S5 アナライズゴーグル
PM2:13、西エイビスの平原に着いたエルツとフランクはそれぞれ片手剣を携えコカトリスの群れと相対していた。赤銅の剣を片手にコカトリスの群れを見定めるエルツを、フランクが静かに誘導する。二人の両眼部には透光板によって象られたゴーグルがしっかりと装着されていた。
――『アナライズゴーグル』――
それは先ほどギルドショップで二人が購入してきた解析装置である。
アナライズゴーグルは特殊な装備のようで通常装備とは異なり、クリックマーカーと同様に「Analyze Goggle ON」というボイスコマンドによって装着する事が出来る。
今二人の視界では頭の上にヒットポイント残量を示す緑色のライフゲージを乗せて歩く、幾羽ものコカトリスの群れが映っていた。
「ゴーグル通すと視界が多少悪くなるかと思ったけど、全然気にならないね」
「インターフェイスも見易いですよね。3D表示のライフゲージってオレの中では結構斬新です」
コカトリスの動きに合わせて常にこちらへ正面を向くようにクルクルと回転するライフゲージ。フランクの言う通り、確かに2Dインターフェイスが主流の既存のゲームを考えると、このVRMMOという世界で表現される3Dインターフェイスというのは目新しい。
ライフゲージが表示される距離には制限があるようで、基本的に近場のモンスターのみ表示がされるようだった。
「でも人によってはこんなインターフェイスでも邪魔に感じる人も居ますかね」
「まぁ、その場合はゴーグル外せばいいだけだし」
そうして二人は獲物の群れへと向き直る。
CITY BBSの情報によると戦闘クエストで必要になる討伐数はパーティを組んだ状態でも共有される。それ故に、二人はパーティを組み獲物の群れを見定めているのだった。
「片手剣って両手剣と違って範囲攻撃ないから囲まれると厄介か」
「問題ないですよ。どの道ダメージなんてほとんど受けませんし。それに囲まれたところで二人協力すればあっという間に殲滅出来ますから」
フランクの頼もしい言葉に頷くエルツ。
「それじゃやるか」
そうして、勢い良く草むらから飛び出した二人はその勢いでコカトリスの群れへと斬りかかる。
斬りつけられたコカトリスは大きな鳴き声を上げると、いきりたかってエルツ目掛けて首を振りかぶる。だがエルツはそんなコカトリスの注意を、赤銅の剣先をゆらゆらと揺さぶる事で右へ左へと揺さぶり攻撃のタイミングを掴ませない。
エルツの初撃によってコカトリスのライフゲージは三分の一ほど減少を見せていた。
そんなエルツの傍らで一体のコカトリスが崩れ落ち、その巨躯を地表に投げ出す。
「もう倒したのか、流石」とエルツはふと視線を横に振る。
蒼白の長剣を片手にフランクはエルツが対峙していたコカトリスに視線を向けると、あっという間に間合いを詰め、鋭い斬撃を浴びせる。
同時に三分の二ほど残っていた獲物のライフゲージが一瞬のうちに消滅し、コカトリスの身体が崩れ落ちた。
俗に言う「瞬殺」である。
残った一匹はフランクの鋭い眼光に恐れをなしたのか、一目散に背を向け逃げて行った。
「相手になりませんね。クエストとCP稼ぎのためとはいえこれじゃちょっと退屈だな」
そう言ってフランクは兜を外すと中から色爽やかな緑髪が草原の風に靡き始める。
普段はなかなか共に冒険する機会が無いから感じた事は無かったが、こうして共に冒険をしてみると、このフランクという青年は実に魅力的だった。
そんな折、ふとフランクの表情の変化に気づきエルツは言葉を掛けた。
「どうしたの、なんか腑に落ちない表情してるけど」
「ああ、すみません。ちょっと気になった事があって」
フランクの返答に視線でその先を促すエルツ。
「なんかWAが出なかったんですよ。今更タイミング間違える訳も無いんで」
「WAが使えない? 何か制限掛かってるのかな。そんな事システムメールに書いてなかったけど」
WAが使えないとなると事は深刻だ。バージョンアップ直後という事もありバグの可能性も充分に考えられる。
「とりあえず、もう少し様子見てみようか」
そうして二人はPB上で入手CPを確認し始める。どうやら二匹で11CPを入手していたようだ。
「11CPって事は5Lvと6Lvをそれぞれ一匹ずつ倒したのか」とエルツ。
「二人とも11CP加算されてるって事はCPもパーティで共有されるんですね。それなら人数は多い方がいいな。リーベルトがハンターになればもっと効率上がりますよ」
フランクの言葉に頷くエルツ。
「次のCRまであと89CPか」
クラスシステムのランクアップも経験値と同様に上限100に届いた時点で次の段階へとランクアップする。コカトリスのレベルが5〜6Lvである事を考えると最高あと十八匹の討伐でCR2へとランクアップ出来る事になる。
「今日中にCR3までは上げたいですね」
「でも、CR2になったら入手できるCPも1減るから、そうなるとプラス最高25匹か。目標あと大体43匹かな。一時間に十匹狩ったとしても、四時間ちょっと。夕方には達成できるか」
それを聞いて苦笑するフランク。
「エルツさん、休む時間も計算して下さいよ。それじゃ効率厨って呼ばれちゃいますよ」
「あ、そうか。ごめんごめん」
そうして二人は微笑みを交わしながら再びコカトリス狩りへと舞い戻るのだった。