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ARCADIA ver.openβ≪Playing by Elz≫  作者: Wiz Craft
〆 第二章 『星々の輝き』
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 S3 Community Center<コミュニティセンター>

 広場は人通りで溢れていた。一行は緑の芝地を横目にその外周を回って、目的の建物へ。

 コミュニティセンターと呼ばれたその建物には、次々と冒険者が入っては出て、出入りの激しい建物のようだった。

 建物の門戸には、生き生きとした鳥獣達が描かれた、木造の太い柱が二本。


「鳥獣戯画ってやつか」とエルツ。

「それって二次元の絵の事言うんじゃない? 絵巻とかさ」とスウィフトの突っ込み。

「違うだろ。読んで字の如く、鳥と獣が戯れてる絵なら何でも鳥獣戯画なんじゃないの」


 一行はそんな事を呟きながら、軒下をくぐった。

 中へ入ると、まず目に付いたのは真っ赤な絨毯の敷かれたその広々としたロビーだった。観葉植物が散りばめられた、吹き抜けの天井高き空間には、透き通ったテーブルと真白な椅子が並び、冒険者達の憩いの場となっていた。ロビーの両側には二階へと昇る階段が、そこからさらに三階へ向って折り返しの階段が伸びていた。談笑を楽しむ冒険者達の視線が一瞬エルツ達に絡み、その視線はまた元の鞘へと収まってゆく。


「広いな」とエルツが単純な感想を述べる。


 奥行きのあるその空間。時間があるならちょっとロビーで寛ぎたい気分だった。

 そんなエルツの様子にユミルは淡々と歩を進めてゆく。


「さあ、行きますよ」

「行くってどこへ?」


 意気込むユミルにスウィフトが尋ねる。

 だが、その返答は無く、一行は階段を上り始めるユミルの後をただただ追う。

 二階へと昇る階段を上がり、一行は手摺り越しに、ロビーで談笑を楽しむ冒険者達を見下ろしながら、二階の奥へと伸びる廊下へ歩を進める。

 歩きながらその廊下にちょっとした違和感を覚える一同。

 奥へと続くその通路に分岐点は無い。前にも後ろにも道は一つ。そして向かう通路の先には例によって扉が一つあるのだった。その扉に向かうのはエルツ達だけでは無い。異なる冒険者一行が同じ扉を目指す。向かう部屋もまた幾多の冒険者達を受け入れる大部屋なのか。


「え?」


 そんな疑問は今透け消えてゆく冒険者達を前に意味を失いつつあった。透けてゆく冒険者、そう文字通り、冒険者達は透けて消えてゆく。


「ここもか……」


 そう、ここもまた同じなのだ。何度も不思議な経験を重ねることで、エルツに動揺は走らなかった。何故なら宿屋や船で体験したあの不思議な部屋と同じシステムであろうことは十分予想がついたからだ。ただ唯一違う点と言えば。


「あれ、他のプレイヤーが居なくなった」


 そう驚きの声を上げたのはスウィフトだった。スウィフトの言葉にキョロキョロと辺りを見渡すチョッパー。当惑するリンスに、その様子に微笑みを漏らすユミル。そして首を傾げるエルツ。そう、エルツ達だけは消えずに残っていたのだ。何故自分達だけが消えずに残ったのか。その共通点を考えれば自ずと向う先に待ち受けるモノが見えてくる。何かを隠すようなユミルの不自然な態度も、そもそもこの建物の名前を考えればそんな疑問は解消されるはずだった。


「なるほど、そういう事か」


 呟くエルツの顔色を見てリンスは首を傾げた。

 今ゆっくりとユミルが扉に手を掛ける。


「それでは、皆さん心の準備はいいですか?」

「心の準備って何が?」


 当惑するスウィフトを他所に扉は今ゆっくりと開かれ始めた。

 かしこまったユミルは改めてエルツ達にある言葉を送る。


「ようこそ、WHITE GARDEN[ホワイト・ガーデン]へ」


 開かれた扉の向こうに、広がる景色。

 その景色に一同は息を呑む。


 新たな出会いの訪れ。

 その出会いが何をもたらすのか。

 冒険者の軌跡が交じり合い、今新たな物語の潮流が生まれる時。

 そんな瞬間に胸を時めかせエルツは今扉をくぐった。


 いまゆっくりと開かれゆく視界。扉の向こうに広がっている世界。

 鼓動が自然と早まり、高まる期待に胸が溢れそうになる。

 そこはWHITE GARDENという名が指し示す通りの、真っ白な世界が広がっている。


 というわけではなかった。


「あれ……?」


 思わず素っ頓狂な声を上げるエルツ。

 カーテンの締め切られた薄暗い室内。木目調の壁に囲まれた質素な作り。しかし間取りは広く、間口から広がるその広々とした空間にエルツは大きく息を吸い込んだ。優しい木の匂いが口から鼻へ抜けていく。そんな感覚に浸っているとユミルがすっと手を部屋へと向け中へ入るように促してきた。


