S8 B&B
繁華街を満喫していた一同は、広場へと戻ってきた。
街をゆっくりと見回るならば今日の宿を確保してからの方がいい、そう考えたからだ。
広場に戻った一同は、そのまま青空と海を背景に映える木造の建築物前へと移動する。
宿屋の看板には風情の感じられるインク文字で『B&B』と大きく記されていた。
その看板を見てエルツは一言呟く。
「ブラック・・・バナナ?」
それを聞いた瞬間に吹き出すスウィフト。そのまま本気でツボに入ったのか笑いむせる。
「ふざけんなよ、エルツ! どこの世界にB&Bをブラックバナナって読む奴が居んだよ」
そう言って胸を叩くスウィフト。普段あまり笑わないリンスまでもが声を出して笑っていた。
「ああ、死ぬかと思ったよ今。大体『&(アンド)』の読みもすっ飛ばしてるし」
腹を押さえながら涙目に赤っ鼻のスウィフトを前にいまいち笑われた理由を理解していないエルツ。
半ば呆れた様子でスウィフトは口を開いた。
「B&BってのはベッドBed & Breakfast の略だよ。素泊まり朝ご飯つきって意味さ」
「ああ、なるほどね。てゆうか知ってたよそれ。敢えてボケてみた」
「嘘つけ!」
散々笑った後に改めて看板をくぐる四人。
店内に入ると、木の優しい香りが漂っていた。天井には木製のプロペラ式の空調が回り、奥の二階へと上がる階段には蔓が巻きつき、自然な飾りつけがされていた。
受付のカウンターには爽やかな笑顔を浮かべた若い男性店員が一人。
店員はエルツ達の姿を見ると笑顔で歓迎の挨拶をする。
「ようこそ、いらっしゃいませ。[ブラックバナナ]へ!」
ズデンと派手な音を立ててずっこける一同。
「ななな!」
スウィフトが埃を払いながら立ち上がるのを見て店員は可笑しそうに笑った。
爽やかな笑顔を浮かべて両手を開いて見せる店員。
「いやぁ、冗談ですよ。たまたま外での話し声が聞こえたもので」
そう言って店員は悪戯な笑みを浮かべた。
「私B&B[ビー・アンド・ビー]のマスターを務めております。ミカエルと申します。以後お見知りおきを」
さり気なく自己紹介したミカエルにエルツ達もお辞儀をした。
「さて、本日はどの部屋へお泊りで?」
「どの部屋?」とエルツ。
「おや、お客さん方もしかしてこの大陸は初めてですかな?」とミカエル。
ミカエルは四人にPBを開くように促してきた。
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〆B&B
▽御宿泊
□ Single<シングル> 50 ELK
□ Sweet<スウィート> 150 ELK
□ Royal Sweet<ロイヤルスウィート> 300 ELK
●宿泊する
●キャンセル
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「三種類部屋があるんだ。すげ、ロイヤルスウィート300 ELKだって」
パーソナルブックを見つめながらエルツが興奮した声を上げる。
「全お部屋につきまして、お部屋での朝食をつけさせて頂いております。値段によってサービス内容は変化しますがね」
そう言ってミカエルは微笑んだ。
「財政事情からすると、当然ここはシングルか。ロイヤル興味あるけどなぁ。シングル50ELKも結構痛手だなぁ」とエルツ。
「でも、朝食つきだよ?そう考えると割安じゃない?」とスウィフトが返す。
それから、一同は皆シングルの部屋を選択して予約を入れた。
「かしこまりました。それでは皆さんのお部屋は一階になりますので、いつでもご自由にお入り下さい。チェックアウトは明朝10:00となっておりますので、お忘れなく」
「わかりました、ミカエルさん」
そうして、一同は一階の奥へと歩を進める。流石に、宿屋の転送システムには慣れた一同は、そのまま木の香り漂う通路を通り各々の部屋と落ち着いた。
シングルの部屋の造りはワンルームにシャワーと洗面台がついたオーソドックスなものだった。ただ今までと比べると、ベッドシーツもしっかりと張られ、洗面台にある歯ブラシと石鹸も質が良さそうで、どこか部屋全体から気品のようなものが感じられた。
「ふぅ、やっぱ宿は落ち着くな〜」
ベッドに机と椅子というお決まりになりつつあるセット。エルツはベッドに横になる前に窓から覗く景色を眺める。
鮮やかなグラデーションを描く空と海の境界、その手前には繁華街と、遠めに港の様子を一望する事が出来る。
「暫く、ここでゆっくりするか」
皆とは夕方前に、ギルド前の女神像前で落ち合う約束をした。
それまでは自由時間。
さて、何をしようか。予定は未定。
そう焦る事もないか、時間はたっぷりあるんだ。
窓の外の景色を眺めながら、エルツは静かに瞳を閉じた。