S40 VS Master of Magician★Take39
光刻の二十三日目の夜。バトルフィールドの大宇宙に浮かぶ魔法陣の上では、最強のオートマタ『Master of Magician』の覚醒を待つエルツの姿が在った。
加速して行く世界。流れる星々。そんな世界を見つめながらエルツは初めてこのイベントに触れた時の事を思い返していた。
「さて……始めようか」
視界の中で平伏していた五体のオートマタが起き上がってゆく。
そんな彼らの様子を眺めるエルツの視線はこの日どこか寂しげだった。
この日エルツはある決意を胸にこの戦いに臨んでいた。
「勝っても負けても……悔いのない戦いにしよう」
勝っても負けても、その言葉にエルツの想いが込められていた。
そう、エルツは今日この戦いをオートマタ戦への最後の挑戦にするつもりだった。
何故、そのような感情に至ったのか。理由は本人自身明確では無かった。何よりそれを言葉にする事は本人自身が避けたい事だったからだ。
五体のオートマタから流れ出した粒子の奔流が中央で交わる。その様子を見つめながらエルツは静かに戦闘体制を整える。
悔いはないように、その言葉にも偽りはない。
――文字通り、最初から全力を示す――
エルツの揺ぎ無い決意を前にゆるやかに身体を起こすMaster of Magician。
そして、立ち上がった敵がエルツを視認しそのロッドを振り上げる。
それが戦闘開始の合図となった。開始の色は赤。開始と同時に走りこんだエルツは、体回りにフロートさせていた火球を敵目掛けて解き放つ。
「先制は貰うよ」
エルツの言葉通り正確に放たれた火球は敵を直撃し紅い炎を纏わりつかせる。
敵の身体が光ると同時に咄嗟に身体を翻し距離を取るエルツ。
光りを放ちながら走り込んでくるその色は茶色。その色を確認すると同時にエルツはバックステップの用意を始める。
微塵も隙を見せるつもりは無い。走り込んできた敵の突進攻撃に対して冷静にバックステップを合わせるエルツ。
放たれた敵の石弾は細かな砂幕となり散って行く。
そして、エルツは冷静にストーンブリッツを敵目掛けて発射する、その刹那。
敵の身体が光り輝き、今度は青衣装へと変化する。
「Magician of Blueか。ダメージも無し」
攻略掲示板の情報通り、このMaster of Magicianというオートマタには特殊な魔法制御が働いている。従って敵が現在対応している属性で攻撃をしないとダメージを与える事が出来ない。
エルツがウォータースフィアの詠唱キャンセルを掛けようと体勢を整えていたその時、再び光を帯びるMaster of Magician。
至近距離から走り込んでくるその色は……再び茶色。
咄嗟のその変化にエルツは対応しきれず後退りをする。そこ突進してきた茶衣装のオートマタは容赦なく石弾を放ってくる。
一瞬の動揺を免れなかったエルツはその直撃を受け蹲るが、衝撃にひれ伏せる間も無く距離を取る。
――油断はしていなかった……今受けた攻撃は必然だ――
動揺した心を冷静に抑え、すかさず体勢を整える。
視界の奥では丁度敵が緑色の衣装に変化するところだった。
同時に、エルツの頬を掠める真空の刃。
――今がチャンスか――
刻印を行い、ウォータースフィアを発動する。
水球はMaster of Magicianにヒットしたものの、属性が異なる為、バリアチェンジによってダメージを与えることはできない。
エルツはここでワンダーロッドを下げた。勝負を諦めたのか、彼は静かにMaster of Magicianの姿を見守っていた。
そして、突進してくる敵の気配。
エルツは静かに時を数えていた。
「7・・・8・・・」
ここでエルツがロッドを構える。
「・・・10」
同時にMaster of Magicianの姿が黄色へと変化する。
「サンダーボルト」
エルツの仕掛けた罠が即座に起動する。眼前にはサンダーボルトを置くMaster of Magicianの姿。
発生させたサンダーボルトのリンクによってダメージを受けるMaster of Magician。
最終日にエルツはこんなCITY BBSの攻略掲示板にこんな書き込みを行っていた
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□投稿者 Elz Re:【攻略】Master of Magician
マスター・オブ・マジシャンのバリアチェンジの法則性を見つけたので報告します
マスター・オブ・マジシャンが自発的に行う、バリアチェンジに関しては完全ランダムです
ただし、属性攻撃を当てることで、十秒後のバリアチェンジ先の属性をコントロールできます
攻撃をヒットさせた後、十秒後のバリアチェンジは確定です
火⇒土⇒水⇒雷⇒風⇒火 という順序です
つまり、ウォータースフィアをヒットさせれば、次のバリアチェンジで必ず雷属性に変化します
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依然敵の色は黄色。だがエルツは油断しない。
既に黄色と変わった今、相手は属性変化からの速射を撃って来る可能性がある。
冷静にエルツは距離をとり始める。そして緑色へと変化するMaster of Magician。
「色が悪いな、早く他の色変わってくれ」
Magician of Greenの特性を考えれば、ウォータースフィアを当てることには適していない
そしてまた変化した。赤衣装を纏いながらじっとエルツを見つめるオートマタの姿。
再びエルツは前へと出る。
これだけ順調に攻撃を重ねられてもまだ二撃。今までの例からして倒すにはあと最低三発は撃ち込む必要がある。
この敵の脅威は攻略法を見つけても、結局ウォータースフィアを当てる瞬間はダメージを食らうリスクが付きまとうということだ。
エルツは冷静にウォータースフィアをヒットさせて属性をコントロールする。
――これで3発目――
茶色のピエロは走り込んでくる。バックステップで攻撃をかわそうとしたその時だった。視界に映る魔法陣の端。
――いつの間にか魔法陣の端まで追いつめられていた――
避けるには左右どちらかしかない。だが敵には慣性予測がある。
――二択か……なら左だ――
そして敵の突進攻撃に対してエルツが左に避けたその時、エルツの左太腿に衝撃が走る。
衝撃に蹲るエルツは体勢を崩し大きく側方に転げる。
――致命的なミス――
だがエルツは幾度と無く繰り広げてきた戦闘経験によって冷静さを保つことができた。
回りこんで冷静に距離をとり、再びウォータースフィアをヒットさせる。
冷静に十秒を凌ぎ、サンダーボルトをヒットさせる
――これで4撃目 そろそろ時間がない 攻めるか―
ふと顔を上げたエルツの前に迫る影。
そこには青衣装を纏ったMaster of Magicianの姿があった。
その姿にふと微笑を漏らすエルツ。
「ウォータースフィア」
エルツの言葉が聞こえているのか、ゆっくりとカウンターのウォータースフィアを発生させるMaster of Magician。
「Cancel」
詠唱キャンセル後、放たれたウォータースフィアを交わす。
刻一刻と、その時が近づきつつあった。
そして作り出された水球に今Master of Magicianの身体が吸い込まれて行く。
――そう、これは必然の結果だ――
「おまえと……戦えて良かった」
そのエルツの言葉が届いたのだろうか。
Master of magicianが動きを止める。減速し停止に向かう世界の中で、今エルツは静かに礼をする。
相手はただの機械人形、エルツはそうは思わなかった。
それはきっと想い込みなのかもしれない。
――今までありがとう――
そしてエルツは真っ白に染まりつつある世界の中で、バトルフィールドからその姿を今消して行くのだった。
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〆カード名
ワンダーロッド
〆分類
武器―杖
〆説明
オートマタが装備していた謎のロッド。オートマタの格好を真似して戦うと何か良い事起こるかも
〆装備効果
五属性魔法が使用可能になる
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