表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ARCADIA ver.openβ≪Playing by Elz≫  作者: Wiz Craft
〆 第七章 『夢・絆』
225/242

 S12 Aブロック副将戦

 大歓声の中、自陣へと戻ったエルツは仲間に迎え入れられ手を交し合う。

 エルツの勝利によってWhite Gardenに漂っていた沈痛な雰囲気ムードも払拭されていた。


「お前変な演出すんなよ。あのまま負けるかと思って内心諦めたぞ」


 ケヴィンの言葉に微笑するリーベルト。


「俺はエルツさん実力隠してるんじゃないかと思って見てましたけど。ただ相手もまだ底が見えなかったんでヒヤヒヤしましたけどね。でも潜在能力ポテンシャルの差で勝ちましたね。エルツさん本当にお疲れ様です」


 リーベルトの言葉に微笑みを返すエルツ。


「さて、次は副将戦か。ここも大事なとこだな。リーベルト、フランクどっちが出るんだ?」


 ケヴィンの言葉に顔を上げる二人。


「敵の大将にシルビノさんが控えてる事を考えるとハンターのリーベルトを残して置いた方がいい。俺が行くよ」


 フランクの言葉に皆が視線を注ぐ。


「そんな心配な眼しないで下さい。折角エルツさんが引き戻してくれた流れですから。死んでも離しませんから」


 その頼もしい言葉に皆が微笑む中リーベルトが口を開く。


「フランク、任せたぞ」

「ああ」


 二人はそうして視線で誓いを交わすと、フランクは広場へと歩き出す。


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


 ■Aブロック副将戦


 ▼Alchemists

  Focus<フォーカス>Lv17 ハンター

  <<<VS>>>


 ▼White Garden

  Franc<フランク> Lv17 ソルジャー


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


「それではこれよりAブロック副将戦を始めます。両者、前へ」


 広場へ向ったフランクの前に現れたのは、バッファローの毛皮で仕立てられたトルーパーズシリーズと呼ばれる革装備に身を包んだハンターの青年だった。尖がり頭の黒髪にアナライズゴーグルを装着した細身の体躯。

