S31 魔法特訓 サンダーボルト編
五人目の刺客、おそらくこの相手が最後の刺客である。
敵の名はMagician of Yellow。その色が示す属性は雷。敵は雷属性魔法を操りプレイヤーの前に立ちはだかる。
その戦い方はというと、まさに最後を飾るに相応しい戦術を展開する相手だった。攻めと逃げを巧みに使い分けるその戦術には機械人形とは思えない独特のテンポがある。そのテンポがプレイヤーのリズムを大きく狂わせる。
そしてエルツが攻めきれない事には他に大きな理由がもう一つあった。それはこの戦いの肝となる魔法サンダーボルトの特性にある。
雷属性魔法であるサンダーボルト、この魔法はこの世界では非常に変則的な性質を持つ魔法として名が通っている。この魔法の通常射程は三メートル、放たれた魔法エネルギーは三メートル進んだ点において電流を放射しながら直径20cm程の球状のエネルギーとして十秒間滞空し消滅する。基本的には撃って放つというその基本性質は他の魔法とそう変わるところではない。
ではこの魔法の異なる特質とは何なのか。その鍵を握るのがフロートとロック、この二点である。
通常、フロートした魔法エネルギーのロックとは身体周りに浮遊するエネルギーに対して進行方向を固定してやるという意味付けである。だが、このサンダーボルトという魔法に関してのロックとはエネルギーの完全なる固定、つまり停止を意味する。そのためサンダーボルトの魔法エネルギーをロックした場合においてはプレイヤーがエネルギーから離れた場合においてもそのエネルギーはプレイヤーを追う事はなくその場に滞空する事になる。
そして魔法エネルギーがロックされ停止したこの状態こそが、このサンダーボルトの真価なのだ。この状態の魔法エネルギーに対して、二撃目のサンダーボルトを半径三メートル以内に近づけるとフロートさせていた一撃目のエネルギーと反応しそこに電流が発生する。分かりやすく例えるならば、一つのエネルギーならばそれはただの『点』だが、二つのエネルギーが距離三メートル以内という条件を満たした時、それは『線』となるのだ。このエネルギーの相互関係の事を『Link』と呼ぶ。サンダーボルトが変則的と呼ばれる由縁はこのリンクという特性にあるのだ。
今度の敵であるMagician of Yellowは非常に巧みにこのリンクという特性を利用してくるのだ。対してエルツはというと、ここで話は大きな問題へと直面する事になる。
魔法エネルギーのフロートが二つ可能になるのはどの属性においてもLv10からとされている。しかし、エルツの現在のLv9という条件では、フロート可能数は一つである。つまり、エルツは雷属性の真骨頂とも言えるリンクの特性を利用する事が現状出来ないのだ。『線』の攻撃を仕掛けてくる相手に対してエルツは『点』の攻撃しか出来ない。これは大きなハンデである。
「絶対何か攻略法があるはず……」
それでもエルツは諦める事なく、昼間は東門を抜けた街の外壁で一人黙々とサンダーボルトの魔法練習をするのだった。
敵の動きをシミュレートしながら、Magician of Yellowとの戦いを頭の中で忠実に再現する。だが、やはりどう戦っても敵にダメージを与える事が出来ない。射程の短いただの電流の塊を敵に向かって飛ばすだけではあまりに戦略の幅が無さ過ぎる。
何か打開策は無いものか、何か一つのきっかけさえあればそれが攻略に繋がる事だってある。こんな自らの状況にエルツは身に覚えがあった。Magician of Greenとの戦いの際、打つ手が無かった自分を救うきっかけとなったものは何だったか。
ふとエルツの脳裏を過ぎる人物。
「そうだ……ジュダさんに聞けば」
ジュダならばきっとこの最終戦に関するヒントをくれる筈。
咄嗟の閃きを噛みしめるようにエルツは顔を上げると、確かな希望の下に再びロッドを振り始めるのだった。