S33 VS Magician of Yellow★Take13
加速する大宇宙の中で魔法陣の中だけは重力という名の法則が与えられ、そこは揺ぎ無い秩序と法によって生まれたバトルフィールドと化す。幾度となく此処を戦場として場数を踏んできたエルツだったが、今回の相手はやはり最終対戦の相手というに相応しいと認めざるを得なかった。
光刻17日目。初めは勝つ事が目的だったその戦いも、いつしか不規則な敵のその攻撃の中から必死に法則性を見つけ出すという分析行動に徹するように変わった。勝つための戦いと分析をするための戦いとではその行動には大きな差が現れる。勝つための戦いとはあくまで非効率な方法・手段は避け、必要最低限の行動でいかに効率よくダメージを与えられるか。そこには自然、効率性が求められてくる。対して分析を目的としたその戦闘では、非効率と思われる方法・手段でもデータを収集する上では何かしらの意義を持つ。たとえ、その内容が敵の前で尻を向けて鼻でピーナッツを食らうというふざけた内容であったとしても、一データとして見れば意義を持つ事だってあるかもしれない。
「いや、それはない」
そんな自らの思考に思わず突っ込みをいれるエルツ。いくらデータ収集の仕方が未定義とはいえ、やり方は考えるべきだろう。未定義だからこそ予め自分なりの定義を練った上でデータ収集に臨む必要がある。
迷走する思考を中断しふと顔を上げるエルツ。
そこには加速する世界の中で、今ゆっくりとその前傾姿勢を上げていく黄鼻のオートマタの姿があった。
――さて、自分なりの攻略方法を切り開かないとな――
ロッドを片手にMagician of Yellowを見据えていたエルツは無言で敵を射程圏内に捉えるために走り込む。
まずは、先制の一撃。強力な返し技を持たないこの敵に対して先制攻撃を決める事はそう難しい事では無い。
問題はその後なのだ。
「Thunder Bolt」
エルツの印言と共に放たれた雷球は直線の軌跡を描くと見事に対象の身体を捉える。オートマタの肢体から手足に向かって迸る電撃。直撃を受けたMagician of Yellowは攻撃者のエルツの姿を視認すると、すかさず後方へ向かって大きく走り出す。
この状態の敵を追ってもMagician of Greenと同様、いくら追っても敵の姿を捉える事は難しい。加えてこの状態のこの敵を追ってはならない理由がもう一つある。それは敵が逃亡する際に仕掛けてくる一つの行動。敵は逃げながらフロートした雷球をこちらの進行軌道にロックするのである。だが、ロックされた雷球はあくまで静止した言わば「点」の攻撃である。それをかわす事は非常に容易く、ただ雷球を避ければいいだけの話だ。初め何も知らなかったエルツはそう踏んで敵をただ追い回した、その結果。逃げながら雷球を設置したMagician of Yellowが突然振り向くその理由を察知出来なかった。
振り向いたMagician of Yellowが取る行動、それは新たなサンダーボルトの発射である。ただし発射されたサンダーボルトはエルツを目掛けたものではない。何もない空中を目掛けて狙われたものだ。だが、その攻撃を発動されたプレーヤーはダメージを免れ得ない。それは何故か。そう、それは雷球のリンクにある。放たれた点と点の攻撃はリンクする事で線となる。初めに置かれた静止した点に対して次弾は動点である。つまりその点と点を結んだ直線はオートマタの身体から離れてからまるでプレーヤーに迫るような軌跡を描くのだ。
そこへ走りこんでいたプレーヤーにとってこの攻撃をかわす事は限りなく難しい。そうした経験則から逃げる相手を追ってはいけないと、エルツは身体で理解していた。だが追わなければ敵もまた動かない。厄介な事に敵はプレーヤーとの間に一つの雷球をロックしたままただじっとこっちの動きの観察に入るのである。
ここからの対応もエルツは色々と方法を試してみた。設置された雷球に対して左から攻めれば左へサンダーボルトのリンク攻撃を仕掛けてくる。右ならば右へのリンク攻撃。そのリンク攻撃が有効となる射程から逃れようと、大きく迂回して別方向から攻撃を仕掛けようとするとMagician of Yellowは必ずプレーヤーが雷球に対して右か左かリンク射程内の二択を迫るような立ち位置を取ってくる。故にこの二択はプレーヤーにとって避けられない選択なのだ。だが、その選択の先に待つものはどちらも明確なダメージ。これほど不自由な選択は無い。
静観を続けるMagician of Yellowを前にただただその均衡を保つエルツ。ここから先の打つ手を考えているものの具体的な策は思い浮かばない。一度進行方向にフェイントを掛け敵のサンダーボルトを誘発する方法も取ってみたが、黄鼻は正確に対応してきた。あくまで敵が対応するのは、始めに仕掛けられた一つ目の雷球に対して右が左かへ深く踏み込んだその瞬間なのである。
右か左がダメなら正面だろうか。いや、正面にはロックされた雷球が行く手を塞いでいる。迂回すれば敵は雷球に対しての立ち位置を変える事で、プレイヤーに不自由な二択を迫ってくる。
「参ったな。本当に打つ手がない」
分析を深めれば深めるほど、敵の完全なるプレイヤー対策の前にエルツは為す術が無い事を知る。ジュダさんがこの敵を前に諦めたというのも納得が行く。
均衡状態を保ったまま気づけば世界は減速を始める。止まり行く世界の中でエルツが討伐の失敗を認識し自ら魔方陣の外へと出る