表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ARCADIA ver.openβ≪Playing by Elz≫  作者: Wiz Craft
〆 第七章 『夢・絆』
235/242

 S22 決勝ブロック 副将戦

 真剣勝負に花が咲く。互いの全力から生み出されるその瞬間の火花は儚くも美しい。

 それは一瞬の芸術。今生み出される芸術の数々は人々の胸の中で形を持って記憶される。一瞬の点であった芸術が、人々の目に映る事で広がりを持つ。この対抗試合というイベントはそれだけでも充分な意味を持っていた。


「これで一勝ニ敗ですね」


 リーシャンテの言葉に頷くTIFFANYの面々。

 彼女達にとって一目置かれた存在だったエクスイ。試合に出す以上、TIFFANYサイドしても中堅戦にはこの上ない人選を行ったつもりであった。その彼女がこうもあっさりエルツに敗北した。この事実は少なからずの動揺を彼女達に走らせていた。

 その場で跪くエクスイの肩にヴァニラはそっと手を乗せる。


「いつまでそうしてるつもりだ。いい加減に頭を上げるんだ。誰もお前を責めたりはしないさ」


 ヴァニラの言葉に頷くTIFFANYの団員達。

 エクスイは恥じない戦い振りを見せていた。彼女が隙を見せた要素は一つも無い。ただ対戦する相手の立ち回りが普段の彼女の立ち回りの機能を完全に殺してしまった。


「敗北を恥じる必要は無い。今はまだ相手が上回っていた。ただそれだけの事だ」


 対陣のWhite Gardenに視線を向けるヴァニラ。

 その言葉の意味を噛み締めながらエクスイは深く頷き立ち上がると、その様子を静かに見守っていたリーシャンテへと視線を投げる。

 その視線が訴え掛ける言葉を読み取ったリーシャンテはエクスイに微笑を返すと、一歩皆の前へと歩み出て振り返った。


「次は副将戦ですね。安心して下さい。必ず勝ちます」


 リーシャンテのその強い言葉は皆の心を落ち着かせる不思議な力を秘めていた。

 そして、団員達もまた彼女の言葉を信じて疑わなかった。彼女もまた選ばれた者の一人である。ましてや団員達にとって彼女達が負ける姿など想像も付かなかった。


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


 ■決勝ブロック 副将戦


 ▼White Garden

  Franc<フランク> Lv17 ソルジャー

  Reebelt<リーベルト> Lv17 ハンター



  <<<VS>>>


 ▼TIFFANY

  Leeshante<リーシャンテ> Lv17 ハンター

  Mizot<ミゾット> Lv18 マジシャン


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


 決勝ブロックが始まる前に副将戦についてはTIFFANY陣営から予めある提案があった。

 それはタッグ戦である。勿論断る権利もWhite Gardenには当然存在する。だが、この提案はWhite Gardenにとってもそう悪い提案では無かった。何故ならばこのレベル帯には普段から狩りの際、共に馴れ親しんでいるフランクとリーベルトの存在があったからだ。

 彼ら二人が手を組む事はWhite Garden陣営としても強いカードとなる。TIFFANYサイドがどれだけ強力なカードを切ってくるかは知らないが、それは正直望むところだった。

 少なくとも試合が始まるその瞬間までは、メンバー達は二人のその勝利を強く思い描いていた。

 だが試合が始まったその時から、バトルエリアで展開されるその内容は悪い意味でメンバー達の期待を大きく裏切る事になる。

 蒼白に輝くリンカーソードを必死に振り翳すフランクを翻弄するかのように立ち回るリーシャンテ。美しい金色の輝きを帯びた肩掛けの髪を風に靡かせ、彼女はリンカーナイフを左手に大きくワンフェイントをフランクに対して入れると、そこから身体を反転させた勢いで切り掛かる。

 それがただの短剣による突きでは無いとフランクが気付くのはその衝撃を身体に受けてからの事だった。


――身体が動かない――


 Trick Bite<トリックバイト>。それは短剣WAである急所を狙ったStinger Bite<スティンガーバイト>とフェイントを織り交ぜた際に型が認識されるTrick Attack<トリックアタック>の複合WA。その特徴的な効果としてこのWAの直撃を受けた場合、追加効果としてスタン効果が付与される。

