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ARCADIA ver.openβ≪Playing by Elz≫  作者: Wiz Craft
〆 第三章 『変わり行く世界』
94/242

 S24 海辺の光


■双華の月 土刻 22■

Real Time 4/23 21:50

 紆余曲折を経てレベルダウンを果たしたエルツは、あの日から再びアリエスとトマと共に、コカトリス狩りへと暫く明け暮れていた。ポンキチやペルシアはエルツがLv7になるまで、Lv上げを中止すると提案してきたが、そんな半刻(12日間)も彼らを待たせるような行為は悪いし、何より今後想定されるレベルダウンによるそうしたやりとりを考えるとキリが無いので、エルツは彼らを説得し、通常通りのLv上げを展開するよう了承させたのだった。

 それから、Lv6の振り出しへと戻ったエルツは経験値差の開いたアリエスとトマがLv7へなるのを見送ると、それからは一人キャンプ道具を持ってシトラス海岸へと赴き、レベルダウンから約9日間をかけてLv7へと返り咲いたのだった。


 シトラス海岸にて夜間まで狩りを続けていたエルツは海岸沿いの断崖近くに一人キャンプを張り、テントから望める夜の海を眺めていた。

 まるで街灯のように水辺近くに点々と灯る無数の光を見つめながら、エルツは一人呟いた。


Lampランプ Wormワームか……綺麗だな」


 あの光は地中から生えた全長1.5m程(地表に出ている部分は0.8〜1.0m程)のWorm<ワーム>と呼ばれる巨大なミミズのような生物が発している。夜行性である彼らは、地表部分先端から放たれるその光に集まってくる、小さな虫達を捕食している。

 その行程を想像し、間近で彼らを見つめてしまうと幻滅してはしまうものの、こうして遠めに眺める分にはとても神秘的で美しい光景であった。その無数のLamp Wormの近くで徘徊するはCutterのシルエット。昼間、浅瀬を徘徊していた彼らも潮が満ちて居場所を奪われると、ここまで上がってくるらしい。砂浜でちょこちょこと歩き回るそのシルエットは、昼間見る彼らの実像と違ってとても可愛らしい姿だった。

 こうした光景に気づく事が出来たのも、今までの紆余曲折があったからに他ならない。様々な偶然が重なりあって今エルツはここに存在し、この美しい光景と出会う事が出来た。

 唯一悔やまれる事があるとすれば、こんな美しい光景を前に、男一人で黄昏ているその一点だろうか。けれども、こんな美しい光景を独り占めしている現状を考えれば、そんな想いもただの笑い種にしかならない。

 エルツは微笑を浮かべながら、ふと仲間から送られてきたメールを開き見つめる。


「Lv7おめでとうございます……か。あいつ」


 この世界で知り合った大切な仲間達、夢から醒めれば全てを忘れる、故にこの世界だけでの付き合いだと言っても、現実でもここでもその大切さには変わりない。この前の一件がそうした気持ちをより明確に顕してくれた。

 また明日からはツァーレンウッドでの厳しい戦いが始まる。深緑の森林での、そこは完全なる狩り<ハント>の世界。こうして、景色を楽しみながら一人でゆっくりとした時間を、満喫する事など難しくなる。だが、そこにかけがえないの仲間達が待っている事を考えれば、大した問題じゃない。

 メールには何やら続きがあった。

 

「なになに……」


■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□


 差出人 Ponkiti

 宛先  Elz


 題名  Lv7おめでとうございます


 本文   親愛なるお兄様へ


      元気ですか、お兄様。

      ボクらもとっても元気です。

      今ボク等は四人で楽しくキノコ狩りをしています。

      ここで、ふとボク思ったんですよ。

      ボクらってお兄様入れると五人じゃないですか。

      でも、キノコ狩るには経験値の問題で

      四人じゃないといけないわけです。

      だけど、ボクら五人居る。

      困ったなぁっと思って色々考えてて。

      ボク数学苦手なんですけど、それでも一生懸命考えて、

      試しに「5」から「1」引いてみたんですよ。

      そしたら、なんと不思議「4」になりましたとさ。

      じゃあここで引いた「1」って何だろうって

      ボクさらに一生懸命考えてみたんです。

      そしたら、出たんです。答えが。

      ああ、何だ簡単じゃん。お兄様だって。

      お兄様ならきっと喜んでこの「1」役を引き受けてくれるだろうと思って。

      そういうわけで皆の合意も得ましたんで。

      悪いですが、お兄様。新たな愉快な仲間を見つけて下さいませ。

      お兄様ならきっと素敵な仲間が見つかるでしょう。

      影ながら応援してますよボクは。頑張ってね。


                By お兄様の素敵な下僕ポン吉より


■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□


 仲間からのメールを微笑ましく見つめながらエルツは今パーソナルブックを閉じる。


「ほう」


 これは夢だろうか。DIFOREでそれぞれの想いを語り合ったあの優しい仲間達はどこへ消えたのか。


「五引く一?ほう……確かに四だ」


 涌き出る想いは後から後からキリが無い。


「ほう……ほう……ほう……ってフクロウか己は」


 純粋な疑問は次第に怒りへと変わる。


「By お兄様の素敵な下僕ポン吉よりって、あのクソガキ! バカかあいつは!?ここまで薄情だとは思わなかったわ」


 怒声を上げながら失笑するエルツ。くそ、己をフクロウに変えた罪は重いぞ。


――ああ、見つけてやろうじゃないか、愉快な仲間とやらを!――


 一頻り海岸で吼えたエルツは砂浜にペタンと座り込む。

 今一度、その美しい夜海を瞳におさめると深呼吸をする。


「全くほんとにあいつら……」


 ふっと微笑するエルツ。

 そして美しい夜空と海辺の輝きに想いを馳せる。

 こんな輝きの前では全ての感情は色褪せてしまう。仲間達の裏切り、そんな事些細な問題じゃないか。この美しい光景を前に何を憤る事があるんだ。

 目の前に広がる世界に今一度微笑みかけるエルツ。


「って思えるか! もういい、寝るわ!」


 そうして、エルツの姿はテントの中へと消えるのだった。

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