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ARCADIA ver.openβ≪Playing by Elz≫  作者: Wiz Craft
〆 第五章 『双華祭』
151/242

 S18 神童

 仲間の帰還を待っていたエルツの元へ一早く戻ってきたのはペルシアだった。

 ペルシアはエルツの姿を見つけると、笑顔で手を振り戦果を報告する。

 

「やりました。クリアできました」


 満面の笑みを浮かべるペルシアをエルツは称えると、自らもまた戦果を報告する。

 

「こっちは有り得ないくらいの惨敗だったよ……正直あいつとはもう戦いたくない」

「そ、そんなに強かったんですか?」


 不安げな表情を見せるペルシアを前にエルツはあの青鼻の動きを思い返していた。

 吊り上げられた身体でエルツが必死にもがいていたあの時、敵はエルツの身体を水球の中に閉じ込めそのまま魔法陣の外へと向かって解き放った。

 まさか、機械人形にそんな技巧的な攻撃を受けるとは夢にも思っていなかったエルツは暫し放心状態から抜け出せず、現に今ペルシアがやってくるまでずっと一人で呆けていたのだった。

 二人でそんな会話をしていると、続いてユミルとアリエスが光と共に舞い戻ってきた。二人はエルツとペルシアの姿を見掛けると、彼らもまた満面の笑みを浮かべた。

 

「やったよ、わたしクリアできた!」


 ユミルの言葉に周囲の冒険者の幾人かが振り向いたが、そんな事は全く気にせず褒め称えあう一同。アリエスもまた言葉には出さないもののその喜びを噛みしめているようだった。

 

「アリエス、おめでとう」

「ありがとうございます」


 エルツの言葉に礼を言うアリエス。

 そんな中、最後の組としておそらく時間制限ギリギリまで戦っていたであろう残りの二人が姿を現した。浮かない表情のトマとミサ。そんな二人に一同が声を掛けるとトマは残念そうに口を開いた。

 

「時間切れになってしまったよ。皆はクリアできたのかい?」


 その問い掛けにアリエス達が頷くと、トマは笑顔を見せて「おめでとう」と彼らのクリアを祝福した。そんなトマの傍らで俯いたままのミサにユミルが声を掛ける。

 

「ミサは……失敗だったの?」

「ええ……ちょっとあれは私には無理みたい」


 ミサのその顔色を見てペルシアが心配そうに呟く。

 

「ミサさんも失敗なの? エルツさんも失敗だって。さっきもうあいつとは戦いたくないってエルツさんも言ってたの」


 ペルシアのその言葉に皆がエルツとミサに視線を集める。

 

「そんなに強敵なんですか……?」とアリエスもまた不安げにエルツに尋ねてきた。

「なんていうか……詰んでた」


 エルツの言葉に皆が次なる相手に恐怖を覚えたその時、人込みを掻き分けてポンキチとケヴィンが一同の元へとやってきた。


「こんなとこに居たんですか、探しましたよ」と、ポンキチ。

「くそ、また失敗ヘマしちまった」と悔しそうに呟くケヴィン。


 ケヴィンはどうやらまた失敗に終わったようだった。悔しそうなケヴィンの傍らでニヤニヤと笑みを浮かべるポンキチはエルツ達に戦果を尋ねてきた。

 

「お兄様、次戦の相手とやりました?」

「やったよ」


 エルツの返答にその先を促すポンキチ。

 

「惨敗だった。ポンキチはどうだった?」

「いや、戦いながら爆笑してました」と真面目な顔で返答するポンキチ。


 そのポンキチの表情に吹き出すエルツ。


「何だよそれ」

「あんなに笑ったのは久々ですぜ。結果は勿論惨敗ですけどね」

 

 話を聞くと、どうやらポンキチもまた強制場外退去を喰らった口らしい。どこから撃っても倍返ししてくるMagician of Blueに対してしびれを切らしてロッドで殴りかかったという。後は想像通り、敵に捕まり吊り上げられ水球ごと場外へ弾き飛ばされたという話だった。

 

「ロッドで殴り掛かるって馬鹿か。物理攻撃無効だって戦う前に話してたじゃないか」

「いや、やられっぱなしは癪だったもんで」


 そんな二人の会話にミサがやってきた。

 

「こっちの攻撃手段がウォータースフィアしかない以上、あの反射攻撃は脅威ですよね。攻撃を跳ね返されない方法が何かあるんでしょうか」

「とりあえず二メートルの近距離から撃っても対応してきましたぜ奴は」


 そう語るポンキチ。二メートルの距離から撃って対応されるという事はまずまともに撃ったら跳ね返されると考えて間違いない。

 

「試してないけどじゃあ死角から撃ってみるとか」

「そいつも無理ですお兄様。奴は自分から動かない代わりにじっとこっちに対して正面向けてきましたから」


 それも無理となると、他に方法が思い浮かばない。イベントとして組まれている以上、必ず攻略法は存在するのだろうが、その方法が皆目見当もつかない。

 エルツ達がそんな議論を交わしていたその時だった。

 立ち昇り消えて行く多くの光の中で、ピエロから放たれた一つの白光。そこから現れた小さな人影に冒険者達は視線を集め始める。その様子にエルツ達も何事かと視線を向け始める。

 そこには小さな子供の影があった。


「ピエロの子供……?」 

 

 全身をピエロの赤衣装で包んだおそらくウィル達よりも小さなその子供は可愛らしいモーションでてくてくと歩くと、腰元に備え付けていたロッドを振り翳しくるくると回って見せた。そして五色の色が織り交ざった不思議な輝きを持ったそのロッドが小さな腕によって振り下ろされると、赤い輝きを放ったロッドから、そこに一つの火球が出現する。


「何だろあの子……何かのイベントかな」


 周囲の冒険者が視線を集める中、それから子供はさらに二つの火球を出現させると計三つの火球をまるでお手玉のように回し始める。

 拍手が巻き起こる中、周囲の冒険者から呟きが漏れ始める。

 

「あれ……MGのApolonじゃないか?」

「そうだよ、あれApolonだよ!PBで名前確認してみろよ」


 アポロンと周囲で騒がれるその子供は、周囲からそんな囁きが漏れ始めると、お手玉にしていた火球をポンと消滅させ、可愛らしくお辞儀すると小走りにその場から走り去り繁華街の人込みの中へと消えて行った。

 残されたエルツ達はただただその場に立ち尽くしその後姿を視線で追う。なんだかとても不思議な印象を受ける子供だった。


「あの子って有名なのかな?」


 エルツの言葉にアリエスが珍しく興奮した様子で口を開いた。

 

「あの有名なMaster Guardianの団員ですよ。神童アポロンと言えばまずこの世界で知らない人は居ませんよ。滅多に姿を見かけない人なんですけど、お祭りで街に戻って来てたんですね」

「そんなすごい子だったんだ……」


 予想しなかった人物との遭遇に高鳴る胸。

 周囲の異常な盛り上がりからあの子が持つカリスマ的なその雰囲気は充分伝わってきた。

 神童アポロン、その日彼のその後姿は印象的に一同の目に焼き付けられるのだった。

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