 フォーカスという名のその青年はフランクへと不敵な笑みを浮かべていた。


「流石は白庭、正直先鋒と次鋒戦は拍子抜けだったがあんな隠し球があるとはね。いや主催だから別に隠してないか。あのレオがヤラレルとは夢にも思わなかった」


 饒舌な語り口で苦笑を漏らしながら言葉を続けるフォーカス。


「あんたも楽しませてくれるんだろ?」


 フォーカスのその言葉に鋭い視線を返すフランク。


「さぁ?」


 開始前から一触即発の空気を漂わせる二人。この時フランクは彼に対して少なからずの憤りを覚えていた。

 先鋒戦と次鋒戦を拍子抜けと言い切った彼のその言動が許せなかったのだ。


「まぁ、お手柔らかに頼むぜ」


 フォーカスの言葉に形式だけの握手を交わしたフランクは定位置へと移動する。


「それでは両者、構えて」


 リーシャンテの言葉に構える二人。

 フランクにとってはこの試合、実力を隠すつもりも無い。


――全力を尽くすのみ――


「始め!」


 リーシャンテの言葉と共に解き放たれたかのように飛び出すフランクに対して、その動きを読んでいたかのように進行軌道に矢を放つフォーカス。


「来ると思った。安い挑発はしてみるもんだな。読みやすい動きだ」


 放たれた矢をフランクが盾で弾くと同時に、後ろへと走り込みながら正確にフランク目掛けて射撃するフォーカス。

 その一つ一つをフランクは盾で防御しながら敵との間合いを詰めようと足を動かす。

 そのフランクの動きを見てフォーカスは不敵な笑いを崩さない。


「宣言しようか。この試合中、俺はあんたからダメージを貰う事は無い」


 挑発めいたフォーカスの言葉。だがフランクはそれを冷静に聞き流していた。

 じっと相手を見据えながらその距離を詰めようと足を動かしていくフランク。

 だが、バック走をしながら的確な射撃を見せるフォーカスとの距離が縮まる事は無い。常に一定の射撃距離を保ちながら、精密な射撃を繰り返すフォーカス。

 外野ではその様子を仲間達が息を呑んで見守っていた。


「足運びが上手いな……ハンターの敏捷度が高いって特性を上手く利用してる。あれじゃ捕まえにくいぞ」とケヴィン。


 そんな広場での攻防をただ黙って見守るリーベルト。


「そんな足運びじゃ百年経っても俺を捕まえるのは無理だな」


 だがこの時会場ではちょっとした空気の変化が現れていた。

 射程外へ逃げながら只管単調に射撃を繰り返すフォーカスのそのバトルスタイルに観客達がブーイングを行い始める。


「闘い方が卑怯だぞ、ちゃんと闘え!」


 卑怯者呼ばわりする声が上がる中、ハンターというクラスの特性を考えた時に逃げ撃ちに徹したフォーカスの立ち回りは正統的なモノで、見方に拠ればそれはむしろ洗練された動きとも取れるという事に気づく者は気付いていた。


「すっかり悪役ヒールか。まぁ悪くないけどな。だが確かにこのまま勝ってもつまらないか」


 そう呟くフォーカスはふと足運びを止めフランクへと語り掛け始める。


「じゃあ、観客に応えて少し闘い方を変えてみるか。今からお前にちょっとしたマジックを見せてやるよ」

「マジック……?」


 フランクが尋ね返したその時、唐突にフォーカスはある言葉を宣言した。


「Rapid Shot<ラピッドショット>」


 フォーカスのアシッドボウが緑色の光膜に包まれるとフランクは前進していた足運びを止める。構えられた弓矢に対して瞬速の矢を警戒しフランクが盾を構えたその時だった。

 一瞬の間が流れる。構えたフランクに対して矢が飛んでくる事は無かった。その事にフランクが盾を下ろしたその時、前方に居た筈のフォーカスの身体が忽然と消えていた。


――まさか、これがあいつが言っていたマジックか――


 動揺したフランクが敵の気配を探っていたその時だった。

 突然背後に生じた気配にフランクが振り向こうとしたその瞬間、フランクの背中に強烈な衝撃が迸る<D値:35>。

 その瞬間、観客からは驚愕の声が上がる。


「今のS.Blind Shotじゃないか」


 S.Blind Shot。それは弓の最高技と言われる技である。通常、弓で敵の背後から仕掛けた攻撃は型として認識され、それはBlind Shotと呼ばれるWAとなる。S.Blind ShotとはさらにそれをString's Shotで行った際に型として認識される複合WAなのである。

 だがその内容が示す通り、敵として認識された状態で戦闘中に背後から相手にString's Shotを当てるなど至難の業である。


「あいつ戦闘中に当てたぞ」


 周囲が騒ぎ出す中、フランクは今受けた衝撃を冷静に受け止めていた。

 観客は既にフォーカスの確かな技術力に気付き始めていた。ただ逃げ回るだけが能では無い。悔しいがフォーカスは宣言通り、まるでフランクを実験台として弄ぶかのようにやってのけたのだ。


「あのソルジャー一瞬フォーカスの姿を見失ったように見えたけど何でだ?」


 周囲の観客の言葉にフランクもまたその事について思考を巡らせていた。

 突然、視界から消えたフォーカスが背後から攻撃を仕掛けてきた。その謎が解けない限りまた敵の術中に嵌る事になる。

 まるで嘲笑うかのような不敵な笑みを浮かべるフォーカス。


「本当に魔法使いか何かと勘違いしてるんじゃないだろうな。ネタ晴らしを御希望か? 実に単純な事なんだぜ」


 愉快そうに笑うフォーカスは再び弓矢を構える。

 同時に攻撃に備えてフランクが盾を構えたその時、彼は決定的な自らのミスに気付いた。

 それは盾の使い方。フランクは反射的にとは言え頭部に向かって放たれた矢に対して、自らで視界を塞いでいたのだ。馬鹿らしいと言えば確かに馬鹿らしい、だが。

 そのミスに気付いてフランクが盾を取り下げたその瞬間、眼前に現れた矢がフランクの頬を掠めて飛んで行く。


――今度は実際に放ってた――


 そして再び背中に走る衝撃に蹲るフランク。


「気付いたみたいだな。お間抜けさん」


 蹲るフランクに浴びせられる言葉。それはフランクにとって屈辱意外の何物でも無い。

 フォーカスが行っているのは弓を扱う者にとっては言わずと知れた高等テクニックの一つだった。フランクに限らず普段盾の扱いに慣れた者であればあるほど頭部の射撃の際、自らの視界を盾で反射的に塞ぐ傾向が強い。

