声だ。





















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