S16 【考察会】VS Magician of Red
港へと帰還したエルツ達は互いに戦果を報告し合う。その顔に満面の笑みを浮かべる者、悔しそうな表情を見せる者と結果はその表情を見れば一目瞭然だった。
「くそ、あと一発叩き込めりゃ勝てたのに!」
悔しそうに憤るケヴィン。その隣で残念そうな空笑いを見せるユミル。
ポンキチは綿装備にピエロキャップを被ってまるでケヴィンを挑発するかのようにオートマタの動きを真似して見せていた。
結局見事オートマタを攻略出来たのは、エルツとポンキチ、それからミサの三人だけであった。残りのメンバーは惜しくも時間内に立ち回りをこなす事が出来ず失敗に終わってしまったようだった。
「次は確実に勝てるぜ、要領はもう分かった」
「ふっ、負けた奴が勝てるぜ、とか格好つけても飛んだ笑い種ですぜ」
そう言葉を浴びせて猛然とダッシュして逃げるポンキチをケヴィンが全力で追いかけ、二人の姿が消えるとエルツ達もゆっくりと冒険者に溢れたその場を離れ始める。
女子勢が、イベントをクリアしたミサに色々とコツを尋ねる中、エルツは肩を落としていたアリエスの肩をポンポンと叩いた。
「あ、申し訳ないです。やっぱり悔しくて」
「次は絶対大丈夫だよ」
彼もまたエルツの言葉に空笑いを見せ再戦での勝利を誓うのだった。
それから一同は繁華街を通り広場へ。コミュニティセンター前のスペースで席を取ったエルツ達はそこで先の戦いの反省会を始めるのだった。
先のオートマタ戦での自らの反省点を次々と述べ始める敗戦者達。
「距離をとって離れるまでは良かったんですけど、敵の攻撃を避けながらフロートする作業がどうも上手く行かなくて。それで二発目の火球を直撃されてしまったんですよね。そこで動揺して後はもうずるずるでしたよ」とアリエス。
「わたしは二つめの火球を避けてから火球を作って攻撃しに行ったら、もう相手が火球を作っててこっちが撃った頃にはもう向こうも迎撃体勢に入ってて……距離を取ろうとしたその時に攻撃されました」
ユミルの言葉に「私も同じです」と手を挙げるペルシア。
「僕はフロートのタイミングは上手く行ったんだけど、攻撃の方向が上手く定まらなくてね。しっかり狙おうとしている合間にも敵が火球を作り始めて、動揺して方向が定まらないまま結局撃ってしまったんだけど。やっぱりなかなか難しいね」
「いや、フロートのタイミング掴んでるならトマさん全然大丈夫ですよ。この赤鼻のオートマタ戦での鍵は、フロートのタイミングですから。狙いが定まらないっていうのは要練習です」
トマにそう言葉を返すエルツ。
「やっぱり、問題点はそこなんですよね。まだトマさん以外、僕らはフロートするタイミングが掴めてない事が最も大きな敗因ですよね」
「さっきアリエスさんは、敵の攻撃を避けながらフロートするっておっしゃいましたけど、それなら完全に射程外で火球を生成されてみてはどうですか?」
ミサの言葉にふと顔を上げるアリエス。
「なるほど、そうか。よく考えれば別に射程のギリギリで攻撃を誘導しながらフロートする必要はないですね。作ってから射程内に入れば良かったのか、動揺して頭がどうかしてました」
「ただその場合、射程外での行動時間が長いと最終的に時間切れになる可能性があるから注意しないと」とエルツ。
エルツの場合は射程ギリギリでフロートをしたため、エルツが生成している間に火球の生成を終えたオートマタが射程距離まで詰め寄り攻撃をしてきた。かわすには充分な距離があったため、エルツは冷静に対応出来たが確かに心理的に動揺すればそれも難しくなる。
ならば、少し時間はとってしまうがミサの言う通り、完全な射程外でゆっくりと落ち着いて火球を生成した方が安全かもしれない。
「私は射程外で火球をフロートしてから敵の間合いに入りましたが、その方法でもクリアは間に合いました。ただ時間的には本当にギリギリだったと思います」
「時間との勝負が厳しくなるかもしれませんが、それが安全策かもしれませんね」
ミサの言葉にそう続けるアリエス。
どうやら、Magician of Redへの対抗策は固まったようだった。そんな中、話を聞いていたペルシアがふと呟きを漏らす。
「でも、エルツさんもミサさんもすごいですね。みんなで対策練ったらすぐにそれを実践してクリアしちゃうなんて」
「自分の場合はもう三度目だったから」とエルツ。
昨日の二回の敗戦があったからこそ、敵の手の内を完全に把握出来ていたという事もある。
謙遜して首を振るミサを見つめながらふとエルツは口を開く。
「でも、これだけ苦戦して倒したのに次が控えてるってのがこのイベントの怖いところだよ」
「次って何ですか?」とペルシア。
そう、このイベントには恐ろしい事に続きがあるのだ。
「ジュダさんの書き込みに書いてあったんだけど、赤鼻のあのMagician of Redを倒すと今度は青いバージョンのMagician of Blueっていうのが出てくるらしいんだ。今度は互いにウォーターロッドを持っての制限バトルらしいんだけど、その難易度が赤鼻以上に難しいらしい」
「何でもウォータースフィアを巧みに使ってくるという話ですけど、怖い反面この目で見てみたいですね。私の場合は普段から水属性魔法使ってるので是非参考にしたいです」
アリエスもあの書き込みを見ていたのか、そう語ると静かに溜息をついた。
「そのためにも、次でクリアしたいところです」
その言葉に頷く一同。各々の目的は一致している。
次の対戦に向けての準備はそれぞれ整った。
エルツにとっては次は未知の対戦である。一体Magician of Blueとはどんな相手なのか。それを想像する事は、ちょっとした怖いもの見たさにも近い心境だった。
次戦に向けて席を立つ一同。その戦果が笑顔に包まれたものになるようにと、一同はただただそう願っていた。