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ARCADIA ver.openβ≪Playing by Elz≫  作者: Wiz Craft
〆 第三章 『変わり行く世界』
80/242

 S12 シトラス海岸 -VS Cutter<カッター>-


■双華の月 土刻 5■

Real Time 4/23 4:31

 スティアルーフ西門から北西へと伸びる断崖に沿って10km。緑色の苔に覆われた断崖は緩やかな傾斜と共にコバルトブルーの海へと交わり行き、そこには珊瑚の群礁に囲まれた砂浜が開ける。その砂浜こそシトラス海岸である。海岸の浅瀬には岩礁が点在し、そこには浅瀬の窪みに糸を垂らす釣り人の姿も見受けられる。ここは釣り人の間では有名な釣りスポットなのだ。

 だが、この海岸が恩恵を齎すのは釣り人だけではない。浅瀬に浮き出た珊瑚礁の周りを徘徊する青紫の甲羅を持つ岩蟹Cutter(カッター)。水面から頭を半分覘かせ、波に浚われないようにじっとへばりつくこのモンスターこそが今回のターゲットである。そのステータスはShamelot(シャメロット)と比較すると全体的に高く、中でも突出して物理防御力が高い。蟹自体の立ち回りはそう変わるものではないが、その防御力の高さからこちらが扱う武器は限定される。

 浅瀬へと足を浸すエルツ。赤銅の具足が水飛沫を上げて水の中に沈むと、冷たい感覚が足元から立ち上った。足元から引いていく潮の流れを感じながら、今ゆっくりと青紫の甲羅を目指して進んでゆく。浅瀬の所々に点在する窪みは、底は深いようだった。あらかじめCITY BBSで調べた情報によるとこの窪みは海底で繋がっており、大きいものになると直径五メートル、深さ十メートル程になるらしい。何れにせよ、落ちたらただでは済まないという事だ。浅瀬には窪みの他にも隆起した岩場が存在する。その岩場に手を掛けながらエルツはゆっくりと色鮮やかな珊瑚に囲まれた足場を確認して歩み進んでいたのだった。ところどころ浅瀬の窪みには小さな遊魚と共に、それを追い掛ける赤い背鰭せびれのついた体長70cm程の獰猛な魚、Scouzerスカウザーの姿が見られた。潮の流れによっては、あの窪みから浅瀬にあの魚が出てくる可能性もある。念のためにSalamanderの香水をエルツは一吹きすると、再びバロックアクスを構えた。

 基本的な武器の立ち回りは、旅立ちの島で体験している。あとは、昨日練習した斧のWAを実戦でいかに活かせるかだ。足元が水に覆われているこの地形は、移動という意味において多少水の抵抗から速度は落ちるがそこまで障害にはならないだろう。


「さて、狩りますか」


 珊瑚にこびり付いた海藻の周りに群がるCutter達。近くで見てその体長を確認したところ、そうShamelotと変わるものではない。大体平均50cm程、大きいものでも65cmといったところだろう。Cutterカッターは近距離に三匹程密集していたが、リンクはしないし直接ここで一匹ずつ狩っても問題はないとエルツは判断していた。そう遠く離れていないところに高Lvの釣り人の姿も見受けられるし、もしもの時は彼らが助けてくれる筈だ。多分……。

 そんな目算を元に、Cutterに向かって斧を振りかぶるエルツ。願わくば人に助けを借りるような事にならない事を祈って、今その刃を振り下ろす。鈍い衝撃音と共に揺れる青紫の甲羅。突然の攻撃に対して猛然と怒れる青紫蟹が反撃に出る。大きな鋏を振り回すその姿はどこか懐かしい。攻撃パターンはShamelotとそう変わらないと聞いていたが、確かにその情報は正しいようだ。水場に加えて重量のあるバロック装備のため、身軽に避けるといった所作は叶わないが、それでもダメージは大した事はない。

 振り回されるはさみがバロッククウィスの前に、湿った金属音と共に弾き返される。獲物との高低差から盾ははっきり言って機能しないようだった。


Change(チェンジ Shield(シールド) Freeフリー


 ボイスコマンドと共に盾が光と共にエルツの手から消える。

 初戦は肩慣らしのために、敢えてLv5のCutterに手を出したが、これなら相手がLv6でもそう難しい狩りではないだろう。的確に斧でダメージを与えながらエルツはWAのタイミングを伺う。だが、ここで一つエルツの脳裏に疑問が浮かんだ。CITY BBSで有効とされていた片手斧のWAであるBack(バック) Driveドライブ、その「型」は背面からの半回転以上の捻りを加えた横薙ぎ、が条件である。背面から半回転以上となると、やはり腰元を基準に背面から半回転対象に目掛けて振り抜くのが自然なフォームとなるだろう。少なくとも実際練習してきた「型」は前述に違いない。だがよくよく考えてみれば基本的な事を見落としていた気がする。盲点というか、ただの浅慮というべきか。こうして思考がくどく巡るのも、その事実に到達したくないがため、だがいくらそこへ到達する事を先延ばしにしても結論は変わらない。

 エルツはふと溜息をついた。そう、その結論とは既に盾を引っ込めた時点で出ていた答えだった。高さが合わないのである。対象のCutterの体長はどんなに大きくても一メートルになど到底及ばない。そんなCutterに対して背面から、振り抜いた斧を当てるなど、至難の業である。だが、攻略掲示板には確かにBack Driveを当てて転ばせるという記述があった。これはどういう事なのか。ただのガセネタとも思えない。それならば情報提供する意味が無いし、何より内容は具体的なものだった。何か根本的な見落としがあるのだろうか。

 攻撃を加えながら足場を移動していたその時、ふと窪みに足を踏み込みそうになって、エルツは近場の岩礁に手をついた。


「岩礁……」


 この辺りには所々に点在する窪みと同様に隆起した岩場が存在する、その事実をふと思い返し、エルツは顔を上げた。ふとバロックアクスを足場に叩きつけ、その振動で獲物を挑発するように水飛沫を上げる。一瞬、動きを止めたCutterはすぐにエルツの後を追い始める。巧みに足場を移動して、Cutterを思惑の場所へと誘導を始めるエルツ。


「こっちこっち!」


 一メートル程の高さを持つ岩場に手を掛けながら迂回して、敢えてCutterが岩場を登るように仕向ける。そしてエルツの思惑通り、少しずつ岩場を上り、次第に獲物を見つめるエルツの視線が上がってくる。そう、これこそがエルツの狙いだった。


「高さが足りないなら、足せばいい」


 与えられた地形でそれぞれのスタイルにあった有効な戦術を思索する。それこそが狩りの醍醐味だ。腰上まで上がり鋏を振り翳すCutterに対してエルツは背を向ける。


「悪いけど遠慮はしないよ」


 そして、斧を腰元に構えたエルツは横一直線に、背後のカッター目掛けて薙ぎ払う。

 背面から横薙ぎされるバロックアクスが光を帯びる。それは「型」が成功した事の証だ。

 衝撃音と共に直撃を受けたCutterの身体が岩場から転げ落ち、足元でひっくり返る。


「今だ!」


 エルツはそう叫ぶとひっくり返ったCutterに向けて止めの一撃を浴びせた。

 ひっくり返った無抵抗な蟹に止めの一撃を浴びせる、釣り人から見たらどんな光景に映っているのだろうか、などと少し不安を抱きながら周囲を見渡すエルツ。

 立ち昇る粒子を見つめながらエルツはほっと一息つく。地形を利用した狩り、それはまたこの世界での狩りの形に無限の可能性を感じた一瞬だった。


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