S8 フランクとリーベルト
翌日の朝、エルツはフランクの誘いでリーベルトと共に西エイビス平原北西部へと狩りに出掛けていた。今日の狩りの目的はクエストでは無くCP稼ぎが主な目的だった。そのため狩りの対象はコカトリスでは無い。
「今日はリーベルトも居るしもう少し強めのモンスターでCP稼ぎましょうか。あんまり強いとWA使えない今の状態じゃ危険なんで一応エルツさんのLvに合わせてWild Fung<ワイルドファング>をターゲットにします」とフランク。
「もし銀狼出たらうちらが責任持って対処するんで、そこのとこは心配要りませんよ」
リーベルトが付け加えた銀狼というのはWild Fungの抽選POPで出現するレアモンスター、Silver Fung<シルバーファング>の事だ。以前、ケヴィンがレベル上げパーティで遭遇し一瞬で全滅させられたという話を聞いたが。なんだか今日はこの二人が一緒だと思うと安心感がある。
北西部に分布するWild Fungのレベル帯はLv9〜10。Wild Fungはニ、三匹の群れで行動するため、通常はLv7〜8の冒険者が、四人パーティを二組以上作ってターゲットを別々にとって戦う事が多い。
だが、エルツも既にLv9へと変わり、パーティ戦によるワイルドファング狩りも卒業している。今であれば敵と一対一の戦闘になったとしても相手がLv9のワイルドファングであれば勝利を収める事が出来るだろう。
余談だがアナライズゴーグルがあれば敵のレベルを分析する事が出来る。ただし、それには条件がありLvが表示されるのは自分と同等、あるいは自分よりLvが低いモンスターであるか、又は十匹以上討伐に成功したモンスターに限られる。もし、その条件から外れている場合、対象モンスターのLvは???と表示される。
つまりは、エルツが狙うのはレベルがLv9と、ゴーグルを通してはっきり表示されているワイルドファングを狙えば良いのだ。???と表示されるLv10の獲物に関してはフランクとリーベルトに対処してもらえば良い。
仮にもし危険な状態に陥ったとしても、この二人が居れば安心である。
狩場についた一同は風下からワイルドファングに向かって静かに武器を構える。
もし危険な状態に陥ったら大声を出せと予めエルツは二人から指示を受けていた。
蒼白の鎧に身を包んだフランクと、黒光りするバッファローのなめし革で出来た革装備を纏ったリーベルトが飛び出すのを確認すると、エルツは真剣な面持ちでその後に続く。途中で足を止めたリーベルトを追い越してフランクの元へ続く。
獲物となるワイルドファングは三匹、???と表示されている獲物の一匹のターゲットは即座にフランクが取った。残った二匹を見定めながらエルツはふと足を止め躊躇する。
――Lv9とLv10が一匹ずつか――
その二匹の距離が近いため、エルツが獲物に距離を詰められないでいると、後方からリーベルトの声が鳴り響いた。
「フランク、もう一匹のターゲットも取れよ」
「ああ、わかった」
フランクはワイルドファングの攻撃を華麗に盾で弾き返すと、もう一匹のワイルドファングに向かって斬りつける。
獲物達はフランクに向かって吠え立てながら、その周りを囲み一斉攻撃の体勢に入る。
「あいつなら心配いらないですよ。今のうちに一匹ターゲット取って下さい。後方援助しますから」
リーベルトの言葉にエルツは頷くと、Lv9のワイルドファングに向かって勢い良く斬りつける。
不意の攻撃に一瞬困惑を見せる獲物。ターゲットをエルツに切り替えたワイルドファングが後ろ足で地面を叩き、エルツに向かって飛び掛ろうとしたその時、後方から放たれた一筋の軌跡が対象の身体を撃ち落とす。
「遠慮要らないですから、思いっきり暴れて下さい」
高鳴る鼓動、未だかつてこんなに安心出来るパーティがあっただろうか。
かつてない安心感の下、エルツは赤銅の剣を片手にワイルドファングに向かって構えると、大きく剣を振り下ろし獲物の頭部にヒットさせる。一瞬、ワイルドファングがよろめいたその時にはエルツは剣を後ろに引き次の攻撃の体勢に入っていた。
そう、エルツが狙う次の攻撃とはバイカースラッシュ。予めその性能はワイルドファング戦用にカスタマイズしてある。
威力は75%に抑えたが、動きの素早いワイルドファングを捉える確率を少しでも上げるために溜め時間を2秒に設定していたのだった。
その様子を見つめていたリーベルトが口元に笑みを浮かべる。
エルツが一匹のワイルドファングを沈める頃、ちょうどフランクも残りの二匹を倒したようだった。
「通常攻撃だけで何奮闘してんだお前」とリーベルト。
「動きの早いワイルドファング相手にバイカーは相性が悪いだろ」
フランクの返答に嘲笑を浮かべるリーベルト。
「そのためにWAのカスタマイズがあるんじゃないのか? エルツさんはちゃんと調整してバイカー当ててたぜ」
フランクに詰め寄るリーベルトの言葉に慌ててエルツが口を開く。
「いや、やっぱりフランクの言う通りなんだ。カスタマイズしたところで溜め時間ある事に変わりないし、偶然さっきはワイルドファングの頭部に攻撃がヒットしたからその隙が出来たけど、普通に出したら当たんないよ」
エルツの言葉にリーベルトはフランクに向けて嘲笑を浮かべたまま静かに頷いた。
「だとさ、エルツさんの優しさに感謝しろよ。俺らのレベル帯じゃこんなに優しくフォローしてくれる人は居ないぜ」
リーベルトの皮肉にフランクは慣れた様子で「分かってる」と呟き再び次の群れへと向かって歩き始める。
この二人は普段からペアを組んでいると聞いていたが、いつもこんなやりとりをしていたのだろうか。リーベルトも悪気がある訳ではないと思うが、他人から見るとなかなか厳しいコメントをフランクに浴びせているように思える。
でもそれは裏を返せば、そんなやりとりが許される程、この二人は仲が良いのかもしれない。
「ほら、次さっさと行くぞ」
リーベルトの言葉に素直に従うフランク。
その光景は見ていてエルツにとってはちょっと羨ましい関係のようにさえ思えた。