S4 VS Foopy<フーピィ>
街外れの草地で立ち尽くす二人。背後には美しく広がるスティアルーフの街並みが。目の前には広がる大草原が。そこには、本来であれば綿兎が戯れる、低レベル者用のLv上げ、また金策に用いられる絶好の狩場なのだが。
「なんていうか、本当に軽率だったというか」
目の前に映る光景を前に呟くスウィフト。
街外れの草地には既に情報を聞きつけた多くのプレイヤーで溢れていた。概ねあの掲示板の情報が原因だろう。
「やっぱ考える事は皆同じか」とエルツ。
情報の力とはつくづく恐ろしいものである。昨日、少なくとも情報が公開されるその時までは、ここは平穏な綿兎戯れる和やかな狩場であったに違いない。だが今日来てみれば状況は一変していた。高Lv者達の圧倒的な乱獲によってただのウーピィを探す事さえ難しいこの殺伐とした状況。光が舞い降り収縮し、リポップした瞬間に狩られる哀れな綿兎の姿。血も涙も無いとはこの事だろうか。完全にこのエリアから彼らは姿を消していた。
「皆あの掲示板の情報見て来たのか」
「たぶんね。情報なんてあっという間に広がるもんだし」とスウィフト。
「これじゃ、狩れる確率なんて宝クジみたいなもんですな」
溜息混じりに呟くエルツとスウィフトの背後で今リポップを示す光が緩やかに舞い降りてきた。
「お、なんかポップするみたい。ノーマル(普通のWoopy)でも一応狩っとこうか」
「そうだね、抽選ポップだって話だし一応湧かせる作業に貢献しといた方がいいよね」
そんな事を話しながら二人は収縮する光をじっと見守っていた。
次第に具現化していく光。兎のような長い耳に、白狐のような真白に伸びた綿毛の尻尾。愛らしい丸い大きな瞳がキョロキョロと辺りを見渡し、そしてエルツ達に視線を沿わせる。
「ん……これってもしかしてさ」
ちょっとしたした違和感が次第に二人の中で膨張してゆく。
何故なら、そいつの容姿は二人が記憶しているWoopyの姿形とは形状が大分異なっていた。
「ただのWoopyじゃなくないコイツ!?」
Woopyよりも長く伸びた耳に、丸い尻尾では無く狐のように長く伸びた尾。
二人の中の違和感はその瞬間、確信へと変わった。
――Foopyだ!――
二人が同時に確信したその時、同時に獲物に対して武器を構えた。
そして、すかさず振り下ろした二人の視線の先には獲物の姿は無い。同時にエルツの足元に衝撃が走る。
「痛っ」
エルツの脹脛目掛けて体当たりしたFoopyは再び距離を前足を上げて後足だけで立ち上がり、こちらの様子をじっと観察していた。
「こいつ!」
「エルツ、大丈夫?」
蹴られた足元から立ち昇ったLEの光を見る限り、そんなに攻撃力は高くないようだ。ただ、普通のウーピィに比べるとその動きは素早い。
そしてエルツ達が慎重に襲いかかろうとしたその時だった。突然、前足をすり合わせるようにして真白に輝く球体を発生させたFoopy。
「なんだあれ」
真白に光り輝く球体はふわりと舞い上がりそして、エルツ達の視線の高さまで来るとその輝きを強め始める。
「なんだこの球……眩しい」
そして、次の瞬間。球体は弾け飛び辺り一面が輝かしい閃光に包まれる。その余りに強い光に思わず眼前に手を翳し、目を瞑る二人。
「なんだよこれ!全然見えない!」
Foopyの得体の知れないその攻撃に二人が必至に目を凝らし、光の収縮を待つ二人。一体何が起こっているのか。これはFoopyの特殊能力なのか。だとするなら、この光にはどんな意味が。これが何らかの攻撃への布石だとしたらまずい。急いでここを離れるべきか。だが、二人がそんな思考を張巡らせている間に、次第にその光は収まりつつあった。
光が収縮し収まった頃、そこからFoopyの姿は消えていた。
「逃げられた……?」
脱力する二人。今の一連の流れから考えて今の攻撃は逃げるための動作だったのか。閃光を放って、こっちが面食らっている間に逃げるとは、少し相手を舐めすぎていた。攻略BBSでは随分簡単に狩ったように書いてあったが、仮にも敵はレアの称号を持つモンスターだ。一筋縄では行かない相手だったのだろう。
エルツとスウィフトが脱力する中、街外れの草地のあちこちでは、歓声が上がっているようだった。
「Foopyだ!Foopyが出たぞ!」
「逃げたぞ、そっちだ!捕まえろ!」
あちこちを逃げ回るFoopyに対して、掛け声と同時に閃光が迸る。どうやら、逃げられているのは自分達だけじゃないようだ。
それから散々場をかき回した挙句、結局最後にFoopyを仕留めたのはLvの若い女の子のようだった。後悔の気持ちは拭えないが、あのFoopyの潜在能力を考えると、単純にただ惜しかったとも言えない。Foopyを狩るにあたって研究の余地はまだまだあるだろう。
笑顔で喜ぶ彼女を横目に、エルツとスウィフトは彼女の健闘を称えながらスティアルーフの街へと引き返すのだった。
――世の中そんなに甘くない、か――