「さあ、どうぞどうぞ。ちょっと散らかってるけど気にしないで下さい。やっぱお昼前だから皆出払ってますね」


 見た感じ人の姿は見当たらない。間口からそう遠くない所に置かれた鍾香樹しょうこうじゅの背の低いテーブル、それを囲むように柔らかそうな羊毛のソファが置かれていた。テーブルの上にはここの住人達のよる食事の形跡が残されていた。

 そして日差しの当たらない部屋の奥ではビリヤード台が一台照明に当てられて浮かび上がっていた。


「ビリヤード台がある」

「あ、ビリヤードやりますか?私は9ボール[ナイン・ボール]くらいしか分からないけど」


 そう言ってユミルがボールを囲んだ枠に手を掛けたその時だった。


「んん……」


 ソファでうごめいた影。とんがり頭が揺れ動き、そこに茶髪の青年が起き上がった。寝ぼけた青眼を振り回し、ふとエルツとその視線を合わせる。

 訪れる静寂と暫しの間。エルツが口を開こうとしたその時、青年は呟いた。


「誰だ……?」


 その言葉に思わず口ごもるエルツ。


「あ、ケヴィンさん居たんですか?」

「ああ、ユミルか。今何時……?つうか戻ってきたんだなお前」


 ユミルがカーテンを開くと、柔らかな日差しが室内を明るく照らし上げる。


「もう、9時過ぎですよ。ケヴィンさんはまたここで徹夜したんですか?」

「まあな。ああ……ダルイ。昨日ちっと飲みすぎたかな」


 テーブルの上に開いた酒瓶を見つめそう呟くケヴィンと呼ばれた青年。

 そして、青年は再び先程、思考を乱したその人物達へと視線を向ける。


「で……」


 問い掛けるケヴィンの視線。


「そうだ、ケヴィンさん! 紹介遅れてごめんなさい。その人達が新しくうちのコミュに入ってくれたルーキーの皆さんですよ。ちっこいのが私の弟です」


 その言葉にケヴィンの表情に赤みが差した。


「おお」


 ユミルの紹介に慌ててエルツが自己紹介する。


「エルツです。まだわからない事だらけだったところに、ユミルさんにこのコミュに誘われて助かりました。色々これからお世話になるかもしれませんが、よろしくお願いします」

「おお、いやいや。そう畏まんないで。こちらこそよろしく!」


 ケヴィンは寝ぼけた眼を擦りながら、ソファーから立ち上がる。


「そういや新しい人入ったって、二週間くらい前、誰か言ってたな。なんだよ、そうだと分かってりゃこんな格好してなかったのに。ユミルお前そうなら来る時は連絡しろよ」

「掲示板にちゃんと書きましたよ。ケヴィンさん掲示板見てないんですか」


 笑いながら返すユミルにケヴィンは「面倒くせぇから」と一言。


「でもお前この時間帯来ても誰も居ないって」

「そうですよね。お昼になればもう少し人来そうですけど、どうしようかな。来るならやっぱ皆集まる夕方の方がいいですかね?」

「だなぁ。夕方なら少なくともいつものメンバーは揃うだろうから。そしたら歓迎会でもやるか」


 その言葉にユミルがぴょんと身体を躍らせる。


「いいですね、歓迎会! やりましょう!」

「じゃ、皆驚かすために、ルーキーの人達は暫く外で観光でもしてもらって、夕方また来てもらうか。その間俺とお前で歓迎会の準備進めよう」

「は〜い!」


 そう言ってユミルはふとエルツ達の方へと振り向いた。


「そういうわけで皆さん。これから歓迎会の準備するので、皆さん外で暇潰しお願いしてもいいですか?」

「え、うん、それはいいけど。でも僕らのためになんか悪いな」とスウィフト。

「いいんですよ。気にしないで下さい!そうだ、お昼取るなら繁華街のDIFORE[ディフォーレ]ってお店が安くて美味しいですよ。それから、もし平原[フィールド]に出るならギルド前の噴水にある女神像で、ホームポイントの設定忘れないようにして下さいね。この大陸のモンスターは向こうの島と比べると強いので」


 ユミルの言葉に一同は頷くと、そうそうに部屋から追い出される。

 エルツ達は顔を見合わせ、部屋を後にするのだった。


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