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ARCADIA ver.openβ≪Playing by Elz≫  作者: Wiz Craft
〆 第六章 『残されしモノ』
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 S11 クラインとの出会い

 正午、西門橋を越えた白亜の門には待ち合わせの冒険者で溢れていた。

 エルツが十分前に到着すると、そこにはCleinというネームの青年が西門隅の壁際で腕を組み佇んでいた。年は大体エルツと同じくらいだろうか。

 太陽光を受けて輝く美しい金髪と青色の瞳、そこまではこの世界ではよく見られる設定だが、その整った美しい顔立ちはこの世界でもそうそう見られるものではない。旅人装備に身を包んだその青年の背丈も大体エルツと同じくらいで、その整った顔立ち以外に身体的に目立った特長は見られない。


「あの人がクレインさんか」


 エルツが近づくと青年は静かに礼をして見せた。


「はじめまして、エルツです。今日はよろしくお願いします」


 そう言ってエルツは青年に向かって手を差し延べる。


「クラインです」


 クラインと名乗った青年、そうか。これはクレインでは無くクラインと読むのか。名前を口に出さずに正解だったとエルツが握手を交わした時、青年は静かに一言呟いた。


「慣れてますから」

「え……?」


 青年のその言葉の意味が分からず当惑したエルツを残して青年は門の外へと歩き始める。

 第一印象は何とも不思議な雰囲気を持った青年だった。一見どこにでもいそうな普通の青年のようにも見えるが、どこか独特で。何というかこう言葉では上手く説明出来ないが、妙な親近感というか、出会ったばかりの人物にこんな言葉はおかしいが一緒に居ると落ち着くようなそんな錯覚に捉われていた。


「今日はキャタピラー狩りですよね。場所は西エイビス平原北部の森ですか?」

「ええ」


 クラインはただ一言そうエルツに返すと言葉を閉ざす。

 何か会話をしようとエルツはさらに頭の中から必死に言葉を振り絞る。


「実は自分、キャタピラー狩り今日が初めてなんです。もし、足を引っ張ってしまったらすみません。なるべく早く立ち回り覚えますのでもし良かったら色々と教えて下さい」

「ええ」


 会話は再びそこで途切れる。

 これはどうしたものだろうか。話の振り方に問題があるのか。エルツがそうして再び口を開こうとしたその時だった。


「無理に言葉を掛けて頂くなくても結構です」

「え、あ……すみません」


 エルツがそうして口を閉じると静寂が二人を包む。

 少し突き放した印象を受けるクラインの物言いにエルツが少し気落ちしていると、彼は静かにこう呟いた。


「人と話すの苦手だから」

「え、いや。気にしないで。自分も無神経に話し掛けちゃってごめん」


 エルツはそう謝罪しながらも、ふとそんな青年が自らパーティ募集を掛けた心境を色々と想像していた。

 内気な青年が自らパーティの募集を掛けるなんて、それは結構勇気が要るだろう。

 今までどんなパーティを組んできたのかは分からないが、こうした出会いも一期一会。出会いは偶然とはいえ、これも何かの縁と思いたい。


「そう思いますか」

「ん、あれ……ごめん」


 口に出すつもりは無かったのだが、思わず呟いてしまったらしい。


「お前ら少し黙れよ」


 青年の突然の言葉に顔を上げ、首を傾げるエルツ。

 今のは誰に向けた言葉なのだろうか。草原にはエルツとクライン以外は誰も居ない。


「お前らって……?」


 青年はその問いには答えなかった。

 草原の中を歩きながらクラインは黙ってただエルツを先導して行く。


「出会いは偶然ではありませんよ、必然なんです。こいつらが言うにはね」

「こいつら……?」


 青年は振り向かずに草原の中をただ突き進んでゆく。

 この青年、気でも触れているのだろうか。明らかに言動が少しおかしい。


「気が触れてると思いますか」


 さっきから何か違和感を覚えていたが、この青年まさか。


「君もしかしてさ……人の心が読める、とか。まさかね」


 エルツの言葉に青年はそこで初めて表情らしき表情を見せた。

 それはとても無邪気な純粋な笑顔。


「僕が超能力者だとでも言いたいんですか?」


 エルツがその返答に困惑していると青年は草原の彼方に遠い視線を向けた。


「声が聞こえるんです」

「声?」


 青年は地平線へと視線を投げたまま静かに言葉を繋げる。


「ある時から、急に頭の中で鳴り響く声に気づいたんですよ」

「頭の中の声……?」


 この青年もしかして。エルツはその時、ある病名を頭の中に思い浮かべていた。


――統合失調症――


 俗に言うそれは精神分裂病である。現代医学ではまだ完全には解明されていない病気であるが、その症状を和らげるための医学的療法は存在する。主な症状としては妄想から生まれる幻覚や幻聴により生活能力が著しく低下すると医学的には解釈されているが。


「そう、あなたの言う通り、ただの病気ですよ」


 一般的に統合失調症とはあくまで妄想の域を超えるものではない。だがこの場で起きている事は完全にエルツは言葉を出さないまま彼と会話を行っている。


「僕のは少し特殊みたいで。ある時からその声が色々と教えてくれるようになったんですよ。相変わらず、でたらめも多いですけどね。今あなたが何を考えているかくらいはわかります」


 この青年が語っている事はおそらく嘘ではないだろう。一般的に統合失調症は社会的に偏見の目を持って見られる病の一つである。

 だとするならば、何故クラインは今初対面のエルツにこんな自分の重要な内面をさらけ出しているのだろうか。


「何故でしょうね。僕も自分から人に話したのは初めてです」


 エルツはただ黙って青年の話に耳を傾けていた。


「あなたに話してみろと、こいつらが五月蝿かったんですよ」


 クラインは微笑すると、静かにまた歩みを始めた。

 それがその不思議な青年との、エルツとクラインとの初めての出会いだった。

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