S27 FRIENDSHIP<フレンドシップ>
マンドラゴラ狩りから帰還したエルツは一人屋台市へと向っていた。今日も湯揚[Shang Yang]で定番となった綿兎の肉皿を頼みライスを手に取る。
肉を湯に通し、タレをつけてライスと一緒に口の中にかき込むと、ふとエルツの隣にウーピィ装備を纏った青年が腰を下ろした。
「今日の成果はどうでした?」
そう微笑み掛ける青年の言葉に、エルツは口の中のモノを飲み込む。
「結構それなりに収穫はあったよ。財政的には赤字だけど」
エルツが微笑を返すその人物は、アリエスだった。
予定が早く切り上げられたらしく、こちらへ十数分前に戻ってきた彼を、エルツが食事に誘ったのだった。
そこへもう一人長身の痩せた男が姿を現す。
「ああ、ここか。やぁ、こんばんは」
ライスを片手に持ちながらエルツは箸を持った手を上げて挨拶するエルツ。
「トマさん、こんばんは。午後の狩りはどうでした?」
「いや、それがすぐ解散してしまったんだ。なかなか今朝のようないいパーティには巡り合えないよ」
トマの返答に笑いながらエルツはまた一口ライスをかき込むと、初対面であるアリエスとトマをそれぞれ紹介する。
「トマさんて言うんだ。今朝のパーティで知り合った人」
エルツの言葉にアリエスはトマに頭を下げ、一礼した。
「アリエスです。エルツさんとは一昨日前のパーティで知り合いました」
「僕なんて今朝だよ。トマって呼んで下さい。見かけは君達より少し年くってるけど、気持ちはまだまだ若いつもりだから」
トマのその言葉に笑みを漏らす二人。
「それにしても、嬉しいもんだね。フレンドになってもらった人からこうして誘いを受けるのは今回が初めてだよ」とトマ。
「私もです」とアリエス。
その二人の反応にエルツは笑顔を返す。
「いや、こうして触れ合う機会があれば、もっと親しくなれるかなと思って。本当は女の子も一人誘ったんですけど。その子は先約があったみたいで今日は断られちゃいました」
エルツの言葉に二人は微笑を返す。
オンラインゲームではよくある事だが、フレンド登録はしたものの、ただその場のノリで登録してしまって、その後、疎遠になってしまう事は少なくない。酷い場合には、名前を見ても誰だか思い出せないなんて場合もある。
エルツ自身そんな経験が有り、以来なるべくこうしたオンラインではフレンドを大切にする事を心懸けていたのだった。
「そういえば、トマさん」
「ん、なんだい?」
エルツはふとした疑問をトマにぶつける。
「今朝のパーティの時思ったんですけど、アタッカーなのに、何でウーピィ装備着てるんです?」
その言葉にアリエスがトマの装備に視線を沿わせる。
「ああ、装備を買い換えようと思って、魔法屋でこの装備を見つけたから買ってみたんだけど、これってダメだったかい?」
「ううん、ダメじゃないんですけど。それってウーピィ装備って法衣って聞いてたんで。術士の人が着る装備だと思ってたんですけど、アタッカーの人が着てなんかメリットあるのかなと思って」
エルツのその質問にはアリエスが答えた。
「法衣ってSPプラスの効果があるんですよ。ウーピィ装備で言えばフルコンプリートするとSP+6の効果があります。防御力はバロック装備に比べると全然劣りますけど、それでも旅人服よりは高いですしね。そういった意味で術士の方が好んでよく着ます。他に弓使いの人も基本的に立ち回りは遠距離から狙撃という回避スタイルになるので、防御力重視のバロック装備よりウーピィ装備を着る傾向がありますね。アタッカーの人では珍しいですけどWAを優先するなら有りだとは思います」
「そうだったのか、全然知らなかったよ」と感心したようにトマ。
エルツもまたアリエスの説明にまた一つ謎が解けた。
「ああ、それでペルシア、ウーピィ装備着てたのか」
「ペルシア?」
問い返すアリエスにエルツはビールを一口含み答えた。
「今朝、パーティ組んだ女の子なんだ。かなりのプレイヤースキルの持ち主で驚いた」
「そうなんですか、募集掲示板で名前をお見かけした事は何度かありますね」とアリエス。
トマはそんな会話を酒の肴にビールを頼み、注文した綿兎の肉皿をつつき始める。
こうした何気無い会話の中からでも得られる情報というのは大きい。
特にアリエスは、なかなかの知識者で、同Lvでありながらもエルツよりもずっとこの世界についての情報に詳しかった。
そんなアリエスを感心したようにエルツが褒めると、アリエスは少し恥ずかしそうに否定した。
「私なんてまだまだですよ」
「いや、でもすごいよ。自分なんてアリエスに比べたら何も知らないし」
ビールを口にしながら、それぞれの想いを口にする一同。
「いつもCITY BBSの攻略掲示板ばかり見てますから。この世界で情報を集めるには人に聞くかそれしかありませんし」
「確かに、攻略サイトみたいのあれば楽だよね」
「このゲームに限っては中で情報を集めるしかありませんからね。表[現実]では一切このゲームに関する情報はありませんし」
そんな会話をしながら、食事を楽しむ三人。
緩やかな時の流れを感じながら、この世界で飲むビールの味はまた格別だった。
「いや、でも今日は本当に良かったよ。こっちへ来てからずっと一人でね。ここは素晴らしい世界だが、正直一人は辛かった」
トマのその言葉にエルツはふとした疑問が浮かんだ。
「あれ、トマさんもしかしてコミュニティに所属してないですか、ひょっとして?」
「コミュニティ、何だい、それは?」
その応えに顔を見合わせるエルツとアリエス。二人は同じ考えを浮かべたが先に口を開いたのはアリエスだった。
「良かったらうちのコミュニティに入りませんかトマさん」
突然の申し出に当惑するトマにコミュニティの説明を始めるアリエス。
「うちのコミュニティは比較的年齢層も高いので、トマさんの話し相手には困らないと思いますし」
「それは嬉しいな。でも本当にいいのかい?」
「勿論です。今案内状差し上げますね」
そんなやりとりを見つめながらエルツはビールを飲み干した。
――うちのコミュニティは比較的年齢層も若いし、それに僕の一断じゃ決められないしな。残念だけど――
食事を終えると一同は再会を約束し別れる。
エルツの誘いに二人は充分に満足してくれたようだった。
これがフレンドという繋がり。
こうした繋がりの一つ一つがきっと真のフレンドシップの礎となるのだ。
夜空に広がる満天の星空は今夜も美しく輝いていた。