S23 CITY BBS<シティビービーエス>
エルツは街に戻る間、ドナテロがログアウト間際に残した言葉を思い返していた。
――もしパーティ組みたくなったら、ギルド行ってみな。そこで100G払えばシティBBSっての申し込めるから。まあ詳しい事は後は行きゃわかる――
街に戻るなり昼食も取らずギルドを目指すエルツ。
黒硝石によって作られたその艶のある外観の建物へ。入り口の大理石の階段を駆け上り、荘厳なギルド内へと足を踏み入れる。
中はまるで一流ホテルのロビーのようだった。エルムのギルドとはまるで質が違う。磨き抜かれた大理石の床と黒硝石の壁を見つめながら、エルツは中のカウンターへと向う。カウンターの中では礼服に身を包んだ女性が佇んでいた。
「あの、すみません。ちょっとお尋ねしたいんですが」
「はい、何でしょうか?」
女性はやわらかな笑顔をエルツに向ける。
「あのパーティを組みたくてここへやってきたんですが、知り合いにシティBBSというものを勧められたんですけど、それって何ですか?」
エルツの質問に女性は笑顔で頷いた。
「City BBS (ビービーエス)でございますね。City BBSとはここギルドが運営させて頂いております、冒険者の皆様がこの街に居る時のみ使う事が出来る交流BBSの事でございます」
「交流BBS?」
「はい、当BBSでは冒険者の皆様の交流を目的とした様々なサービスを提供させて頂いています」
エルツの問い返しに女性は説明を続けた。
「現在ギルドで運営させて頂いておりますCity BBSの内容は『攻略』『雑談』『パーティのお誘い』『アイテムトレード』『人員募集』の五項目となっております。『攻略BBS』ではこの世界での攻略情報についての情報を、『雑談BBS』ではこの世界の日常で起こったちょっとした出来事を。『パーティのお誘い』では冒険者の皆様のパーティ編成に関するお誘い合わせを。『アイテムトレード』では所持されているアイテムについてのトレードや商談を。『人員募集』ではこの世界のイベントやコミュニティに必要になる人員募集をして頂く事が出来ます」
「へぇ」
エルツはシステム内容を聞き、即座に返答する。
「すいません、それ申し込みたいんですけど」
「ありがとうございます、お申し込みには100Gが必要となりますが宜しいでしょうか」
女性の言葉にエルツは頷く。
「それではこちらのタブレットにサインを宜しくお願い致します」
差し出されたシートにサインをするエルツ。
そうして、緊張しながらも無事City BBSの申し込みが完了したエルツは、広場のベンチで早速パーソナルブックを開いた。
デスクトップに現れたCity BBSというアイコンをクリックする。
すると画面に掲示板の項目が表示された。表示された項目は女性が言っていた通り、『攻略』『雑談』『パーティのお誘い』『アイテムトレード』『人員募集』の五項目。
その中からエルツはまず攻略という項目をクリックした。
様々な大量の情報が飛び出す中、エルツはキーワード検索を掛ける。
Keyword:Lv上げ+Lv5
絞られた検索情報の中から数件がヒットする。
その中から、エルツは一つの題目をクリックした。
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City BBS
▼攻略掲示板
ALL Lv5帯のLv上げについて/Perm(01/幻蝶/雷/4 13:37)
→Re:Lv5〜のLv上げについて/Branket(01/双華/氷/4 13:40)
→てゆうか過去ログ読めよ/Thinkman(01/双華/氷/4 13:51)
→すみません/Perm(01/幻蝶/雷/4 14:05)
□投稿者 Perm Lv5〜のLv上げについて
質問です。Lv5になったのですが、急に経験値を得られる獲物が居なくなって困っています。何を狩ったらいいでしょうか?教えてください。
□投稿者 Branket Re:Lv5〜のLv上げについて
Lv5からなら主流なのはやはりセパレイトパーティを組んでの「Cocatris<コカトリス>Lv5〜6」狩りです。他にソロで狩れる対象としては東エイビスのラクトン採掘場:「Tunneler<トンネラー>Lv5〜6」と西エイビス、シトラス海岸:「Cutter<カッター>Lv5〜6」ですかね。ただ後ろ二つはソロで倒すのはかなり技術が要るし装備も限定されるのでお勧めしません。Lv6までなら生息数が少ないので時間はかかりますが、Lv5のマンドラゴラを狙って狩るのも無難だと思いますよ。
□投稿者 Thinkman てゆうか過去ログ読めよ
てゆうか、ほんとに少しは過去ログ読め。このLv帯ってコカ狩りって最初にぶち当たる壁だし、幾度となく繰り返されてきてる話題なんだからさ。ぶっちゃけこの手の質問もううんざりだわ。
□投稿者 Perm すみません
すみません、過去ログ読んでいませんでした。今後は気をつけたいと思います。
本当にすみませんでした。
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攻略掲示板のその書き込みに目を通すエルツ。
「最初の壁か……」
なるほど、求めていた情報の中で最新のこの書き込みを見る限り、やはりこれからはコカトリス狩りが軸となるようだ。そして、そのコカトリス狩りをするにあたって必要になるキーワードがセパレイトパーティだという事も分かった。
