S27 VS Magician of Brown★Take13
流れる星々、加速してゆく大宇宙の中で舞う二つのシルエット。
大胆に間合いを詰め迫り来るオートマタに対して必至に逃げ惑うエルツ。
ここへ来るまでに頭の中でシミュレーションは何度も行ってきた。だが心理的に追われているという意識を植え付けられた今、頭では立ち回りを理解していても身体が逃げてしまう。
――逃げちゃ駄目だ――
そう頭の中で反復し咄嗟に振り向いたエルツはオートマタに向かってロッドを構える。
猛然と突進して来たオートマタはエルツを有効射程内に捉えると、走り込みながらロッドを振り下ろす。
その放たれた石弾をエルツは一目も離さずしっかりと視界内に捉えていた。
――何見てるんだ……動け! 後ろに飛ぶんだって!――
真正面から迫り来る石弾に対して本能的に後ろへ飛ぶ事を拒絶する身体。その一瞬の判断に取られた時間がここでは致命的だった。
まともに石弾の直撃を受けたエルツは、その場で衝撃に蹲る。
「何やってるんだよ……くそ」
だが蹲っているエルツに対してオートマタは容赦の色など微塵も見せない。すかさず第二撃をエルツに打ち込むために翳したロッドを振り下ろす。
視界に迫ってくる石弾の軌跡をしっかりと目で追いながらまたしても直撃を受けてその場に転がるエルツ。
「馬鹿か……何で身体が動かないんだ」
頭ではいくら理解していてもそれが本能的な恐怖である以上、事はそう容易くない。戦いながらエルツは自らの未熟さを痛感していた。
「要はタイミングだ……タイミングの問題なんだ」
そう呟きながらもエルツは必死に恐怖と戦っていた。それがただのタイミングの問題であるならば、エルツがコツを掴むのは時間の問題なのだ。
だが、エルツが今戦っているのは根源的な人間が覚える恐怖。迫る石弾を前にバックステップはおろか、後退りの一歩さえ今のエルツにとっては至難の行為だった。
まるで、それは断崖絶壁から遥か下方の海流へ飛び込む人間の心境というべきか、踏み出しの一歩をするためにエルツは必死に自分自身と戦っているのだ。
放たれた石弾を前に再び硬直する身体。またしても直撃を受けたエルツは為す術も無いまま第二撃もその身に受け、転がりながら敵と距離を取る。
気づけば赤点滅を始める自らの身体を見て、視線を落とすエルツ。
――もう終わりなのか――
何一つ変わっていない。ここへ来るまでに重ねてきたシミューレーションは何一つ活きていない。シミューレーションと実戦は違う。それは百も承知だったが、改めて実戦の厳しさをエルツは痛感させられていた。
再び視界に駆け込んでくる茶鼻のオートマタの姿。あと一撃を受ければそこで終了だ。有効射程内に入ったオートマタは掲げた腕を振り下ろす。
放たれた石弾を前にエルツはただしっかりとその軌跡を見つめていた。幾度と無く見てきたその軌跡。まるでスローモーションのようにゆっくりと迫る石弾。後はその遅れた時間の中で、自分が動けるか。それだけだ。
両脚を大きくしならせ、そして頭の中で念じる。
――飛べ……飛べ!――
何度も繰り返して念じ、そしてエルツは大声で叫んだ。
「飛べ!」
その瞬間後方へ大きくステップする身体。あまりにも唐突で不可解なその出来事を瞬時に理解する術など無い。錯綜する情報に戸惑っている間も無く、スローになった世界は完全に時を取り戻し再び世界が動き始める。そんな世界の中に映るのは今もなお、眼前に迫る石弾の姿だった。
飛んできた石弾が肉薄し、まさにヒットすると思われたその瞬間。石弾は空中で突然砂となって崩れ落ちた。それはまるで煙のように薄い砂幕となり視界の中で散って行く。
「石弾が消えた……」
エルツがその現象を前に呆然していると、エルツの肩元を石弾が掠めて行った。
目の前では茶鼻のオートマタがロッドを振り翳したところだった。
――油断した……一部の隙も見せては駄目だ――
自らの緩んだ心を戒め、再びオートマタから距離を取る。依然赤点滅を続ける自らの身体を今一度見つめ、置かれている危機的状況を再確認する。そして今自分が何を為すべきか、その思考を結論へと結びつけて行く。
――先の動きでバックステップのタイミングは掴んだ。後は攻撃するタイミングだ――
視界の中でフロートを始めるオートマタ。
ストーンブリッツの発動所要時間は三秒、その時間を考慮するとこちらもすぐに攻撃できる体勢を整えるならフロートは必須だ。フロートするタイミングとしては今この時を逃しては無いだろう。
「Stone Blitz……Float」
エルツの身体回りで浮遊する一つの石弾。その石弾を正面へ向けてロックしたエルツは敵の突進に対して備える。もう既に後が無くなったエルツにとってここからの動作は全てが命懸けだ。
二つの石弾のフロートを終えたオートマタはまるで解き放たれた弾丸のように走り寄る。そして走りながらロッドを振り翳したオートマタは有効射程へ入ると同時に石弾をエルツ目掛けて発射する。
その動きを正確に把握していたエルツは再び声を張り上げる。
「後ろへ飛べ!」
まるで、自分の身体に命令するかのように声を張り上げたエルツはバックステップで敵の石弾を回避する。だが敵の周囲にはもう一つの石弾が残っている。再び走り出して有効射程内に入ったオートマタのもう一撃をエルツは極限状態で習得しつつあるバックステップで回避すると、今度はこちらの番だと言わんばかりにロッドを振り上げる。
「くらえ!」
解き放たれたエルツの石弾はオートマタを真芯で捉える。だが直撃を食らったはずのオートマタにはリアクションは全く見られない。
――攻撃は成功したんだ。確実に効いているはず――
そう信じてエルツは再び距離を取り、敵のフロートを見守りながらこちらも石弾の生成行動を始める。
ここでようやく一巡する攻撃のパターン。ここまでの時間は一体どれ程なのか。だが迫る敵に対して冷静にそれを分析している暇は無い。先制攻撃と今の一撃を合わせて、残り最低三回は攻撃を加える必要があるだろう。
再び走り出したオートマタを前にエルツはなるべく冷静に対応できるよう平常心を保つように努める。
有効射程へと入った茶鼻はロッドを振り下ろしエルツへと石弾を発射。
初めは無秩序に見えたその攻撃も、一度パターンを作ると非常に機械的な行動である事がよく見えてくる。その動きの一部始終を冷静に観察しながら的確に魔法ダメージを与えていくエルツ。
何事も体験だ。実体験に勝る経験値はこの世に無い。
放たれた石弾を前に、視界の中で砂と化して消え行くその砂幕を通してエルツは相対する敵に微笑みかける。
「いい経験になったよ……ありがとう」
その微笑みと共に放たれた石弾を受けたオートマタは静かに動きを止める。
失速してゆく大宇宙の中で、オートマタは静かに膝を着くと粒子化を始め光と共に散って行く。
何度見てもその光景は儚く、互いに全力を尽くした相手が散って行くその姿は美しかった。
▼入手カード▼
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〆カード名
ピエロスロップス
〆分類
防具−脚
〆説明
オートマタが装備していたピエロの脚着。装備したら何かいい事起きるかな?
〆装備効果
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▼次回更新予定日:11/8▼