S6 WAカスタマイズ
コカトリスの討伐はなかなかの難航を見せていた。というのも昨夜、雑談掲示板にて各クラスのキーアイテムの取得情報が流出したため、西エイビスのコカトリスポイントには多くの冒険者が集まっていた。
当然、高レベル者による殲滅も行われ、平原からは一時コカトリスの鳴き声が消える程だった。だがそれでもエルツが打ち立てた一時間に十匹というペースを何とか保ち、夕方になる頃には二人はCR3へと到達したのだった。
草原の木陰に座り込み、クラス情報を確認する二人。
「WA バイカースラッシュが習得されてますね」
クラスの習得情報を確認しながら二人は木陰で項垂れていた。
「WAが使えないわけだ」とフランク。
「まさか、一個一個こうしてWA習得していくとは思わなかったな。これはまた波紋を呼ぶ気がする」
現状、スキルが自由に解放されているフリークラスに対して、今回のバージョンアップで追加された三種のクラスがこうしてCRのランクアップによって徐々にWAを覚えていくのだとしたら、それはかなり酷な仕様のようにも思える。
「これは明らかな劣化ですよ。フリークラスの方が使えませんか?」
フランクの言う事もよく分かる。だが、運営側もこうして堂々とクラスシステムを打ち立ててきたからには何か狙いがあるのだろう。
CRが上がればその狙いも見えてくるのだろうか。エルツが不安を覚えながらも、クラス情報を細かに見ながらバイカースラッシュのWA性能に何か微妙な変化が無いかとクリックしたその時だった。
視界に浮かび上がったWA情報の中にふとエルツは見慣れない文字を見つけた。
「……WAカスタマイズ?」
エルツはその単語を読み上げると静かにリンクをクリックする。
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■バイカースラッシュ
WA D値:ND+D2*Lv補正+衝撃1
○カスタマイズポイント:4WACP
▼威力---75%:1WACP 【100%:2WACP】 125%:3WACP
▼溜め---4秒:1WACP 【3秒:2WACP】 2秒:3WACP
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ウィンドウを見つめながら首を傾げるエルツ。
「これって……もしかしてWAをカスタマイズできるのかな」
エルツの言葉にフランクが項垂れていた顔を上げる。
バイカースラッシュに関して、見た限りカスタマイズ出来る項目は「威力」と「溜め」の二点のようだ。それぞれ三段階に渡って調整が効くようだが。
「このWACPっていうのは何だろ」
カスタマイズポイントには4WACP。そしてそれぞれの調整項目には各段階に応じてWACPが割り振られている。これはつまり、カスタマイズポイントである4WACPという範囲内で二つの項目から段階を調整する事が出来るのではないだろうか。
例えば、おそらくはこういう事だ。仮に「威力」で「75%」を選択したとするとこの調整段階に使用するカスタマイズポイントは1WACPである。故にこの値を選択するならば、次の調整項目である「溜め」では「4秒」「3秒」「2秒」の三種の調整項目の中から自由に選択する事が可能となる。
逆に「威力」で「125%」を選択したならば、ここでの使用カスタマイズポイントは3WACP。つまり次の調整項目である「溜め」では最も溜め時間の長い「4秒」しか選択出来ない事になる。
つまりこのシステムを利用すれば様々なバイカースラッシュの形が生まれるのだ。たとえば溜めは長いが威力を重視したタイプであったり、威力も溜めも平均的な標準タイプ、また溜めは短いが威力は若干抑えたスピード重視タイプといったそれぞれのスタイルに合わせてその性能が変化する。
「フリークラスではこんなシステム無かった。これがもしかしてクラスシステムのメリットなのか」
「システムメールにはこんな事書いてありませんでしたよ」
フランクの言葉に再びシステムメールを確認するエルツ。
成程、これはクラスシステムの醍醐味の一つという訳か。まだまだこのクラスシステムには謎が多そうだ。
思い掛けない発見にいつしか沈んでいた二人の心は、心の奥底から湧き上がる静かなる希望に少しずつ満たされ始めていた。