S17 中央広場『屋台市』
夕方、マンドラゴラを狩り終えた一同。夕方までに約三時間半の狩りで、十三匹のマンドラゴラを狩る事に成功した。三割というドロップ率ながら六枚のマンドラゴラの根を入手する事に成功した一同は、カードを等分し、アイテム屋で売却したのだった。一枚57ELKと高値で取引されていたマンドラゴラの根が二枚で114ELK。それが、午後の報酬となった。
報酬を得た三人はドナテロに教えられた中央広場の屋台市へと足を運んでいた。
DIFOREはランチは安いが、夕食のコースは跳ね上がる。単品で頼めば安価で済ませられるメニューもあるにはあるのだが、店の雰囲気からしてあまり気は進まない選択だったのだ。
夕方になると広場にはいくつもの昼間は出ていなかった幾つもの屋台が立ち並ぶ。気軽に食事するには、こちらの方が都合が良かった。
「あの海鮮あんかけ美味そうだな」とスウィフト。
冒険者で賑わう屋台カウンター奥では、見た事ない料理が香り豊かな蒸気を上げ、エルツ達の注文を待ち構えていた。
「色々あるんだな、目移りする。あれ何だろう?」
エルツが指す屋台では冒険者達は何やら獣の肉をカウンターに設置された湯が湧き出る銀の鍋に湯通ししているようだった。
「何だろあれ。しゃぶしゃぶ?」とエルツ。
「しゃぶしゃぶもいいね。入ってみようよ! リンスいい?」と声を上げるスウィフトに笑顔で頷くリンス。
食欲をそそる匂いが立ち込める広場のその一角で、エルツ達は誘い込まれるようにその屋台へと腰を下ろす。
三人の目の前では銀の鍋にぐつぐつと透き通った湯が沸いていた。その鍋の隣では銀の受け皿が固定されていた。おそらく、ここで注文するとこの受け皿に肉が出てくるのだろう。一同はPBを開き、メニューを確認する。
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〆湯揚[Shang Yang]
▽肉皿
□×1 綿兎肉 10 ELK
□×1 白羊肉 30 ELK
□×1 角牛肉 50 ELK
※肉量:一皿180g
※飯再來一杯自由(ごはんおかわり自由)
●注文する
●設定クリア
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肉を頼めばライスは無料という良心的な設定にエルツ達は早速値段と格闘を始める。
「ライス無料だって。いいね、ここ。肉皿は一皿180gか」
メニューを見つめながらエルツ達は呟く。
「どうしようか、流石に角牛一皿50Elkはきついか」とエルツ。
「綿兎の肉をまずは一皿ずつ頼んで、あとは三人で一皿、高い肉頼んでみる?」とスウィフトの提案。
「それいいね。じゃあ、どうしようか。皆ラム肉食える?」とエルツ。
「僕は大丈夫だけど」
そう言ってスウィフトが視線を振る先でリンスは「大丈夫」と頷いた。
「それじゃ、この白羊肉って注文してみようか」
そうして、それぞれがまずは綿兎の肉を注文し、エルツは加えて白羊肉も頼み、現れた肉を皆に回し始める。カウンター内では真白な鉢巻を巻いた中年の男が、皆にライスを盛り付けては、席を立った客のカウンターを丁寧に拭いていた。
「ライス皆頼むでしょ? すいません、ライス三つ」
「あ、わたし少なめにしてもらえますか」とリンス。
その言葉に中年の店員はエルツ達に肉皿を確認すると笑顔で「あい、毎度あり」と答えた。
差し出されたライスと肉皿を前に一同は大事な事を忘れていた事に気づく。
「タレってどれだろ。これか、紅腐乳ってこれってなんて読むんだ……?」
「ホンフウルウって書いてあるよ」
エルツにスウィフトが答えると、一同は紅腐乳を手に取る。
ねりごまをベースに、ニラ、紹興酒、黒酢、そして、“紅腐乳”という豆腐を塩漬けにして紅麹で醗酵させたという、独特な調味料。
エルツは手にとり一口味見をする。
「うわっ、しょっぱいな。かなり独特な、だけど美味しいよコレ。酒の肴にいいかも」
そうして、食事を楽しみ始める一同。
温かい食事にビールを飲み交わし、そんなささやかな幸せを楽しむ。
そんなささやかな幸せに溺れるもの悪くない。
人々を支える衣・食・住の生活。
それをリアルに味わえるのもこの世界の醍醐味なのだ。生きる事にとって食というものの大切さ。食べるという事の楽しみ方を、この世界は教えてくれている。
今日という日を『食』で飾り、明日という日を生きる。
それが、いかに素晴らしい事なのか、今更ながらにエルツは深く感じていた。