S15 二桁への昇進
その日は雨が降っていた。クラインとの狩りの約束があった当日、エルツは早朝彼に確認を取り、狩りを決行したのだった。
光り輝く天刻の空に掛かる雨雲。そこから舞い落ちる雫に潤う木々や草花。
草原の緑を踏みしめながら、二人は目的の西エイビス平原北部の丘陵地帯を目指しただ歩いて行く。狩りの決行にクラインは文句の一言も言わなかった。
「悪かったね、こんな時に狩りなんて」
エルツは自分でそうクラインに声を掛けながら、だったら中止すべきだったと思い自らを戒める。だがクラインは無言で首を横に振った。
緩やかな斜面に木々が生い茂る丘陵地帯に到着すると、エルツとクラインは早速戦闘の準備を始める。
アナライズゴーグルを通して見る獲物の頭上には明確にレベル情報が表示されていた。
昨日の間に十匹以上のキャタピラーを討伐した事で、ゴーグルにより詳細なステータス情報が表示されるようになったのだ。
これなら敢えてLv12のキャタピラーを狙い撃ちする事も可能だ。
「大分立ち回りも固まったし、始めにLv10で身体を慣らしたらLv12のキャタピラーを狙い撃ちしようか」
その言葉に頷くクラインの姿を見て、エルツは早速バロックソードを一匹のキャタピラーに向かって構える。
そしてエルツが斬りつける<D値:13>と同時に、戦闘の幕が斬って落とされる。開幕と同時背後ではクラインがマジックチャージを使用しその身体を青色の光膜に包ませる。
「Air Cutter」
クラインの発声と共に真空の刃がキャタピラーの身体を見事に捉え<D値:39>、その衝撃で獲物を横転させる。キャタピラーの行動習性として、昨日分析した限りでは与ダメージ蓄積量が多いプレイヤーに対してそのターゲットを向ける。つまり、この時点でキャタピラーが起き上がればそのターゲットはクラインに向く事になる。
――だがそうはさせない――
エルツの宣言と共にエルツの身体が赤い光膜に包まれる。
そう簡単にクラインにターゲットを向かせるつもりは無い。
三散花の体勢に入ったエルツは音も無く初撃を獲物に打ち込む。叩き込まれた初撃<D値:12>。そして薙ぎ払いの二手目<D値:15>に続き、締めの三手目<D値:40 コンボD値:67>。
開始僅か十秒ほどの間に、この時点でキャタピラーのライフゲージは二分の一ほどまで大きく減少を見せる。ここで、ダメージ蓄積量はエルツが上回り、再びキャタピラーのターゲットを取り返した事になる。
この後は、大きなダメージを受けないように注意しながら二人で敵の体力を削って行くだけだ。
二人が固めたこの戦法なら約一分ちょっとで戦闘を終える事が出来る。開幕でチャージ系スキルを使用しているため、再使用が可能になる残りの数分間を休憩と次の獲物の探索時間に当てる。
キャタピラーとの初戦での立ち回りと現在とを比較すればこれは明らかな進歩だった。同じLvで同じ条件の中で戦っても工夫次第でここまで戦闘効率を上げる事が出来る。
一時間に約十匹という狩り効率を実現した二人は、その日の正午過ぎには目標だったLv10という二桁の大台をついに実現するのだった。