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ARCADIA ver.openβ≪Playing by Elz≫  作者: Wiz Craft
〆 第三章 『変わり行く世界』
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 S17 遠征準備

 こんなに話を大きくするなら前以って計画を立てておくべきだという事はエルツは重々承知していた。それでも、突然の誘いを送ったメンバー達は明日の狩りを快く参加を表明してくれた。誘いを送ったメンバーはPonkiti、Pelsia、Aries、Tomaの四名。当日は泊まりの可能性も有り、初対面のメンバーも少なくないにも関わらず、彼らが参加を決意してくれたのは、これからの狩りを見越しての事もあるだろう。今後は、狩場が街から遠く離れた場所になる局面が多く出てくる、そうした時は見ず知らずのプレイヤーとキャンプを張る事も少なくない。現実では考えられない事だが、この世界では極一般的にそれが成立するのだ。中には悪意あるプレイヤーも少なからず存在するが、この世界ではもしもの時のために身を守るEMERGENCY<エマージェンシー>というボイスコマンドがある。何でもEMERGENCYという発音と共に、同時に周囲の映像情報がシステムサポートセンターに送られ、その映像を分析判断し、GMゲームマスターが転送されるという仕組みらしい。一体、事故的な発音も含め、一日にどれだけの映像情報が送信されるのか、一日二十四時間というその管理体制を想像しただけで、その気苦労が窺がえる。

 話は反れたものの、こうしてトロイの森へと遠征が決まり、フレンド達と約束を取り付けたエルツは一人Panastelパナステル Pentalonペンタロンへと必要器具の調達に出掛けたのだった。相変わらず、メンテナンスの余波を受けた店内は混雑を見せていたが、見回るに困る程ではなかった。両開きの扉を入ってすぐ、左列のクーラーケースには様々なアルコール類が陳列され、右側には水筒や野外での調理器具、それからテントといったキャンプ用品が並んでいた。


「テントの値段も色々あるんだな。木に吊るすタイプの一人用の寝袋から、ちょっとしたコテージみたいなものまで。予算が合いそうなのは、やっぱ三角テントか。寝袋じゃちょっと不安だしな」

「そうですねぇ、でもミノムシ気分を味わうなら寝袋もなかなか捨て難いですよお兄様」


 独り言のように呟いたエルツの隣でそう言葉を漏らす一人の冒険者。


「ん?ってポンキチ!?」


 ポンキチはニヤリと笑みを見せると、Vサインをエルツに見せた。


「向こうにペルも居ますぜ」


 そうポンキチが視線で示す先には薬品類を見つめるペルシアの姿があった。


「あ、こんばんは」


 相変わらずの愛らしい笑顔を見せるペルシア。


「何だ、ポンキチ隣に居たら居るって言ってよ。驚いた」

「そんなマヌケなお兄様もボクは愛してますよ」

「何を訳のわからん事を」


 そうして、二人は目の前のキャンプグッズを前に腕を組む。


「でも真面目な話、狩場が森である事考えると寝袋でもいいんじゃないですか?」

「いや、森で泊まるのは危険らしいよ。寝るのは森前の草原だって」


 エルツの言葉にポンキチは口元を撫でながらまた口を開いた。


「あ、そうなんですか。それじゃやっぱりこのオーソドックスなテント選ぶべきですかね。そうですよね、お兄様と愛を育むためにはこのくらいの広さは必要ですし」

「まだ言うかお前は」

「ボクは本気でし!」


 そんなポンキチのクリケット節を無視するエルツ。


「まあ、それは冗談として」とポンキチ。どこまで冗談だったのか。


 その時、腕を組む二人の元へ入り口の方から二人の人影がやってきた。


「あれ、エルツさん」


 そう呼び掛けるのはアリエスだった。隣にはトマの姿もある。どうやら、エルツがメールを一斉送信したせいか、皆同じタイミングでここへやってきてしまったらしい。


「奇遇ですね」


 そう言って隣に並んだアリエスがふとポンキチと顔を合わせる。アリエスに視線を投げ掛けられ、慌てて仲介する。


「あ、彼がポンキチ。明日一緒に遠征する子だよ。で、あっちの女の子がペルシア」


 それを聞いて改まり礼儀正しく頭を下げるアリエスとトマ。


「どうも初めまして。アリエスです」

「トマです」


 二人の自己紹介にポンキチは笑顔を見せる。


「どうも、はじめまして。エルツさんの親愛なる下僕、ポンキチといいます」

「ちょっと待て、お前」


 ここに来て急にボケ属性を確立し始めるポンキチに思わずツッコむエルツ。


「あ、はじめまして。ペルシアです。明日はよろしくお願いします」


 ペルシアは一同の元へやってくると愛らしくお辞儀した。


「やあ、ペルシアさん久しぶりだね」

「あ、トマさん!お元気でしたか?」


そう、この二人は以前初めてエルツがパーティリーダーを務めた時に一緒だったのだ。


「お知り合いですか?」とポンキチ。

「ああ、以前エルツくんのパーティーで一緒になったんだ。そういうポンキチくんも実は前から知ってるんだ」


トマの言葉に驚いた表情を見せるポンキチ。


「あれ、すいません。どっかでお会いしましたっけ?」

「ポンキチくん、昼間良く広場でフリー対戦やってるだろう。いつも同レベルなのにすごい動きをするなぁと思ってよく見かけてたんだよ。それに掲示板でもポンキチくんの書き込みは目立ってたからね」

「キャー、恥ずかしい」


 トマの言葉に顔を両手で隠すおどけて見せるポンキチ。


「世間は狭いですね」

「全くでし」と、アリエスにポンキチが同意する。


 初対面だというのに、一同は自然と打ち解けるのが早かった。ここで出会えたのは偶然とはいえ、丁度良かったかもしれない。当日いきなり見ず知らずの他人と組むのとこうしてワンクッションおけるのとでは気持ち的にも大分変わるだろう。


「明日が楽しみです。足引っ張ってしまうかもしれませんけど、宜しくお願いします」

「ほんと楽しみですね。足引っ張るなんてそんな事ありませんよ。私達も初めての狩場ですし。こちらこそ宜しくお願いします」


 アリエスに微笑みかけるペルシア。

 それから、一同は遠征に必要な器具を一通り購入し、明日という日に備えるのだった。

 決行はいよいよ明日。初めてのキャンプという事もあり、自然と一同の胸は高まる。


――トロイの森か――


 そこは一体どんな所なのか、果てない期待と同時に不安も少なからずある。

 一同はそれぞれの想いを胸に店先で手を振りその日は別れた。


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