S1 地鳥の尖爪
マイルームを後にしてから、約四十五分後。エルツは西エイビスの大平原の中で一人佇んでいた。辺りには二、三匹で固まるモンスターの影が散々として見えた。
「さて、連中はと。居た居た」
地鳥の尖爪、そのキーアイテムの名を聞いた瞬間エルツはあるモンスターを脳裏に浮かべた。それは、エルツがかつて相手にしたあのモンスターだ。
「コカトリスか、懐かしいな。こいつら本当に落とすかな」
そう、それは他でもないあのコカトリスだった。エルツがこのコカトリスを思い浮かべた根拠は二つある。
まず一つ目は、安直にそのアイテム名だ。地鳥という言葉が連想させる生物をこの世界で検索を掛けたらエルツにはこのコカトリスしか出てこなかったのだ。勿論、この世界にはコカトリスと同じ種族の上位モンスターも存在するだろうし、そういう意味ではこのコカトリスが落とすという保証はどこにも無かったのだが、エルツは第二の理由からその直感を自信付けていた。
それはこのクエストが齎す報酬の凡庸性にある。クラスシステムの根幹とも言える基本クラスの三種である『ソルジャー』『ハンター』『マジシャン』。その資格を得るためのクエストの難易度を考えた時に高い筈が無いのである。
もし、このシステムが高レベル者用に作られたシステムであれば、はっきり言ってバージョンアップで例示されていたあの計算式は無用なのだ。低レベル者でも充分にその資格を得られるからこそクラスシステムは活きてくる。仮に自分が製作者だったならこうした重要なシステムは皆に享受して貰える様に設計するだろう。旅立ちの島ではクラスチェンジ出来ないと言うのはおそらく製作者達のお遊び心だ。クラスシステムが存在する以上、基本余程のひねくれ者でもない限りプレイヤーはこの三種の中からクラスを選択する。そうなる前に、せめて旅立ちの島ではフリークラスという無法な楽しみ方を味わって貰いたかったのではないだろうか。
話は逸れたがこうした事を考えた時に、低レベル者でも狩る事が出来る地鳥に似た生物というとコカトリス以外に居なかったのである。
「まぁ、あくまで一推理か。通常モンスターも追加されたって言うし、外れる可能性も高いけど試してみる価値はある」
そうして、エルツは肩に背負った両手剣に手を伸ばすとゆっくりと引き抜いた。以前に重武器店Dinastonにて購入した両手剣フォルクスブレード。使う機会が得られず今までずっと宝の持ち腐れだったが今ここで使わせてもらおう。
エルツは引き抜いた大剣を両手でしっかりと構えると、眼前の三匹のコカトリスの群れに目を付ける。
「練習がてら行きますか。まさか死ぬって事はないよな」
エルツの存在に気づいたコカトリスに向かってゆっくりと剣を振りかぶるエルツ。
空を滑る剣閃が対象目掛けて突き刺さると同時に、場にはコカトリスの鳴き声が大きく上がった。
「Kueeee!!!」
仲間の悲鳴を聞きつけあっという間にエルツを取り囲み相対する三匹のコカトリス。
そのいきりたかった様相は格下とは言えなかなかの迫力がある。だが、この程度の気迫に今更気圧されする理由はもはやどこにもない。
エルツにとっては心地良い刺激だった。同時にここは良い訓練の場になる。
密かに練習していたあれを試すいいチャンスがやってきた。
「Kueeee!」
周囲を取り囲んだコカトリス達が一斉に長いその首を引き、攻撃態勢に映ったその時だった。
「Screw Driver」
呟きと共に大きく身体を捻ったエルツは両手剣を真っ直ぐに突き出すとそのまま大きく一回転する。自分の身体を中心に剣閃が美しい円を描くと、そこには思いがけない不意の攻撃を食らって怯む三匹のコカトリスの姿があった。
その様子に間髪入れずエルツは大剣を振り下ろし、彼らの一匹に止めを刺す。
「Kueee Kueeee!!」
仲間の消滅を見て激昂したコカトリスの一匹がエルツ目掛けて突進してきたその巨躯を軽く流すと、背後に流したその肢体目掛けて痛烈な一撃を被せる。
再び鳴き声を上げる間も無く沈むコカトリスを前にエルツは容赦無く残りの一匹に視線を向ける。
「悪く思わないでくれよ」
これだけの圧倒的な実力差があると、少なからずの罪悪感がエルツを襲っていた。これではまるで完全に悪者の気分だった。日常的に狩りを行ってきた中で、こんな罪悪感を感じる事は珍しい。それだけ、この世界でエルツ自身も成長していたという事なのか。
最後の一匹を切り伏せたエルツは場に残った数枚のカードを回収し、それぞれ手にとって眺め始める。
「コカトリスの羽毛が三枚に、お」
残った一枚のカードを手に取り微笑を浮かべるエルツ。
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〆カード名
地鳥の尖爪
〆分類
アイテム-素材
〆説明
ARCADIAにおける地鳥種が稀に落とす先端の尖った鋭い爪
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「まさかとは思ったけど、まさか一発目か」
幸先は悪くなさそうだ。説明には地鳥種が『稀に落とす』と記されているが、一体どのくらいのドロップ率であったのか、いずれにせよ幸運だった事に間違いは無い。
「やってみるもんだな。本当にこの方法が合ってたのか。可能性としては少ないだろうと思ってたけど」
入手したカードを手に取ったエルツはその足先をスティアルーフの街へと向ける。
「まだ並んでるかな。折角だからあと幾つか取ってから帰るか」
コミュニティのメンバーでソルジャーに為りたい者も居るかもしれない。それに、両手剣の良い練習にもなるし、折角だからもう少し狩りを楽しんでから帰ろう。
そう考えたエルツはそれから暫しコカトリス狩りに興じた後、スティアルーフの街へと帰還するのだった。