 ならば盾を使わなければ良いかというと事態はそう簡単でも無い。今のように実際に矢弾が放たれる事も実戦では多く、敵の攻撃軌道に備えて反射的に盾を構えて降ろしたところに攻撃を重ねられるケースも多々ある。そう考えるとこの場合盾を使わずに回避する事が最善の策であるが、中間距離から矢が放たれた場合、攻撃軌道を予測せずに見てから反応する事はかなり被弾の確率が高まるのである。

 実際に僅か四、五メートル程の距離を保ち被弾を狙うフォーカスの立ち回りがまさに理想的なハンターの立ち回りと言えた。


「ネタがばれた所で悲しいかな。盾の扱いが洗練されたお前にとってこの魔法はまだ掛かったままだ」


 再び放たれる矢。盾で弾いた際に一瞬フォーカスを視界から外した次の瞬間、フランクの前から姿を消す対戦者。フランクの横を嘲笑うかのように走り去っていくフォーカスに剣を振るうも無情に空を斬る。

 フォーカスの的確な射撃を前にいつしか赤点滅を始めるフランクの身体。


「無駄だな。そろそろ諦めた方がいいんじゃないか? 悪足掻きは見苦しいぜ」


 フォーカスの言葉にフランクはふと剣を下げる。

 その様子に笑みを浮かべるフォーカス。

 

「やっと諦めたのか。なら早いとこ負けを宣言するんだな」

「降参なんて有り得ないな」


 フランクの言葉に苦笑を漏らすフォーカス。

 

「人間ってのは不条理な生物だな。時折、理解出来ない言動を起こす野郎が居る。今のお前みたいにな」


 そうしてフォーカスは再びフランクの頭部に目掛けて弓を構える。

 

「まぁ、それならばそれでいい。最後まで躍って貰うだけだ」


 フォーカスの右腕が矢を引き絞ると同時に盾を眼前に構えるフランク。


「学習能力の無い奴だ、止めを刺してやるよ」


 その声が聞こえるや否や盾を振り翳して後方へと振り返るフランク。

 だが、そこにフォーカスの姿は無い。

 

「やると思ったぜ。毎回後方へ回ると思ったか。二択ってのはな。選択肢を織り交ぜて始めて活きてくるんだよ」


 フォーカスがフランクの背中に目掛けて矢を振り絞ったその時だった。

 その時フランクの口元に薄い笑みが浮かべられる。


「束の間の優越感、楽しんだか?」

「……何?」


 次の瞬間、反転したフランクの姿にフォーカスが弓を放とうとしたその時だった。突如、胸元を襲った衝撃にフォーカスに膝が落ちる。

 突然のダメージに困惑するフォーカス、それは彼にとって想定外の受ける筈の無いダメージだった。

 

――何が起きた――


 フォーカスが顔を上げたその時、フランクは目の前で何かを拾うとそれをゆっくりとフォーカスに向かって突きつけた。


――こいつまさか――


「油断したな。ソルジャーが飛び道具持たないと思ったか?」


 そう、フランクは反転したあの瞬間フォーカス目掛けて片手に握っていた剣を投げつけたのだ。

 だが反転しながら正確に投げた剣を敵にヒットさせるなど、相手の正確な位置が分かっていなければ出来る芸当では無い。

 

「お前、まさか今まで騙された振りしてやがったのか」

「そうでもしないとあんたの油断を誘えなかったんでね」


 喉元に突きつけられた刃を前に苦笑するフォーカス。

 

「大した野朗だ……お前の力を最後の最後に侮った事、それが俺の敗因か」


 その言葉に微笑するフランク。

 

「敗因はもう一つさ」


 その言葉に顔を上げるフォーカス。

 

「あんたも相当な名手だったけど、俺は同Lvにあんた以上のハンターを知っててね。いつもコケにされてる。あんたの敗因を挙げるならそんなところさ」


 そうしてリーシャンテによって告げられる勝者の名前。

 これで勝負は二勝二敗。勝負は遂に大将戦へと持ち込まれた。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