S22 個別隊形<セパレイトパーティ>
■双華の月 氷刻 12■
>> Real Time 4/22 11:30
それはソロ狩りを開始して、五日目の朝、エルツは西エイビス平原に居た。その姿は今までエルツが着込んでいた麻の旅人装備ではない。そう、バロック装備である。
先日の夕方、エルツは念願のLv5に到達していたのであった。街へ帰るや否や食事を取る事も忘れ、Forcted Barok に駆け込み、装備を購入したのだった。
新しい装備に身を包んだエルツは草原の背の高い草むらの影からじっと獲物の姿を見つめていた。Lv5に上がり、今までのマンドラゴラの狩場では経験値が入手しづらくなったため、新たな獲物を求めてやってきたのだった。そして、ここへ来てエルツは一つの問題に直面していた。
体長一.五メートルから大きなものは二メートルにまで及ぶ二本足の地鳥。地表に悠然と立つその姿を見るのはこれが初めてでは無い。以前三人でパーティを組んでいた時、Lv差に加えて、二、三匹程の群れで行動するその習性から狩りを諦めたモンスターだった。
『Cocatris』。この大陸で数多くの冒険者が通る第一の関門である。群れで行動するその習性から冒険者達の間ではソロで狩る事が難しいとされる。かといって適正下Lvのパーティで挑む事も難しいモンスターである。
このモンスターに挑むにあたっての適正Lvは『5』以上、そして個別隊形を組む事がこの世界での定石である。
個別隊形とはパーソナルブック上でパーティとして認識されない隊形の事である。つまりパーティを組まないパーティである。
パーティを組んだ場合この世界では経験値は分配されてしまう。そのためLv5の冒険者達がパーティを組んで、コカトリス(Lv5〜6)を狩った場合、その経験値は入手する事は難しい。群れで行動するコカトリスを討伐する際に、経験値を得るためにはあくまでソロで討伐する必要がある。そこで考えられたのが個別隊形なのである。群れに対して、ソロの冒険者がチームを組む。そうする事で、たとえリンクした場合でも、安全に1VS1の状況を作る事が可能となるのだ。
そんな定石を全く知る由もないエルツの目の前で、今三人組の個別隊形を組んだ冒険者達がコカトリスに攻撃を仕掛けようとしていた。
「パーティ……いや違う」
エルツはその狩り方を見て、パーティでは無い事に気づく。何故ならばパーティではお互いがお互いを獲物に対してフォローし合う動作が必ず発生するからだ。しかし、今目の前で行われている狩りには、その動作は見られない。冒険者達はそれぞれの獲物に集中しているのだ。その姿は、さながらソロプレイのような錯覚にエルツは陥った。
そして、その動作の意味を考える事でエルツは一つの答えに辿り着く。
「そうか、そういう事か」
一人ではこの獲物は狩る事は出来ない。ならば街に戻って仲間を探すまでだ。
エルツはそうして街へと引き返す。
その瞳に確かな答えを宿して。