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ARCADIA ver.openβ≪Playing by Elz≫  作者: Wiz Craft
〆 第六章 『残されしモノ』
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 S27 最後の三十秒

 突然、コミュニティルームの中に激しい閃光が迸る。

 その輝きに誰もが目を疑っていたその時、エルツはその光に見覚えがあった。

 プラズマのような光の中から現れたのは蒼白の翼に、白銀に輝く三尾の鎖を巻きつけた美しき謎の訪問者。


「まさか……GM」


 エルツの呟きに皆が驚愕の声を上げる。


「何でGMがこんなところに!?」


 GMは緩やかに開いていた翼を閉じると、その美しい顔を上げた。美しい白羽根で飾られた羽帽子の下で、目元を覆うように装着された妙な機械で周囲を見渡したGMはリンスにその視線を止めると、静かにその口を開いた。


「Player No.4785 Linsを発見致しました。これより強制送還を開始致します」

「強制送還? どういう事だ」


 ドナテロの言葉にGMはその視線をゆっくりと彼に向ける。


「現在Linsさんは現実で危篤状態に置かれています。ただちに現実に戻さなければ非常に危険な状態です」

「現実に戻すだって……彼女がどんな気持ちでここへ来てるか。死を覚悟してこの世界へやって来てるんだ。少しでも延命するために。今更現実に戻したって!」


 エルツの言葉にGMはリンスに向かってその手を振り上げる。

 同時に光のヴェールが彼女の全身を覆い尽し、リンスの身体が輝きを帯び始める。


「これより強制送還を開始、三十秒後現実へと送還します」

「ちょっと待って下さい、いくら何でも勝手過ぎませんかそれは!」


 リーベルトの言葉もまるで制止にはならず、GMは淡々とその任務を執行し始める。


「事は一刻を争います。これは人命が掛かった問題です」

「どうしたの……お姉ちゃん死んじゃうの?」


 チョッパーがユミルに泣き付いたその時、リンスはスウィフトの腕の中で必死に目前に迫る死と戦っていた。いつの間にか、容態は急変していた。


「この世界で死傷者を出したとなれば、確かにそれは問題だよなGMさん」


 ケヴィンの言葉にもGMは耳を傾けず自らの業務の遂行に務める。


「強制送還十五秒前」


 その時、ケヴィンが大声を上げてGMに掴み掛かった。


「ふざけんな、何が人命だ! この世界で死傷者出したくないだけだろお前等! スウィフトとリンスの気持ち考えてから言えよお前!」

「これ以上の行為は業務執行妨害と見なし、利用規約に基づき罰則を付加させて頂きます」


 だがGMの言葉に、ケヴィンの勢いは止まるどころか加熱して行く。


「罰則なんざいくらでも背負ってやるよ。皆こいつ止めるぞ、手伝え!」


 ケヴィンの言葉に皆が構えたその時だった。

 声を張り上げたのはスウィフトだった。


「皆止めてくれ! いいんだ、もういいんだ」


 スウィフトの言葉に向き直るケヴィン。


「もういいって……どういう事だよ。リンスは今必死に闘ってるんだぞ!」

「分かってるさ、そんな事は」


 スウィフトは皆の前でその想いを静かに語り始める。


「ずっと考えてた。彼女の最後を見送る形を。だけど、最後はやっぱり、親御さんの手元に返した方が彼女にとっても幸せに決まってる」

「スウィフト……本気で言ってるのか」


 ケヴィンの言葉にその悲しげな瞳にリンスを映し頷くスウィフト。


「この馬鹿野朗、こんな時に何言ってんだお前!」

「少し黙れケヴィン!」


 普段温厚なドナテロの怒声に流石のケヴィンも口を閉じる。


「スウィフト、もう時間が無い……彼女に言葉を掛けてやれ」

「……はい」


 ドナテロの言葉に、しっかりと頷いたスウィフトは抱き抱えたリンスの耳元へそっと顔を寄せる。


「リンス……聞こえるか」


 リンスはスウィフトの呼び掛けに、定期的に襲い掛かる発作と必死に闘いながらその言葉に耳を傾けていた。

 その場に居た誰もがその様子をただ黙って見守っていた。


「何でだろうな……話したい事はたくさんあるのに。上手く言葉にならないよ」


 こんな状況においても、スウィフトの言葉は酷く穏やかで、逆にそれが最後の時を迎える彼女への優しさだと思うと見ている者にとっては胸が詰まる光景だった。

 そんな中GMは強制送還への残り時間をただ機械的に宣告する。


「強制送還まで残り十秒。カウントダウンを開始します」

「お願い、待って! 待って下さい! せめて最後の言葉までは」


 そんなユミルの悲痛な叫びもGMには届かないのだろうか。

 秒読みが始まる中、スウィフトは静かに最後の言葉を掛け始める。


「何かまだ夢を見てるみたいだよ」


 スウィフトはそうリンスに優しく微笑み掛ける。その目に光る濡れた輝き。


「最後に一言だけ、君に伝えておきたい事があるんだ」


 スウィフトのその言葉に発作に身体を痙攣させていたリンスの動きが一時的に収まりつつあった。


「君と出会ってから短い付き合いだったけど、僕は……」


 スウィフトの瞳に浮かぶ雫。

 その瞬間、まるで時が止まったかのようだった。


「君の事を愛してた」


 そのスウィフトの言葉と同時に皆の胸から熱いものが込み上げる。

 激しい痙攣を起こしていたリンスの身体の動きがその瞬間完全に止まり、リンスの口が静かに動き始める。


「スウィフト……くん」


 その言葉にそっとスウィフトが耳を傾ける。


「新しい恋……見つけてね」


 この時、感情を今まで押し殺していたスウィフトの瞳から大粒の涙が零れ始めた。


「馬鹿だな……こんな時まで人の心配か。本当に馬鹿だよ」


 その光景に周囲に居た者も感情の奔流を抑えきれず、涙を零す。


「強制送還準備完了。これより送還します」


 GMの言葉にスウィフトはそっとその顔をリンスに近づける。

 リンスの唇にそっとその唇が重なった時、彼女の瞳からも大粒の涙が零れ始めた。

 同時に、彼女の身体は光り輝き静かに空中へと拡散し始める。


「こんなの……こんなのって」ユミルの頬を伝う涙。


 誰もがその光景に言葉を失っていた。

 そして皆が見守る中、リンスはスウィフトの腕の中で光の輝きとなって消えた。

 それはGMが現れて僅か三十秒の出来事だった。


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