S13 最高技
キャタピラーとの戦闘を行いながら、エルツはバイカースラッシュや三散花を交互に撃ち検証を重ねていた。バイカースラッシュ<威力125%>とパワーチャージを併用した場合、大体ダメージとしてはLv12のキャタピラーに対して「35」前後の数値を弾き出した。
それに対し三散花<初撃115% 二手目100% 三手目117.5%>とパワーチャージを併用した場合、初撃の威力は「31」に、コンボダメージとしては「62」前後という平均数値が出た。
「現状だと三散花の62が最大火力出せるWAかな」
まあ、あくまで威力を重視すればの話だが。あんまり威力ばかりに気を取られても良くない。ここぞという決め時のために最大威力を誇る技は重要だが、通常は滅多にそんなものを使う機会は無い。ただでさえ、当て難い三散花の三手目なのである。
まあ、それでもアタッカーにとってはやはり最高技による与ダメというのは魅力的なステータスの一つではあるが。
エルツが休憩中、そんな事を悩んでいる間もクラインはずっと独り言のように何者かと話し続けていた。ふとクラインが顔を上げエルツに言葉を掛ける。
「パワーチャージって三散花の発動中に使用出来ませんか」
「え、三散花の発動中?」
声の主達がクラインにそう告げたのだろうか。
だが、もしそれが出来るとすると、もしかしたら三散花のコンボ性能は飛躍的に上昇するかもしれない。何故なら最大威力を誇る三手目の直前にパワーチャージと宣言する事が出来るからだ。
クラインから助言を受けたエルツは早速実戦で、検証を始める。
三散花のWA設定は最初の威力重視<初撃100% 二手目112.5% 三手目135%>へと戻し、今度は三手目の直前にパワーチャージを宣言する事にする。
クラインがマジックチャージを使用したエアカッターによってキャタピラーを大きく転ばせると、エルツは早速三散花の体勢に入る。初撃<D値:13>をまず叩き込む。そして薙ぎ払いの二手目<D値:15>に続き、締めの三手目<D値:40 コンボD値:68>。
表示されたコンボダメージを見てエルツが歓喜の声を上げる。
「68が出た。すごいな、飛躍的とは行かないまでもこれだけ上昇するんだ」
技の発動中にパワーチャージを使用する事はどうやら可能らしい。これは重要な技術の一つになるだろう。今は初めてにして偶然上手くいったが、パワーチャージを宣言するタイミングに慣れるまではもっと練習が必要だ。
「助言ありがとう、クライン」
「僕は何もしてませんよ」
そう語るクラインにエルツは、では誰が、と突っ込みたくなったが深く追求しない事にした。
現時点での最高技の完成に微笑みを隠せないエルツ。
そんなエルツの様子にクラインもまた少し可笑しそうに微笑を携えてエルツを見守るのだった。
クラインとの狩りを終えたエルツは彼にフレンド登録を申請していた。
何より初対面だというのに非常に連携も取り易く、また三時間ちょっとの短い狩り時間にも関わらず「46」という経験値を入手する事が出来た。いつの間にかクラスランクもCR7からCR8へと昇格しており、まさに大収穫の狩りだった。
「いいんですか、僕なんかとフレンド登録なんて」
「何で?」
不思議な質問をするクラインにエルツは視線を返す。
「初めてですよ。フレンド登録を申し込まれたのは。僕が怖くないんですか?」
「別に。人それぞれ事情はあるから」
エルツの言葉にクラインは少し驚いた表情を見せていたが、やがてふっと微笑するとフレンド申請に応じた。
クラインはこれでフレンド登録が初めてと言ったが、やはり周囲の人間から見れば彼の言動は理解し難いものなのだろうか。もし、現実に限らずこの世界でも彼が疎外を受けて来たのだとしたら気の毒な話だ。
そんな事を考えながらクラインの表情を見つめふとエルツは思考を止めた。クラインは言葉にならない表情でエルツに視線を向けていた。
「ごめん……悪気は無かったんだ」と、頭を下げるエルツ。
言葉に出さずとも思っている事が伝わってしまう。
これはよくよく考えると、本当に厄介な話だ。彼の身の上を考えれば考えるほど、気の毒に思えてきて、だがそれは何より彼に対して失礼な事だ。
同情など彼からして見れば、最もされたくない行為だろう。
そうして、エルツは考える事を止めた。
「クライン、明日暇?」
「ええ、別に予定は入っていません。もっともほとんどソロ狩りだから」
その言葉にエルツは笑顔を返す。
「それじゃ、明日も芋虫狩りしない?」
エルツの言葉にクラインは不意を突かれたのか、驚きを隠せない様子だった。
何故なら、クラインにとってこのフレンド申請は形だけのものだと思っていたからだ。
「構わないけど」
「おお、良かった良かった。それじゃ街戻ろうか。夕飯一緒に食べない? 色々話も聞きたいし」
クラインは呆然とエルツを見つめていた。
今まで人からこんな接し方を受けた事は無かったからだ。大概の人間はクラインを色眼鏡に掛け、対等な人としての付き合いを求めない。
「……うん」
クラインの返答にエルツは頷くと、それから二人はスティアルーフの街へと向かって静かに歩き始める。
空には美しい光のヴェールが、煌々とその輝きを放っていた。