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ARCADIA ver.openβ≪Playing by Elz≫  作者: Wiz Craft
〆 第六章 『残されしモノ』
207/242

 S29 スウィフトからのメール

 メンテナンス終了後、エルツはコミュニティルームで皆とシステムサポートから送られてきたメールを見つめていた。


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


 差出人 ARCADIA SYSTEM SUPPORT CENTER

 宛先  ALL PLAYER


 題名  臨時メンテナンス終了のお知らせ



 ●創世暦1年 洸玉 氷刻 10 配信


 本日10:00を持ちまして臨時メンテナンスの作業が全て終了致しました。

 先日お知らせさせて頂きました本世界でのプレイ中に女性プレーヤーが突然の心臓発作を起こされました件について医療分析の結果が出ましたのでここでお知らせさせて頂きます。

 調査の結果、本件についてシステムとの因果関係は認められませんでした。女性は以前から心臓にご病気を患っており、この事が今回の起因となりました。

 弊社では今後、このような事態が二度と起こらないように、本利用規約について医療的検知から綿密な定義の再考を行う予定です。

 詳細については後日、お知らせさせて頂きます。弊社ではプレーヤーの皆様の安全とより良い快適な環境でプレイをして頂くために今後も尽力させて頂きます。


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


「メンテナンス終了……本件に関してはシステムとの因果関係は認められませんでした、か」


 エルツの読み上げに皆はただ放心状態のように頷いた。

 都合が良いのか悪いのか、ログアウトしている間はこの世界での出来事を忘れる事が出来る。だがログインすればそこには仮想世界でありながら、揺ぎ無い現実の原則ルールに基づいて執行されたリンスの死という事実が迫ってくる。

 そんな放心状態の中でケヴィンがその口を曖昧に動かした。


「なぁ……皆でGM訴えねぇ?」


 その言葉に皆が虚ろなその表情を上げる。


「あの時のあの野郎の対応許せるもんじゃないだろ。皆で力を合わせればさ」

「VRMMOはまだ出来て日が浅い、人の生死は愚か医療に関しても法的に整備が為されてないのが現状だ」


 ドナテロは静かに続ける。


「大体、あの時のGMの対応に問題は無かった。奴等に言わせれば利用規約に忠実に基づいて業務を執行したんだからな。その責任を追及するのは至難だ」


 その言葉に項垂れるケヴィン。

 リーベルトとフランクもただ黙ってその話に耳を傾けていた。


「そんな事言ったって、ドナテロさんは悔しくないんですか?」


 ケヴィンはそう言ったところで、自らの失言に気付く。

 ドナテロの突き刺すような鋭い視線に怯んだ彼は口を閉ざしソファーへと身を沈めた。

 仲間が死んで、何も感じない訳が無い。ドナテロの瞳はそう語っていた。ドナテロはリンスの死が悲しくない訳じゃない、ただ堪えているだけなのだ。

 普段は騒がしい子供達も場の雰囲気を感じ取ってか、静かに三人で座り込み皆の表情を窺がっていた。


「スウィフトさん……大丈夫かな」とユミル。

「ログインはしてるみたいだけど」


 メールを送ろうかと思ったエルツだったが、今はそっとしておいた方がいいだろうと送信の手を止めたのだった。


――スウィフト……今どうしてるのか――


 そんな折だった。ふとエルツのPBにメール受信の知らせが表示される。

 差出人を見てエルツはすぐにキーボードに手を走らせる。そこには彼の名前が表示されていた。


■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□


 差出人 Swift

 宛先  Elz


 題名  無題


 本文  話があるんだ

      もし、今時間が空いてたら来てくれないかな

      琥珀園で待ってる

     

      【追伸】

      出来れば皆にはこの事は言わないで、一人で来て欲しい


■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□


 エルツは内容を確認すると、一人その場から立ち上がる。


「ん、エルツどうした?」

「ちょっと……外行ってくるよ」


 エルツの言葉にケヴィンが細い目を見せる。


「また何か隠し事か」

「違うよ。ちょっと気晴らしに行ってくるだけさ」


 皆の視線を背中に受けながらそうしてエルツはその場を後にした。

 その理由に気づく者、気づかない者、そしてただ悲しみにうちひしがれる者達を残して。


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