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■双華の月 氷刻 24■
>> Real Time 4/22 23:46
来る氷刻 24日。この日コミュニティルームはかつてない賑わいを見せていた。
そう、オルガの送別会である。オルガとの別れはメンバーにとって辛いものだったが、だが悲しい顔をしていては、ここを新たな門出とするオルガに対して失礼である。メンバーは今までの思い出を振り返り、それぞれの想いを胸にオルガを笑顔で送り出す心持ちでいた。
そして、今日コミュニティルームが賑わいを見せているのにはもう一つの理由があった。
ソファーに座る見慣れない人物達の姿。そんな一団に対して向けられるメンバーの視線には、明らかにただのコミュニティメンバーに向ける視線とは異なる敬意が含まれていた。
「で、シンさん。どうなんすか、グリードは倒せそうです?」
ドナテロが酒を注ぎながら、語り掛ける相手。そう、彼こそが間違いなく、このWHITE GARDEN のコミュニティリーダー、Sin[Lv25]であった。ドナテロより二つ年上だというシンは非常に若く爽やかな好人物のように見えた。だが、このコミュニティのNO.1に君臨するそのポテンシャルは見た目では計れない。なんと言ってもあのオルガでさえ一目置く人物である。
「どうだろうな。今狩ったとしたら多分、99.9%の確率で全滅か」と微笑するシン。
「全然駄目じゃないですか」と笑いながらスニーピィ。
その言葉にシンの一つ隣りに座っていた金髪の男が口を開く。
「そう簡単には行かねぇよ。アウグスブルク周回に入って温床で日和ってるトップ層に、運営が挑戦的に宛てつけた正真正銘、最強の冠を被った飢獣だからな。範囲石化からのアースクエイクで、HP無視の強制破壊、物理完全無効バリア、丸呑みからの超強力なダメージスリップ、どれも現況装備やアイテムじゃ対策できない攻撃ばかりだ」
金の長髪を後ろに流し、男は隣のリーベルトへと視線を流す。
「Ninezさん、俺Lv上がりましたよ」
そんな嬉しそうに話すリーベルトを見るのは新鮮だった。何でもNinez[Lv24]と呼ばれたこの人物は、リーベルトの目標なのだそうだ。リーベルトが髪を金髪に染めているのも、このナインツに憧れてだとか。そう言われてこの二人を眺めてみると、何か微笑ましくその姿は師弟関係というよりは兄弟のように見えた。
そして、その向かいではリンスとユミルを隣に、何やら話し込んでいる栗色のショートヘアの女性。鼻筋の通った、白色の肌のその女性は、まるで彫刻のような美しさを秘めていた。彼女の名はLeila[Lv24]。シン率いるこのコミュニティ屈指のトップグループの中の紅一点。これだけ美しくて、高Lvの女性というのは、貴重な存在である。遠くから聞こえてくるその会話の節々から、理知的ではっきりとした性格なのだろう。エルツからすれば僅かに年上な彼女は、一同の視線を魅きつけるには充分な魅力を携えていた。
また一方では、子供達に囲まれて何やら弄ばれている一人の人物。
「コッペル、お金ちょうだい!」
ウィルにせがまれ困ったように笑うCoppel[Lv23]と呼ばれた小太りな男。
「いや、困ったな。ってお前達少しは自分で稼ぐ事考えれ! 特にウィル」
そう言いながらも結局コッペルは、子供達にいくらかのお金を与えたようだった。どうもせがまれると断れない性格らしい。愛嬌のある好人物のようだ。
そして、そんな様子を一人酒を飲みながら見つめる老人の姿。
エルツとスウィフトがそんな老人に一時目を奪われているとドナテロが横から語り掛けてきた。
「Roze[Lv23]さんか。物静かな老人に見えるだろ」
「え、違うんですか?」とスウィフト。
ドナテロはふっと微笑した。
「ああ見えて、うちのコミュニティが誇る最高の頭脳線。ただのご老体かと思いきや、あれでIQ180の化け物さ。舐めてると食われるぞ」
「IQ180……!?」
ドナテロの言葉に改めて、ロゼに視線を流すエルツ。
ロゼは静かにグラスのワインを口に運んでいた。
そんなそうそうたる顔ぶれが揃う中、コミュニティルームに今日の主役が姿を現した。歓声を上げる一同。
飾られた内装と温かい眼差しに思わず表情を綻ばすオルガ。
そこには、今まで数々の経験を共にしてきた仲間達の姿があった。
自然と零れる笑み。皆心の準備は出来ていた。
――心からの祝福を――
――さあ、宴の始まりだ――