情報を手に入れた今エルツが今為す事は、そのセパレイトパーティを組むための仲間だった。エルツは徐にCity BBSの「パーティのお誘い掲示板」をクリックする。様々なパーティ情報が現れる画面でエルツは自らのLvを入力し検索をかけた。
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City BBS
▼パーティのお誘い掲示板
Lv検索:Lv5
時間検索:今日
検索結果:7件がHitしました
●Cocatris狩りのお誘い Aries(01/双華/氷/12 11:45) 返信数:3
●一緒にLv上げ行きませんか Pinats(01/双華/氷/12 11:08) 返信数:7
●初心者ハンター募集 Veet(01/双華/氷/12 9:59) 返信数:11
●コカ狩り誰か行こ〜! Miku(01/双華/氷/11 7:59) 返信数:13
●私と一緒に弾けてみませんか? Sumeragi(01/双華/氷/11 5:59) 返信数:0
●さああなたも一緒にコケコッコーwww Ponkiti(01/双華/氷/11 1:55) 返信数:3
●初心者です Toma(01/双華/氷/11 0:01) 返信数:5
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検索結果を一つ一つ表示しながら、下から順次内容を確かめるエルツ。
幾人か、見た目に痛い輩を流し見ると、エルツは上三つの情報を確かめる。
「う〜ん、初めはやっぱり初心者パーティで肩慣らしたい気もするけど。もう定員決まって、出発しちゃってるのか」
エルツは Veetという投稿者の内容を読み終えると、二番目の記述に目を通し一番上へ。
「上二つは1:00〜狩り開始予定のパーティか。このPinatsさんてのは既に定員なっちゃってるみたいだし、となるとこの一番上のAriesさんのパーティしかないか」
今一度Ariesの募集内容に目を通すエルツ。
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City BBS
▼パーティのお誘い掲示板
□投稿者 Aries Cocatris狩りのお誘い
当方Lv5 EXP55/100、水術を専攻としてます術士です。
本日、13:00からCocatris狩りを予定しているんですが、どなたか一緒に行きませんか?
セパ経験者、未経験者問いません。人数は3〜4人を予定。獲物は基本等分とします
何か質問があれば、受け付けますのでどうぞ
□返信 Carma
コカ狩り希望します。当方Lv5 EXP71/100の短剣使い。
セパはもう幾らか経験済み。セパ経験者、未経験者問わないって書いてあるけど、装備ももしかして問わない方向で?
流石に、未経験者でFull旅人装備で来られるとモチベーション下がりそうですけど。
□返信 Aries
確かに。ですが、正直あまり装備についても言及はしない方向で行きたいと思います。装備についても装備品が良ければ効率の良い狩りが保証されるわけではないですしね。結果、狩りについては自己責任になりますし
□返信 Carma
まあ、そこらへんは募集者であるAriesさんの采配に任せますよ。いい狩りが出来るといいですね。
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文章を読んだ感じ、この二人はCocatris<コカトリス>狩りの経験者のようだ。
「考えようによってはチャンスかもな」
物事を習得するには、経験者の輪に強引に割り込んだ方が覚えが早い場合もある。ここは一つ、この二人から盗めるだけ知識と技術を盗んでみるか。
若干、やりとりは初心者が入り難い流れにはなっているが、別に入れないというわけでも無い。装備だってバロック装備だし、立ち回りさえなんとかなれば問題は無いだろう。
そう考えたエルツは早速掲示板へと書き込みを始める。
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□返信 Elz
すいません、コカ狩り初心者なんですがパーティ参加させてもらえないでしょうか。当方Lv5なりたての長剣使いです。装備はバロック一式で固めてます。なるべく足を引っ張らないように頑張りますのでよろしくお願いします。
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エルツのその書き込みから数分後。時刻は12:42。
Ariesの返信が掲示板には残されていた。
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□返信 Aries
Carmaさん、Elzさん御参加ありがとうございます。
とりあえず、募集は現時刻をもって締めさせて頂きます。皆様ありがとうございました。
つきまして、参加者は13:00に西門に集合して下さい。
宜しくお願いします。
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「13:00に西門か。もうすぐだな」
エルツはPBを閉じる。
再び踊りだす胸の鼓動。
これだ、この感覚だ。オンラインゲームの醍醐味と言えば、まさに冒険者との触れ合いなのだ。そこにはソロでは味わえない無限の可能性が広がっている。
エルツは勇む足を抑えて、一人西門を目指し始める。
――そこには一体、どんな出会いが待っているのだろうか――




