S24 屋台巡り with Chopper & Shuraku & Will
Magician of Brownとの九回目の敗戦を喫したエルツは久々にコミュニティルームへと顔を見せていた。部屋にはソファーで寛ぐウィル、シュラク、チョッパーの三人の姿。テーブルの上には菓子が散乱し、部屋は子供達によって随分と散らかされていた。
水風船をテーブルの上で弾ませながら水飴を舐める子供達の元へエルツが姿を見せると、彼らは一斉にエルツに向かって叫ぶ。
「エルツだ、おごって!」
「久々に出会って第一声がそれか」
子供達に交じってエルツがソファーに腰掛けると、ウィルは水風船をテーブルに叩きつけながらエルツに奢れと連呼する。
「ウィル、落ち着け。ていうか、それ割れそうで怖いから止めて」
期待の目を向けてくる子供達を前にエルツは溜息を深く吐くと決心したように口を開く。
「いいよ、奢ってあげるからとりあえず皆水風船を止めろ」
エルツの言葉にピタリと水風船のバウンドが止まる。
こんな祭刻の陽気で子供達も気持ちが高揚しているのだろう。
「仕方ない、それじゃ部屋片付けるの手伝ったら少しお駄賃をあげるよ」
エルツの言葉に水風船を投げ出して部屋の掃除を始める子供達。
そうして、エルツは歓声を上げる子供達を連れて広場の屋台を回る事になったのだった。
エルツはあらかじめ子供達に見えないところで祭貨を購入すると、コミュニティセンター前の水飴屋で真っ白なちり紙を分けてもらい、僅かな祭貨をそれに包んで子供達に渡すのだった。
「それ以上はあげないから大事に使うんだぞ」
渡した祭貨は一人につき十枚。ELKに換算すればそれは一日の食事代くらいにはなるだろう。本当は五枚と悩んだのだが、折角の祭刻なのだからと少し甘い気持ちが出てしまったのだ。
歓声を上げてエルツの手からお駄賃をひったくったウィルはそのまま水飴屋に直行し大声で叫ぶ。
「おっちゃん、全種類一本!」
それを聞いて絵に描いたように派手にずっこけるエルツ。
「お前さっきも食ってただろ!」
使い方は個人の自由とは言え、口を出さずには居られないエルツだった。
何となく嫌な予感が過ぎりつつも、両手一杯に水飴を抱えるウィルを呼び戻して、それから四人で屋台を巡り始める。
それからはエルツにとって悪夢だった。コルク射的屋に向かった子供達は丸棚に並べられた景品を前に一生懸命に落とそうと必至になって騒いでいたが、ウィルはここでとんでもない行動に一人躍り出た。
なかなか落ちない景品を前にしびれを切らしたウィルはふとPBを開くと、緑色の鉱石のついたロッドを取り出す。今思えばここで奴を止めるべきだった。
徐に棚と向き合ったウィルはロッドを棚に向かって振り翳すと大声で叫んだ。
「Air Cutter!!」
振り下ろされたロッドから放たれた衝撃派が、激しい音を立てて屋台の商品をまとめて薙ぎ倒す。
「おっちゃん景品ちょうだい」
まるで罪悪感の無い無邪気な笑顔でそう語りかけるウィルの首根っこを掴み、慌てて屋台の店主に謝罪するエルツ。
「すみません、本当にすみません!お前も謝れこの馬鹿野郎!」
不服そうなウィルの後ろで大爆笑するシュラクとチョッパー。周囲の冒険者が皆唖然とする中、屋台に若店主は笑顔で頭を下げるエルツとウィルを見つめていた。
「いや、もう長い事やってるけど景品をエアカッターで打ち落とすなんて真似したのは坊主が初めてだな」
「本当にすみません!並べ直すの手伝いますから!」
そうして、散々な目に遭ったエルツは周囲の視線に晒され赤面しながらその場を離れると、大きく櫓を回り東門橋へと逃れるのだった。




