S7 水仙の滝
ラクトン採掘場はスティアルーフから東門を抜けて東エイビスの原野を7Kmほど北上した山岳地帯にある。人間の歩行速度が時速2〜4Km程である事を考えればおよそ3時間もあれば裕に辿り着けるだろう。それがエルツの目算だった。
もしもの時のために食糧や水は、食料品店で多めに調達しておいた。攻略BBSではキャンプセットを雑貨屋で買う事が推奨されていたが、つまり原野で泊まる事を想定しているプレイヤーの書き込みも少なからずあったが、香煙草の影響で毎日大反響の雑貨屋にキャンプセットを今買いに行く事は正直気が引けた。それに、今回は軽い下見の予定だったのだ。どんな狩場なのか、知識では無く少し体験して雰囲気を味わってみたい、そんな試算的な目的からすれば今回は日帰りという計画で充分だった。
東門を抜けると、そこには相変わらずの晴れた空が広がっていた。心地よい陽光の下を、ただ一人MAPを見ながら北上して行くエルツ。いつもマンドラゴラを狩っていた近場の森を遥か右に流し見ながら、左手を流れる清流に沿ってただ歩く。
幾つもの小さな木立や森を抜け、歩く事一時間。次第に河原は上流に向かって緩やかな傾斜を帯び始めていた。ここまでにこれといってアクティブなモンスターにも出くわしていない。清流にそって歩くのが最も安全で近道だと攻略BBSには書いてあったのだが、どうやら情報を信じて正解だったらしい。
ただ砂岩の河原をひたすら歩き続け、次第に泥地化した苔の生えた大地を踏みしめながら、それからまた一時間もした頃、エルツの目の前には目的の滝が見えてきた。崖上から舞い落ちるその清流はまさに水仙の滝と呼ばれるに相応しい。エルツはその美しい滝の流れに暫し見惚れながら、ゆっくりと滝の裏手へと回ってゆく。ラクトン採掘場への入り口はこの滝の裏手にあるのだ。突き出た崖下を回り込むように滝の裏手へと回ったエルツが目にしたものはぽっかりと巨大な口を開けた洞窟の入り口だった。洞窟の壁には淡く点灯する白蝋のランプが小さな円球上の光を点々と広げていた。エルツが狩場とするポイントまではこのランプが取り付けられているため、特に光源は持っていく必要は無いとの事だったのだが、思ったよりも薄暗いというのが正直な感想だった。
若干、不安を覚えながらもとりあえず採掘場前、滝の裏側の岩場に腰掛け昼食を広げるエルツ。時刻はまだ正午前である。ここまでは予定通りといったところだった。
食料品店で買ったサンドウィッチを頬張り、アップルジュースを片手に街で予め調べておいた検索ログを広げるエルツ。今一度進行ルートを確認しておこう。
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City BBS
▼攻略掲示板
ALL ラクトン採掘場Lv上げポイント for Lv5〜6/Mark(01/四天/氷/4 10:23)
□投稿者 Mark ラクトン採掘場Lv上げポイント for Lv5〜6
■ラクトン採掘場のLv上げポイント
採掘場に入ったらまず右側の光源に沿って洞窟内を進む。五十メートル程奥へ進むと、天井が低くなり、そこを抜けると開けた部屋に出る。この部屋に入る前に必ず香水を使っておく事。でないと死亡フラグ確定します。そこを真っ直ぐ抜けて十数メートル進んだ分岐路を右へ。帰りはここの分岐路は左になるので注意。その小道を進んだ先の分岐路を左へ曲がってすぐの小部屋がトンネラーが三匹湧くポイントです。湧くポイントは一匹ずつ離れてるのでリンクの危険はほぼ無し。ただしこの部屋の湧き間隔は五分と短いので休む場合は、必ず部屋外の通路に出て休む事。
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暫く休んでいると、数人の冒険者が採掘場の中へと消えて行った。
City BBSによると、ここでは雑貨屋Panastel Pentalonで販売しているピッケルを用いる事で発掘作業が出来るらしい。ここを訪れる冒険者のほとんどはその発掘が目的という事だった。おそらく今採掘場の中へ消えて行った冒険者達もその手の者達だろう。
休息を充分に取ったエルツは今腰を上げ、洞窟の入り口を見回す。
「さて、ソロ狩りと行きますか」
でも、その前に。ふと振り返るエルツ。
暗い世界へ赴く前に今一度この美しい滝で目を癒しておくとしますか。
美しく清らかな滝は今も変わらず、絶え間なく流れ落ちていた。