 フランクの異変に気付いたリーベルトが慌ててフォローに入ろうと駆け出す。だが、その前に立ち阻かるは魔術師ミゾット。風属性魔法の真空刃エアカッターでリーベルトの援護を易々とは許さない。彼女がロッドを振るう度に背中まで流したライトグリーンの美しい髪がまるで尾を広げた孔雀のように舞い上がる。


「仲間の元へ辿り着くのも至難の道だと知りなさい」


 ミゾットの言葉に必死に矢を射撃して敵の動きの牽制に務めるリーベルト。

 だが放った全ての矢は彼女の風障壁ウィンドシールドの前に叩き落される。かと言って攻撃の手を止めれば、フェイントを巧みに織り交ぜた容赦ない彼女の真空刃が飛んでくる事になる。

 ミゾットの漆黒の瞳が突きつけるその圧力にリーベルトが悩まされていたその時、フランクの姿を一瞥した彼女がリーベルトへの牽制攻撃に織り交ぜてロッドを一振りする。

 その瞬間に顔色を変え叫ぶリーベルト。


「フランク避けろ!」


 リーベルトのその叫びにフランクもまた状況を一瞬で理解した。

 だが、彼は自らの状況をただ悲痛に叫び上げる。


「だめだ、身体が動かない!」


 同時に真空刃の直撃を受けて弾き飛ばされるフランク。衝撃で地面を転がるフランク。必死に体勢を整えようとふらついた足で立ち上がった彼の胸には一瞬の閃光が飛び込む。

 胸に走る衝撃はString's Shot<ストリングスショット>。為す術も無く狙い撃ちされたその攻撃を前に完全に再び膝を付くフランク。

 まるで一人で二人を相手にしているようなその多重に付き纏う波状攻撃。いつしかフランクの身体は赤点滅を始めていた。

 そんなフランクに詰め寄る一つの影。リーシャンテによる近接攻撃が今再び始まる。リンカーソードを片手に必死に応戦するフランクだが、彼女の素早い動きを前に完全に身体が取り残されている。

 彼女のそのバトルスタイルには誰もが見覚えがあった。何故ならハンターで在りながら短剣で近接攻撃を挑むそのスタイルは中堅戦でエクスイが見せたものと酷似していたからだ。その様子を見ていたリーベルトが向かい合うミゾットに対して皮肉を浴びせる。


「TIFFANYのハンター陣は随分と好戦的ですね。揃いも揃って短剣で切り掛かるなんて、正気の沙汰じゃない」


 その言葉に微笑するミゾット。


「エクスイに短剣の使い方を教えたのは彼女だから」

「……なんだって?」


 リーベルトが驚愕を隠さなかったその時、フランクの目の前では巧みに短剣を操っていたリーシャンテが微笑を残してそっとその身を視界の外へと流す。

 同時にフランクの身体に流れ込む風。それがミゾットが放った真空刃だと気付いた時にはフランクの身体は衝撃で弾き飛ばされていた。


「……フランク!」


 リーベルトの叫び声が無情に響く。フランクの身体から立ち昇る大量のLE。それは一人のプレイヤーの脱落リタイアを意味していた。


「ミゾット、援護ありがとう」

「お安い御用よ」


 笑顔で言葉を交し合う二人のプレーヤーを前に今リーベルトは完全に孤立していた。

 自分一人で彼女達に勝てる勝率など限りなく零に近い事も当然理解している。だがこの試合を臨むに当たって仲間達との誓いがある。勝負を諦める事は決して出来ない。

 完全に連携の取れたコンビネーションがこれ程の相乗効果を生むなどとは夢にも思っていなかった。ただ普段から狩りを共に慣れ親しんでいる程度の付け焼刃な連携で到底立ち向かえる相手では無い。

 じわじわと追い詰められてゆくリーベルト。だがそれでも彼は決して諦める事は無かった。正々堂々と最後まで戦い抜いた彼の姿勢には観客から拍手が送られた。

 ことタッグ戦において、この試合はWhite Gardenにとっては完全なる敗北だった。最終戦を前にして詰めの甘さが観客一同の前に晒されたそんな一戦。

 だが全ては教訓。これも次なる段階への試練に過ぎない。この試合を契機にフランクとリーベルトがどう変わるのか、全ての経験はそれを体験する人々にとって変化の材料に過ぎない。彼らが前向きな変化を見せてくれる事こそ、この試合に最も重要な意味を持たせてくれるのだ。

 これで勝負は互いに二勝ニ敗。来る決着は次なる大将戦に全てが託された。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