S20 魔法特訓 ウォータースフィア編
DIFOREで休憩を終えた一同は再びオートマタ戦への挑戦に燃え上がる。リベンジに燃える者、未知の敵との対戦に高鳴る鼓動を抑えきれない者とその表情は何れも希望に輝いていた。
「ドキドキするね」
「うん、でもちょっと怖いかも」
ユミルとペルシアがそんな会話をしながら港へと向かう中、一人港と逆方向へと足を向けるエルツ。そんなエルツの足取りに気付いたアリエスがふと声を掛ける。
「あれ、エルツさんどこ行くんです? 港はこっちですよ」
振り返ったエルツは、ある思惑で動いていた。
皆と逆方向へと身体を向けながら、賑やかな繁華街の騒音に乗せて今その思惑を語り始める。
「うん、ちょっと一時間くらい外でウォーターロッドの練習してこようと思って。今のままじゃ立ち回りは理解したもののロッドが使いこなせてないと絶対勝てないからさ」
「なるほど、それも確かに有効な手ですね。わかりました、先に行った皆には伝えておきます。また後で会いましょう」とアリエス。
「ありがとうアリエス、さっきDIFOREで言えば良かったな」
そんな言葉をエルツとアリエスが交わしていると、浴衣を羽織ったポンキチがケヴィンに脇で首を絞められながらやってきた。
「あれお兄様どうしたんです。オートマタ戦行かないんですか?」
「うん、ちょっと外でウォーターロッドの練習してくるよ」
その言葉にケヴィンの腕を払いのけたポンキチは声を張り上げる。
「男は挑戦あるのみ!練習なんてチャライでしお兄様!!」
「お前が一番チャライんだよ」とケヴィンの突っ込みを受けて真面目な顔で「負け犬」と返すポンキチ。
猛然と逃げるポンキチを全力で追い掛けるケヴィンの姿に既視感を覚えながらそうしてエルツは仲間達と別れ、一人別行動をするのだった。
仲間と別れたエルツは人通りの多い繁華街を一人歩きながらまず魔法店LUNA LEEへと足を運び、ウォーターロッドを購入するのだった。購入後、エルツは広場を通り、東門橋を抜けて街から出てすぐの街の外壁へと一人歩を進めた。
外壁は薄明るくライトアップされており、練習するには充分な明るさを持っていた。位置的にはちょうど今朝ジュダから魔法講習を受けた辺りに落ち着いたエルツは、そこでウォーターロッドとコカトリス装備に変更すると一人魔法の練習を始める。
まずはウォータースフィアの発動に慣れる事から始めよう。五秒という発動時間のタイミングを身体で覚えなければ、今後オートマタ戦に限らず戦闘で使う事は困難だからだ。
「Water Sphere」
エルツの発動と同時に、生成され始める水球。次第にその大きさを増して行く水球を見つめながらエルツは五メートル程離れた街の外壁に向かってロッドを指し向ける。
「飛んでけ!」
エルツの掛け声と共に放たれた水球。だが水球は外壁に届く前に地面へと落下し四散する。その光景に首を傾げるエルツ。
「……もう一度やってみるか」
再詠唱時間の十秒間を待ち、再び外壁に向かって水球を放つエルツ。だがまたしても水球は外壁の手前で地面へと落下する。
「何でだ、ウォータースフィアの射程は五メートルだから届くはずなのに」
エルツは以前に自らがまとめたメモ帳を振り返り、その内容を確認し始める。
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水属性魔法
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▼Water Sphere 消費SP:5
印言 Water Sphere<ウォータースフィア>
刻印 WS
ダメージ D(魔力+1)*Lv補正:水属性ダメージ
効果範囲 単体
軌道 直線(縦方向:弧軌道)
射程 5m
射出速度 時速60km*魔力補正
発動所要時間 5秒
再発動所要時間 10秒
特性 スタン1,溜め撃ち可
水球を発生させ対象を攻撃。
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その内容を確認しながら呟くエルツ。
「特に問題は無さそうなんだけどな……いや、待てよ」
その時エルツは設定を記したある記述へと視線を落とす。
――軌道 直線(縦方向:弧軌道)――
「そうか……なるほど。そういう事か」
その事実に気付いたエルツは再びロッドを構え、外壁へと身体を向ける。
「Water Sphere」
そしてエルツの印言と共に現れた水球を外壁目掛けて解き放つ。
すると放たれた水球は今回は見事外壁へと着弾した。外壁に散った水球の跡では水滴が滴っていた。
その様子を見つめながらエルツは納得したように頷く。
「なるほど、つまりこれはコルク射的と一緒なんだ」
コルク射的と一緒、その言葉が何を示すのか。
今までエルツは、目標を捉えるために外壁に対して垂直にロッドを指し向けていた。それに対して、今回エルツは目標点に向けて垂直でなくやや上方を目掛けて打ち込んだのである。それは何故か。
その理由はこのウォータースフィアという魔法が描く軌道に問題がある。ウォータースフィアの軌道はファイアボールのように直線的な軌道を描く魔法と違って放物線を描くのである。故に対象に対して真っ直ぐにロッドを向けると、その着弾点は目標地点より手前で落下する事になるのだ。
その事実に気づけた事はエルツにとって大きな収穫だった。
それから、エルツは暫く魔法軌道に慣れるため何度も練習を重ねると、最後にもう一つ練習しておきたかった内容へと手を掛け始める。
頭の中で敵の動きをシミュレートしながら、そのタイミングを掴むために何度も何度もその動きを重ねる。
薄暗い街の外壁には時間を忘れて練習を重ねるそんなエルツの影が映し出されていた。