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ARCADIA ver.openβ≪Playing by Elz≫  作者: Wiz Craft
〆 第三章 『変わり行く世界』
98/242

 S28 未知との邂逅

 薄明るい森の中、敷き詰められた柔らかな青葉をばっさばっさと踏み上げ舞い散らせながら奥へと進んでゆく少女。その視界の先には何を捉えているのか、エルツとアップルはただ彼女が絶え間なく投げ掛ける質問に答えながらその後を追っていた。


「目玉焼きには醤油とソースどっちかけるタイプ?三秒以内に答えよ。いーち、にー」


 カウントを始める彼女にエルツは気疲れを隠せない顔色で答えた。


「う〜ん、やっぱ醤油かなぁ」

「アップル隊員は?」


 アップルはその答えに少し首を傾げ笑顔で口を開いた。


「はい、僕は塩派です」


――目玉焼きに塩?――


 エルツが心の中で、ちょっとした嘲笑を浮かべたその時。


「アップル隊員正解、エルツ隊員失格!」


 突如振り向くパピィ。


「し、失格って……」


 パピィはずんずんとエルツに近寄ってくると、顔を近づけて言い放った。


「他愛もない二択から第三の答えを導き出してこそ、我が隊員にふさわしいのだ。エルツ隊員、1点減点!」


 いつの間に得点方式が稼動していたのか、自分の今の持ち点は何点なのか突っ込もうとしたが、エルツは思い止まった。なるべく話は広げないようにしよう。どんどんパピィの不思議世界に引き込まれていく自分を全力で阻止しようと、そう心に誓っていた。

 それから暫く歩くと、パピィの足が止まり一同は立ち止まる。辺りの樹木の根元にはMush Hopperの姿が点在して見受けられた。

 パピィは、ふとエルツ達の方を向くと、まずアップルにこう告げた。


「アップル隊員、わたしから七歩半離れよ」

「はい!」


 パピィの言葉に忠実に従うアップル。

 その意図が読めずに当惑するエルツに向かって続けてパピィはこう言い放った。


「じゃ、エルツ隊員。キノコ星人を連れてきて」

「え?」


 パピィは胸の前で両手を組んだまま、エルツにその不可思議な視線を投げつけていた。


――連れてきてって、木登ってないじゃないか――


 嫌な予感を覚え始めるエルツ。

 まさか、この子。キノコ狩り初めてじゃないだろうな。


「あの、パピィ……?」


 エルツはそれとなく質問を投げ掛けようとしたその時。


「はーやーくー!」


 パピィのその言葉に問答無用で背を押され、渋々と緑樹の下で横たわるMush Hopperに向うエルツ。彼女達から十メートル程離れたところで、ふとエルツは後ろを振り返った。すると、そこではパピィが相変わらず腕を組んだまま、アップルに一言二言、指図しているようだった。


「本当に木登らないのか。どうなっても知らないぞ」


 そうして、エルツはふと溜息をつく。

 しょうがない、ここは彼女達に敵のターゲットが回らないように、まず開幕STRING'S SHOTで自分に敵の注意を引きつけるか。危険だけど、それしか方法ないもんな。キノコが追ってきたらすぐ近場の木に登れば、多分大丈夫だろう。そうすれば、彼女達もここでの立ち回りを理解してくれる筈だ。

 Mush Hopperに向けってバロックボウを構え、今ゆっくりと弦を引くエルツ。


「一……二……三……」


 獲物をしっかりと見据えたまま、力強く引かれた弦の緊張を緩めないように保つ。


「……四……」


 そして、光り輝き始める矢を見つめながら、今エルツはその矢を解き放つ。


「……五!」


 解き放たれた矢が真っ直ぐに、獲物を捕らえる。直撃を受けたMush Hopperが飛び上がり、エルツに向かって飛び跳ね始める。

 さあ、用意は整った。後はパピィ達の目を覚ましてやるだけだ。実戦の厳しさを見れば彼女も理解するだろう。エルツが振り返り、そしてパピィ達に向けて駆け寄ろうとするエルツ。だが、その視線の先で輝くパピィの構えに思わずエルツは目を擦った。


「あの構え、まさか……」


 パピィは真っ直ぐに強く引き絞られた弦を、その手でしっかりと掴んでいた。

 間違いない、STRING'S SHOTの構えだ。


「……パピィ、止めろ!」


 そんな事したらターゲットがパピィに向いてしまう。

 だが、そんなエルツの危惧は実現の方向へと動き始めていた。

 エルツの目の前で閃光が走る。光の矢がエルツの頬を掠め、今背後で小さな呻き声が上がる。一瞬、動きを止めたMush Hopperが猛然と再び走り出す。


「パピィ、逃げろ!」


――くそ、ここは自分が盾になるしか!――


 パピィとMush Hopperの直線状にエルツは咄嗟に手を広げ立ち塞がる。

 Lv9のMush Hopperはその攻撃力は非常に高く、その上毒まで持っている。だが、今のエルツにそんな計算をしている余裕は無かった。焦りから生まれた咄嗟の行動。

 進行線上にいるエルツに対してMush Hopperが今容赦無く飛び掛ろうとしたその時だった。


「アップル隊員、発射!」


 パピィの掛け声にアップルが不敵な笑みを見せる。

 同時に放たれる真白な閃光。光の矢がMush Hopperの頭部に直撃すると、敵はエルツの寸前でその進行方向を変えた。アップルへと向かって走り出したMush Hopperをただ呆然とエルツが見守る中、パピィは次の行動へと出ていた。

 再び振り絞られるその弓。そして、Mush Hopperが跳ねてアップルに飛び掛ろうとしたその瞬間、再びパピィのSTRING'S SHOTがMush Hopperに炸裂する。その衝撃に再び獲物がパピィへと振り向きその進行方向を変える。


――まさか……これって――


「アップル隊員、射撃用意!」


 パピィの掛け声に再び弓を構えるアップル。振り絞られた弦は、五秒後に輝きを纏う。

 必死に行ったり来たり繰り返す獲物は自らの運命を悟っているのだろうか。ただがむしゃらにその二人によって踊らされる姿は滑稽にさえ見えた。


「アップル隊員、発射!」


 パピィの掛け声に再び放たれる光の矢。その光の矢を受けて悶絶するMush Hopper。静かに粒子化を始めた獲物に対して、さも平然とその姿を見下ろす二人。


――これはタゲ回しだ、この二人……半端じゃないプレイヤースキルじゃないか――


 未知との邂逅かいこう

 それは、また一つエルツの視界で新たな世界が開けた瞬間だった。

 

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