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ARCADIA ver.openβ≪Playing by Elz≫  作者: Wiz Craft
〆 第六章 『残されしモノ』
206/242

 S28 一通のシステムメール

 どんなに辛くても。どんなに悲しくても。あの時と同じ様に、時はただ流れて行く。

 唯一変わるものがあるとすれば。それは時の流れに対する捉え方。

 残酷なまでに流れ過ぎたあの時に比べると、今は時の流れが酷く緩やかに感じる。

 まだそれは昨夜の出来事だというのに、夜が明けるまで眠れずに過ごしたエルツは一人マイルームで様々な想いに耽っていた。


――暫く一人にして欲しいんだ――


 スウィフトはそう言い残し、あれから姿を消した。

 皆の心に残された深い悲しみ、けれども限りなく絶望的なこの状況の中でも、皆最後に残された一つの希望に懸けていた。

 それは、彼女が現実で……その一命を取り留める事。

 そんな皆の想いは、予想もしなかった形でその結末を迎える事になる。


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


 差出人 ARCADIA SYSTEM SUPPORT CENTER

 宛先  ALL PLAYER


 題名  臨時メンテナンスのお知らせ



 ●創世暦1年 双華 天刻 24 配信


 昨夜、ゲーム時間午後8時37分頃、スティアルーフ、コミュニティセンターの一室において女性が突然の心臓発作を起こし、救急的な医療措置の必要が生じたため、GMによる現実への強制送還を発動しました。女性は現実へ送還後、直ちに救急医療施設へと運ばれましたが、現実時間4月30日、午後11時03分に御逝去されました。なお、本件に関しまして弊社ではゲームのシステム要因との因果関係を明らかにするため、本日ゲーム時間午前10時半より急遽サーバーの臨時メンテナンスを行います。プレーヤーの皆様には多大なる御迷惑をお掛けする事を深くお詫び申し上げます。原因の究明まで今暫くお待ち下さい。


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


 そのメールの文面を読み上げた時、大切な何かがエルツの中で切れた。

 今まで張り詰めていたエルツの想いは、ここで完全に音も無く崩れ落ちた。

 ただ無言で、ただメールの文面を虚ろな表情で見つめ、そこには人の形をしながらも心を失ったエルツの悲しげな姿が在った。

 その朝、ARCADIAに存在する全てのプレーヤーは強制的にログアウトを受ける事になる。

 現実へと戻る浮遊する意識の中で、エルツはただ一つの事を思い描いていた。


――人が死ぬって……どういう事だろう――


 ゲームの世界で人が死ぬ事とは訳が違う。それは頭では分かっている。

 だけれどもこの世界には「死」という言葉が氾濫し過ぎている。


――死んでも生き返れる――


 曖昧になっていた「死」という言葉の定義。

 こうしてリンスの死を目にした今であっても、まだ彼女は生き返るんじゃないだろうか。このARCADIAという世界なら、それも可能だろうと。そんな願いを懸けてしまう程、現状の理解に苦しんでいた。

 彼女が亡くなった今でも、またメンテナンスが終われば、あの彼女の微笑みに出会えるのではないかと。


――全ては錯覚――


 彼女は死んだ。それが揺ぎ無い真実。

 彼女はもう生き返らない。微笑まない。そして、彼女とはもう二度と……出会えない。

 人が死ぬという事は、そういう事。


――そう、彼女とはもう二度と出会えない――


 それが残された者達への悲しい試練なのだ。

 そして、その時初めて人は「生きていた」その存在の大きさを知る事になる。

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